14 / 32
14.失くすのは、もう嫌だけど……
しおりを挟む『……デール。我との約束は、どうした?』
「ひっ! あぁ……っ、お、俺……」
カラフルさんが、血まみれになってて――。これは、夢?
崩れ落ちたカラフルさんから、俺は放り出され、腰を打った。
けど、腰の痛みよりも。冷たい声を出しているシコ様から、なんとか距離を取ろうと……地面をズリズリと這いずる。
『……はぁ、仕方ない。声帯だけに留まらず――我ではない者を映す目も、我ではない者の声を聞く耳も、我ではない者に縋り、逃げようとする手も……全てを失くしてしまおう』
(あ、れ……? 目が……――)
シコ様の目……。青だった、右目が――赤になっていた。
『そうすれば、デールが頼れるのは……我だけになるだろう?』
「――ッ! ま、まっ……て!」
高速で、鋭利なものが迫って来て――。
当たると思った時、グイッと何かに引っ張られた。
そのお陰で。鋭利なものは、俺のギリギリ横を通過していく。
「は、はぁ……っ! 危ない、ところでしたわ……」
「……え?」
カラフルさんが、再び俺を抱えている。そして直ぐに、走り出した。
『――チッ! 小癪な。瞬時に、急所を外しておったか……』
後ろを見ると、憤怒の表情を浮かべたシコ様が。こちらを――いや、カラフルさんを睨んでいる。
「カラフル、さん……。身体、大丈夫なの?」
「さっき、言いましたでしょう? わたくしは、強い家系の生まれなんですのよ。怪我を負っても、即死でない限り。すぐ、治りますの」
「そこまで、聞いてないよおぉ~! グシュッ、グシュッ……」
「ちょっと! 今、鼻水垂らしました!? なにか、わたくしの首にかかりましたわよっ!?」
「うん、鼻水だよお~」
「やめて! 汚いですわっ! 今は、出さずに啜りなさいよ!!」
カラフルさんと、ギャーギャー言っているうちに。例の泉に着いた。
「貴方の、帰る場所を思い浮かべて」
「帰る、場所……」
(帰る場所? あのアパート? いや、俺の帰る場所は――)
パッと、小さな家のビジョンが浮かんだ。
それにより、その場所が泉に映る。
え? 俺、こんなとこ……知らない。
『デール!!』
「――ッ!?」
フラフラとした足取りのシコ様が、歩み寄ってくる――。
先ほどは、右目だけだったのに。今は、両目が赤くなっている。あれは、まさか……淀みのせいだろうか?
「さぁ、息を止めて!」
「カ、カラフルさん……は?」
「わたくしは、ここに残りますわ」
カラフルさんは、死ぬつもりかもしれない。だって、俺を逃がしたカラフルさんを、シコ様が逃がすとは思えない。
『……デー、ル、行くな……。もう、我を置いて、何処かに行かないで、くれ……』
「シコ様……」
ポロポロと涙を流し、懇願しているシコ様を見て。俺の判断が、間違っているのかと一瞬思ったが――。
『や、はり、その、女のせいなのだな? 前から、目障りだった。デールを誑かすような言葉を、かけていたのも、我が知らぬと思ったか……? だから、デールは我の元から、去ると言う……。もっと、早くに殺しておくべきだった。何か、デールに大それたことをしたら、殺そうと決めていたが――この前、デールと、会っていた時にでも……。八つ裂きにし、苦しめ、殺してやれば……っ』
俺の嫌な予感は、当たっていた。
もし、カラフルさんが医者を呼ぶなり何なりして、シコ様に一言いったなら――カラフルさんは、その場で殺されていたのだろう。
「――それだから、だよ」
『……な、に?』
「お前がっ! 自分の気持ちばかり、押し付けるから! いつも、いつも、俺の考え……ちゃんと聞かないじゃんか! 自分で、勝手に解釈しやがって! だから、同じ気持ちを返すことが出来ないんだよっ! 大嫌いだ! お前なんか、だいっ嫌いだっ!!」
『……っ、デ……デール、我を……。そんな、に……』
シコ様は、顔を歪め。苦しそうに嗚咽を漏らし、白い頬に涙を次々と落としている。
けど、俺がシコ様の元に戻ってしまったら……どうなるかは考えなくても分かった。
きっと、シコ様が言った通りになる。
俺は、目も耳も声も失くし、動くことすらままならなくなってしまうと思うんだ。
ふとカラフルさんを見上げると。カラフルさんは、悲しそうにシコ様を見ていた。
(そっか、カラフルさん……。シコ様を、尊敬してる感じだったもんな。そんな人に殺意を向けられたら、辛くないわけがない……)
「カラフルさん。俺が行ったら、カラフルさんも……ちゃんと逃げて」
「……ふふ、簡単に死にませんので、ご心配なく」
カラフルさんは、『逃げる』とか『死なない』とかを言わない。まるで、死ぬつもりであるように――。
(俺、本当に行って……いいのか? 後悔、しない?)
『ぐっ、ぅう"、う"……っ!!』
「……え?」
シコ様の呻き声が聞こえたから、バッと振り返ると。シコ様は、金色だった髪が銀色へと変化して――アソコのナマコが、ナメコに変形していた。
『ぅう"、……っ、デー、ル、す、まな、かった……』
シコ様の、苦痛からか細めている赤い瞳を見た途端に。ブワッ!! と凄まじい突風が、こちらに当たって――。
「きゃあっ!?」
「うわぁ……っ!?」
カラフルさんと俺は、泉の水面に身体を叩きつけるようにして飛び込んでしまい。
そして、下へ下へと沈んでいった。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】嘘はBLの始まり
紫紺
BL
現在売り出し中の若手俳優、三條伊織。
突然のオファーは、話題のBL小説『最初で最後のボーイズラブ』の主演!しかもW主演の相手役は彼がずっと憧れていたイケメン俳優の越前享祐だった!
衝撃のBLドラマと現実が同時進行!
俳優同士、秘密のBLストーリーが始まった♡
※番外編を追加しました!(1/3)
4話追加しますのでよろしくお願いします。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)

王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる