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1.ナマコと共同生活
しおりを挟む今日、目が覚めると――ベッド橫の壁からナマコが生えていた。
初めはキノコだと思った。だが、ナマコだ。どう見ても、ナマコだった。
(……うん、意味が分からないのに考えても仕方ない。仕事に行こう)
――仕事が終わり、家に帰ってもまだナマコが生えていた。寝ぼけて幻覚を見ていた訳ではなかったようだ。
そのナマコが気持ち悪過ぎて、ベッドを左壁から右壁に移動し。そのナマコが生えているところには、本棚を置いた。
(よし、ナマコの存在を俺の中から消去しよう。ナマコなんて、俺の部屋の壁には生えていない。生えていない。よし、消去完了!)
俺は、安心して眠りに落ちた。
ビチャビチャビチャ~~!! 顔に何かがかかった。
「ぶっふぉおーーー!? へっ……? な、なに?」
キョロキョロと周りを見渡すと――。
「何故、ナマコがここにっ!?」
本棚の裏に存在を消去したナマコが、デデンッ!! と移動したベッド橫の壁に生えている。
慌てて、本棚の裏を確認した。
(無い。ナマコが無い)
ベッド橫の壁に移動したナマコを、チラリと見る。
ナマコの先端からは、何か白い粘液を吐き出していた。
ハッと思い、顔に触れると――ネバネバした白いものが手に付く。
「ぎぃやぁああああーーーーーっっ!!!」
直ぐに洗面所へと行き。顔をバシャバシャと洗いまくる。うがいも沢山して、牛乳もたくさん飲む。牛乳はヤバいものを飲んでしまった時に、そのヤバいものを薄めるのに有効な飲み物だと聞いたことがあるからだ。本当かは知らんが……。
部屋を出ると、両隣の住人に「朝っぱらからうるさいんだよっ!」ってめちゃくちゃ怒られた。
「お前らも、壁から生えたナマコに何かぶっかけられてみろ! 絶対、悲鳴を上げるだろうがっ!」……と思ったが。
あまりにも心労が激し過ぎて「すんません……」と言っただけに留まった。
俺は、心配で心配で堪らない。
(もし、もし……ゾンビになってしまったらどうしよう)
だって、よく聞くだろう……? 意味分からない液体か霧状のものをかけられたりしたら、高熱が出始めて最後にはゾンビになるんだと……――。
その日の仕事で、作成中である資料の入力間違えを沢山してしまい、上司にめちゃくちゃ怒られた。全て、あのナマコのせいだ。
俺は苛々して、仕事の帰りにホームセンターに寄り、電動ノコギリを買った。待っていろ……憎きナマコ。
「切れない! 何故、何故……切れないんだ!?」
電動ノコギリを当てているのに、傷一つ付かない。しかも、その間にビュービューと白い液体をかけてきて、俺は白い液体まみれになっている。
ふざけるなっ!! と、ずっと刃を当てていたら――家のドアをドンドンと叩かれた。
出ると、大家さんがいて……「鍵山くん、住人からうるさいって苦情が入ってるんだけど……。一体、何してるのかな?」とチラチラと部屋の中を覗くように見てから「ま、まさか、何か悪いこととか……してないよね?」と少し怯えの入ったような表情を俺に向けた。
(え、もしかして……。電動ノコギリで、死体を切ってるとか思ってる!?)
俺はその疑いを晴らすため、大家さんを部屋に入れたのだが。大家さんはビクビクとしながら、俺から距離を取って歩いていて……。すっごく腑に落ちない。だか、あの奇怪なナマコを見れば、理解してくれるだろう――。
「ほら、見て下さいっ! ナマコが壁から生えてきたんです!! 俺は、これを切ろうと思っていたんですよ!」
「……鍵山くん、何を言っているのかな? そんなもの、ないけど……?」
「はっ!?」
そのナマコが生えていた壁に――。
(無い! ナマコが、無いっ!!)
そこの壁をペタペタと触ったが、それでも無い。
大家さんに「本当にナマコが生えてたんです!」と一生懸命に訴えた。
だが、大家さんは「鍵山くん。一度、病院で見てもらった方が良いよ?」と言って、この部屋を去って行ってしまった。
ふざけんな~!! と思い、部屋を振り返る――ナマコがまた生えている。
「はぁあ~~? な、何!? これ、なんなんだよっ!?」
(もう、マジで意味が分からない……)
俺は、ベッドを部屋の中央に移動し。その日は眠りについた。
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