恐愛ナマコにストーカーされて、常識はずれな星に落とされました

未知 道

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21.マリアside ~罪悪感~

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 食事の用意が出来て、外で遊んでいるデールを探した。
 家から少し離れた木の影に、小さな背が見える。

「デ……――」
「……ヒック、ヒック! ぅう、コール……。ごめん、ごめん……ひとりにして、ごめん……」

 デールは、その細く小さな肩を震わせ、泣いている。

【コール】とは、ナマコ神の化身につけた呼び名だと、デールは言っていた。
 本人からは【ナマシコ~ル】と呼んで欲しいと言われていたらしいが……「そんなの、長くて言いづらいから、噛みそうでしょ? それで、未だにコールって呼んでるの。コールも、言いづらいからって、僕のことデール呼びだしね」と言ってから、少し間を置き。

「……コールってめちゃくちゃ泣き虫でさ。僕が疲れたから帰るって言っただけで、いっぱい泣いて『ひとりにしないで、デールがずっと側にいなきゃ。寂しくて、死んじゃう』ってさぁ~。本当、あんなのが神の化身とか……笑っちゃうよね」と、柔らかな笑顔を浮かべ。私に伝えてきたのだ。

 いま思えば、その笑顔は――【愛している者】に向ける類のものだった。

 デールは、此処へと勝手に連れて来た私に対し。責めることを一度も言ったことは無い。更には、泣く姿を見せたことも無かった。

 だから、私は……。デールは、向こうの世界に良い思い出が無いのだと思っていた。
 でも、それは勘違いだったのだ――。


 そっと家に戻り。もう何品か、おかずを作る。

 暫くして、私のいるキッチンに、デールがヒョコッと顔を出し。「あっ! なんか今日、いっぱいある~! 嬉しい!」とニコニコと笑った。
 先ほどの様子を微塵も見せないその姿に、胸の中に重たい鉛が乗ったような……そんな感覚がした。



 ********


「マリアさん。じゃあ、行ってくる」
「ええ」

 けど、川見さんはじっと私を見ていて。一向に動こうとしない。どうしたのだろうと、首を傾げた。

「お母さん、そこは『行ってらっしゃい、ダーリン! チュッ♡』って、頬にキスするんだよ!」
「ばっ……! なに言ってんだ! この、ませガキが!!」
「お母さん、唯おじさんにいじめられる~!」

 デールが、サッと私の後ろに隠れる。川見さんが唸るような声を上げた後、ため息をつき。デールを追うのを止めた。
 でも、川見さんはチラチラと私を見て、心なしか期待したような顔を向けてくる。

(よく分からないけど……。この世界では、そういう見送りが普通なのかしら?)

 デールは川見さんとよく話をしているから、それを知っていたのかもしれない。

 川見さんに近付いて――。

「行ってらっしゃい、ダーリン!」

 そう言ってから、背伸びをし。日に焼けた健康的な肌へと、チュッと音を立ててキスをした。

 頬にキスは、初めてしたけど。意外と、上手く鳴るものだと安心する。
 音を鳴らすまでが大事だとしたら。上手く出来ない場合、何度もしなきゃいけない。それはきっと、口がとても疲れることだろう。

 背伸びを止めて。上手くいって良かったと思い、ホッと息をつくように下を向いた。


 すると、直ぐに――……ボダボダボダと、液体らしきものが大量に落ちてきて、私が立つ地面の正面辺りを濡らしている。

「……?」

 雨でも降ってきたのかと、上を見ると――大量な鼻血を出している川見さんが、私の視界に映った。

「あはっ! あははははははーーー!! た、唯おじさっ……! それ……! ぶはっ! あっははははははーー!!」
「え? えっ……? か、川見さん!? たくさん血が……!」
「……っ、だ、大丈夫。ちょっと、緊張で……」

(緊張……。いくら優秀な医者でも、患者を見に行く時は緊張してしまうのね)

 川見さんは、都会にいる難病を持つ子供の診察をしに行くようなのだ。
 非常に急のことだったが、その子供の父親から「川見先生だったら、治せるかもしれないんです。診るだけでも、診るだけでも……お願いします!」と泣きながら頼まれ。医者として、断ることは出来なかったという。

「じゃ、じゃあ、花見までには帰るから……行ってくる」
「えっ? せめて、血を止めてから……!」
「これは、大丈夫だ……」
「あはははっ! 頭に血が上っちゃっただけだもんね~! 唯おじさん! 深呼吸しなよ、深呼吸~」

 ハンカチで鼻を押さえている川見さんは、デールをキッと睨み付けたが。その近くにいる私を見て、慌てた様子でふらふらと去って行った。

 デールは笑いが止まらないようで。長い時間、ずっとヒーヒーと笑っていた。

 それがどうしてなのか、さっぱり分からなくて――「私の見送りは、失敗してしまったの?」と笑いが収まったデールに聞いたが。
 デールは、再び大爆笑し「成功、成功だよ! 大成功!!」としか言わなかった。

 だから、余計に分からなくなり。だから暫くの間、必死に考え。最終的に行き着いた答えは――『この難解な状況を理解するのは、私には出来ない』ということだった。


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