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しおりを挟む「――――でね。――が面白くて……――大地君は、どれが良かった?」
部屋の壁越しに、美憂の楽しそうな話し声が聴こえてきた。
その内容に、愕然として思考が止まる。
少しの時間の後、沸々と怒りが込み上げてきた。
「あー……。自由にさせ過ぎちまったか……」
美憂の明るい声が聞こえてくる壁を視界に入れながら、ゾッとするような感情のない表情で、そう言った。
♢◆♢
――その虫は、酷くしぶとかった。
それの父親が多少の地位があった為に、今までのようには行かず、時間を掛けて足元を崩して行くようにしていたからだ。
その間、直接その虫に対話をしたが。生意気にも、俺の提案を拒否したので学校で孤立させた。
しかし、それでも負けじと美憂に付きまとっているのを見て、我慢の限界を迎えた。
本当は、そこまでは手を付けるつもりはなかったが……――その虫の、家庭内のいざこざを引っぱり出したのだ。
父親が不倫して、婚外子がいることが分かっており。匿名で、それらの証拠を自宅に送った。
虫と目が合うと、怯える様に逃げて行ったので。馬鹿なりに、俺の仕業だと理解しているようだった。
騒ぎ立てるかと注視をしてはいたが、ただひっそりと生活しているようで、やっと自分が愚かな事をしたのだと理解したようだ。
それからはトントン拍子に、その虫の父親が失墜して家庭がぐちゃぐちゃになり。気が付けば、姓も変わっていた。
虫が美憂に近付かなくなり、安心していた頃。想像もしなかった事が起こった。
後にも先にも。あそこまで堪え難い怒りを覚えたのは、初めてだ。
♢◆♢
「ま、待ってっ! 大地君!!」
帰路の途中で、美憂の声が聞こえた。
その言っている内容に、憤りを感じながらも。そちらの方へ足を向けると――人気の少ない公園で、美憂が男を引き止めているのが見えた。
「まだ、理由を聞いてない……。なんで、急に避けるようになったの? 何か、私……悪い事を私しちゃった? お願い、教えて……」
目を潤ませながら、懸命に目の前にいる男に訴えていた。
「悪いけど……。もう、君と関わりたくないってだけだ。こうやって呼び出されても困るから……これで最後にして欲しい」
男は目を逸らし、ばつが悪そうに美憂に言っている。
「そんな……嫌だ。だって私、大地君の事がす――」
「美憂? 何してるんだ?」
美憂は肩をビクッと揺らして、こちらを振り向いた。
「えっ、どうして……」
「ヒィッ!」
美憂がたじろいでいる時に、男が小さく悲鳴を上げていたが。俺がいた事に驚いていた美憂は、気付いていないようだ。
「じっ、じゃあ! そういう事だから、もう近寄らないでくれっ!!」
男がそう言い残して、慌てて去って行く。
「あ……」
呆然と、走っていく背中を見ている美憂に……怒りが収まらない。
「なんか、邪魔しちゃったみたいだな? 悪い」
心にもないことを言って、笑顔を貼り付けた。
「ううん、いいの。……大丈夫」
美憂は沈んだ表情で、自分の足元を見つめていて。今にも涙が零れそうだ。
その美憂の感情が、あの虫のせいで引き起こされているのに、不快感を感じて奥歯を噛み締めた。
「取り敢えず、帰ろうぜ」
なんとか意識して、冷静な声を出し。美憂に、帰宅を促す。
「そうだね……ごめん」
美憂はノロノロとした足取りで、俺の後ろを付いて来る。
俺に気を遣っているのか。今日のご飯はどうするとか、あのドラマが楽しかっただとか……無理に笑顔を作り、話し掛けてくる。
それを横目に、俺は――美憂をどのように調教してやろうかと、獰猛な笑みを浮かべていた。
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