囲いの中で

弟視点(前日譚) 1

　


　何かを努力しなくても、勝手に物事が有利な方へと進む。ただ、ひとつの事を除いては――。


　美憂と俺は、血が繋がっていない。父と母に長きに渡って子供が出来なかった為、施設から美憂を迎えてから1年後に俺が産まれた。

　美憂はその事実を知らずにいるが、もし知れば産みの親に会いたいなどと愛に飢えた美憂ならば言うだろう。だから、一生教える必要もないことだ。


　俺は、幼い頃から美憂に対し、異常とも呼べる執着を抱いていた。
　孤立させるように仕向けたり、比較されるようにわざと美憂と同じ事をしたり等。少しずつ、美憂が内向的になるように仕向けていった。


　――それを、父に勘づかれた。


　いくら地頭が良くても、俺はまだ幼い子供だった。
　上手く隠していたつもりであったが、無駄に勘の鋭い父の目だけは誤魔化せなかったようだ。

　そのせいで一時期、父に美憂との交流を絶たれてしまい。あらゆる全ての色を無くしたように感じた。

　しかし、俺にとっては幸運な事に――父が事故でこの世を去った。

　そのお陰で。美憂を憎むように、頭の空っぽな母を数年かけて洗脳したのだ。

　父が亡くならなければ、もしかしたら正攻法で美憂を手に入れたかもしれないが……――。
　きっと、それでは常に感じていた飢餓感を拭うことは出来なかっただろう。



　♢◆♢



「はぁ……」

　美憂がソファーに背を預け、悲痛な表情で息をついている。
　それを見て、胸がスッと軽くなった。

「美憂、どうしたんだ？　そんな、ため息ついて」

　美憂は、ハッとこちらを向き。俺が居た事に気付いて、驚いた顔をした。

「びっくりしたあ～！　帰ってたんだね。お帰りなさい！　なんでもないから、大丈夫だよー」

　明るく振る舞ってはいるが、顔からは悲しみの色が見てとれる。

「そうか？　何かあったら、何時でも相談に乗るからな」

　ありがとう！　と美憂が嬉しそうにしているのを見て、心の中でほくそ笑む――。

　ちょうど今日。美憂に張り付いていた友人もどきに、自分の身の程をわきまえさせた所だった。

　大体の女は、俺目当てで美憂に近付くようだから。俺が丁重にお願いをすれば、2度と美憂に纏わり付く事がなくなる。

　しかし、男は別だ。

　美憂は、自分の器量が良くないと勘違いしているようだが。比護欲をそそるような可憐な容姿をしているせいで、少し目を離すと直ぐに虫が寄ってくる。

　だから男の場合には。俺が設立し、莫大な収益を得ている会社の権力を使ってでも、徹底的に潰す。

　そのようにして、今まで美憂に関わる全てのものを管理してきたのだ。


　――俺は、自分の能力を過信してしまい。煩わしい虫が美憂に近付いている事に、気付くのが遅れた。