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14.失くすのは、もう嫌だけど……
しおりを挟む『……デール。我との約束は、どうした?』
「ひっ! あぁ……っ、お、俺……」
カラフルさんが、血まみれになってて――。これは、夢?
崩れ落ちたカラフルさんから、俺は放り出され、腰を打った。
けど、腰の痛みよりも。冷たい声を出しているシコ様から、なんとか距離を取ろうと……地面をズリズリと這いずる。
『……はぁ、仕方ない。声帯だけに留まらず――我ではない者を映す目も、我ではない者の声を聞く耳も、我ではない者に縋り、逃げようとする手も……全てを失くしてしまおう』
(あ、れ……? 目が……――)
シコ様の目……。青だった、右目が――赤になっていた。
『そうすれば、デールが頼れるのは……我だけになるだろう?』
「――ッ! ま、まっ……て!」
高速で、鋭利なものが迫って来て――。
当たると思った時、グイッと何かに引っ張られた。
そのお陰で。鋭利なものは、俺のギリギリ横を通過していく。
「は、はぁ……っ! 危ない、ところでしたわ……」
「……え?」
カラフルさんが、再び俺を抱えている。そして直ぐに、走り出した。
『――チッ! 小癪な。瞬時に、急所を外しておったか……』
後ろを見ると、憤怒の表情を浮かべたシコ様が。こちらを――いや、カラフルさんを睨んでいる。
「カラフル、さん……。身体、大丈夫なの?」
「さっき、言いましたでしょう? わたくしは、強い家系の生まれなんですのよ。怪我を負っても、即死でない限り。すぐ、治りますの」
「そこまで、聞いてないよおぉ~! グシュッ、グシュッ……」
「ちょっと! 今、鼻水垂らしました!? なにか、わたくしの首にかかりましたわよっ!?」
「うん、鼻水だよお~」
「やめて! 汚いですわっ! 今は、出さずに啜りなさいよ!!」
カラフルさんと、ギャーギャー言っているうちに。例の泉に着いた。
「貴方の、帰る場所を思い浮かべて」
「帰る、場所……」
(帰る場所? あのアパート? いや、俺の帰る場所は――)
パッと、小さな家のビジョンが浮かんだ。
それにより、その場所が泉に映る。
え? 俺、こんなとこ……知らない。
『デール!!』
「――ッ!?」
フラフラとした足取りのシコ様が、歩み寄ってくる――。
先ほどは、右目だけだったのに。今は、両目が赤くなっている。あれは、まさか……淀みのせいだろうか?
「さぁ、息を止めて!」
「カ、カラフルさん……は?」
「わたくしは、ここに残りますわ」
カラフルさんは、死ぬつもりかもしれない。だって、俺を逃がしたカラフルさんを、シコ様が逃がすとは思えない。
『……デー、ル、行くな……。もう、我を置いて、何処かに行かないで、くれ……』
「シコ様……」
ポロポロと涙を流し、懇願しているシコ様を見て。俺の判断が、間違っているのかと一瞬思ったが――。
『や、はり、その、女のせいなのだな? 前から、目障りだった。デールを誑かすような言葉を、かけていたのも、我が知らぬと思ったか……? だから、デールは我の元から、去ると言う……。もっと、早くに殺しておくべきだった。何か、デールに大それたことをしたら、殺そうと決めていたが――この前、デールと、会っていた時にでも……。八つ裂きにし、苦しめ、殺してやれば……っ』
俺の嫌な予感は、当たっていた。
もし、カラフルさんが医者を呼ぶなり何なりして、シコ様に一言いったなら――カラフルさんは、その場で殺されていたのだろう。
「――それだから、だよ」
『……な、に?』
「お前がっ! 自分の気持ちばかり、押し付けるから! いつも、いつも、俺の考え……ちゃんと聞かないじゃんか! 自分で、勝手に解釈しやがって! だから、同じ気持ちを返すことが出来ないんだよっ! 大嫌いだ! お前なんか、だいっ嫌いだっ!!」
『……っ、デ……デール、我を……。そんな、に……』
シコ様は、顔を歪め。苦しそうに嗚咽を漏らし、白い頬に涙を次々と落としている。
けど、俺がシコ様の元に戻ってしまったら……どうなるかは考えなくても分かった。
きっと、シコ様が言った通りになる。
俺は、目も耳も声も失くし、動くことすらままならなくなってしまうと思うんだ。
ふとカラフルさんを見上げると。カラフルさんは、悲しそうにシコ様を見ていた。
(そっか、カラフルさん……。シコ様を、尊敬してる感じだったもんな。そんな人に殺意を向けられたら、辛くないわけがない……)
「カラフルさん。俺が行ったら、カラフルさんも……ちゃんと逃げて」
「……ふふ、簡単に死にませんので、ご心配なく」
カラフルさんは、『逃げる』とか『死なない』とかを言わない。まるで、死ぬつもりであるように――。
(俺、本当に行って……いいのか? 後悔、しない?)
『ぐっ、ぅう"、う"……っ!!』
「……え?」
シコ様の呻き声が聞こえたから、バッと振り返ると。シコ様は、金色だった髪が銀色へと変化して――アソコのナマコが、ナメコに変形していた。
『ぅう"、……っ、デー、ル、す、まな、かった……』
シコ様の、苦痛からか細めている赤い瞳を見た途端に。ブワッ!! と凄まじい突風が、こちらに当たって――。
「きゃあっ!?」
「うわぁ……っ!?」
カラフルさんと俺は、泉の水面に身体を叩きつけるようにして飛び込んでしまい。
そして、下へ下へと沈んでいった。
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