上 下
140 / 140

139.〖ロンウェル〗現在(終)

しおりを挟む
 


「締めくくりが、それって……。他に何かなかったのかよ?」


 本当……。塔主様も、ミィーナも……鈍感すぎる。

 子供扱いしていたんじゃない。俺にとって、ミィーナだけが特別だった――愛していたんだ。



 ********


 ふと、ミィーナに対してだけ、心のままの自分を出せることに気が付いた。

 それを、意識し出してからは。考え、悩んで……辿り着いた答えが――ミィーナの事を、“女性として愛している”ということだった。

 俺は案外単純なようで、好いた人に対しては飾らない自分で接したいと、無意識にそうしていたようだ。


 でも、ミィーナの目には塔主様しか見えていなくて――塔主様に恋をしている、ということも分かっていた。

 それは、ミィーナが魔術塔に来た日から。当人である塔主様以外の、全員が気付いていることでもあった。

 俺は自身の想いを知ってからは、ミィーナから恋慕の気持ちを向けられている塔主様を、羨ましいと思っていた。
 けれど、人の気持ちをどうにかする事は出来ない。

 だったら、せめて――ミィーナの隠されている、全ての情報が知りたかった。

 それは、魔術塔内にいる者達はワケありである事が多く。例に漏れず、ミィーナもそうだった。

 ミィーナの場合は姓を名乗っていないので、生まれが何処かも分からない。

 それで、【塔主の間】には――塔主様が、内部の人間を把握する為。魔術塔にいる仲間達の、個人情報を載せている資料がある。

 塔主様が不在の時を見計らい、その資料に載っているミィーナの情報を盗み見た。

 すると、ミィーナは……一時騒がれていた有名な家の出であることが分かった。
 何故かぼかされている様子の、その詳細も調べたが……。正直、あそこまでの怒りを感じたのは、生まれて初めてだ。

 ミィーナに酷い扱いをした奴らが生きていたら、ミィーナにしたことを返してやるつもりだったが、全員が寿命により亡くなっていたため、当分の間はやり場のない怒りに苛まれることになった。

 ――その後も、自身のミィーナに対する気持ちは日毎にどんどんと膨らみ。俺には何でも話して欲しかった。

 それこそ、その暗い過去さえも……――。

 だが、ミィーナは、俺が目を背けたくなるようなことを塔主様にした。

 信じられなかった、というよりも……信じたくなかった。

 少なくとも、その事実を目の当たりにはしたくなかったと――仕事で使っていた資料を置くため、あの時間に【塔主の間】へと行ってしまった自分を責めるしか出来なかった。

 しかし、それを見てからも。俺のミィーナに対する恋慕が消えることはなかった――。



 ********


「……ま、俺の事なんて、ミィーナは全然眼中になかったんだろうな」

 想いを伝えれば良かったのだろうが……。ミィーナは塔主様以外の人に対し、一線引いていたところがあった。

 ――そう、まるで……俺と同じように。

 だから、何となく分かるのだ。
 もし、俺が気持ちを伝えた場合――ミィーナは、俺から距離を置こうとするだろう……と。

 その想いに応えてあげられないのに、想いを向けてくる人の側に居続けることは、お互いが辛い。
 だったら、いっそ離れた方が良いと考えてしまうから――――。


「……んっ!」

 ミィがザラザラとした舌で、俺の唇を舐めてくる。
 ザリザリザリと舐められて、くすぐったい。

 ――ミィの両脇を持ち、その身体を離す。

「何だよ……? 昼間食べた、鮭の匂いでもしたか?」

 7階にあるカフェで鮭定食を食べたから、美味しそうな匂いを感じ取ったのかもしれない。

『みゃ~ん?』

 ミィは、首を傾げて『何で離すの?』と言っているようだ。

 また、ミィのふわふわとした顔が近づいてきたから、意識を違うところに向けてもらおうと、ミィの首周りを優しく撫でる。
 ミィは直ぐに、ゴロゴロゴロ~! と喉を鳴らし、気持ち良さそうに目を細めた。


「本当、お前は……。俺が大好きだな?」
『みゃんっ!』

 ミィは返事のような声を出した後、俺の膝の上に座り込み、そのまま目を瞑った。

 これは、この膝が痺れるまで退いてくれそうもないなと……。ミィの可愛い寝顔を眺め、笑みを溢した。


しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

瀬川
2023.10.22 瀬川

コメント失礼します!
とても面白くてスイスイ読んでしまいました!
ありがとうございます!

未知 道
2023.10.22 未知 道

感想ありがとうございます!そう言って頂けて、すごく嬉しいです!引き続き、お楽しみ下さい(*^-^*)

解除

あなたにおすすめの小説

変態村♂〜俺、やられます!〜

ゆきみまんじゅう
BL
地図から消えた村。 そこに肝試しに行った翔馬たち男3人。 暗闇から聞こえる不気味な足音、遠くから聞こえる笑い声。 必死に逃げる翔馬たちを救った村人に案内され、ある村へたどり着く。 その村は男しかおらず、翔馬たちが異変に気づく頃には、すでに囚われの身になってしまう。 果たして翔馬たちは、抱かれてしまう前に、村から脱出できるのだろうか?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

日本で死んだ無自覚美少年が異世界に転生してまったり?生きる話

りお
BL
自分が平凡だと思ってる海野 咲(うみの   さき)は16歳に交通事故で死んだ………… と思ったら転生?!チート付きだし!しかも転生先は森からスタート?! これからどうなるの?! と思ったら拾われました サフィリス・ミリナスとして生きることになったけど、やっぱり異世界といったら魔法使いながらまったりすることでしょ! ※これは無自覚美少年が周りの人達に愛されつつまったり?するはなしです

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

転生したらBLゲーの負け犬ライバルでしたが現代社会に疲れ果てた陰キャオタクの俺はこの際男相手でもいいからとにかくチヤホヤされたいっ!

スイセイ
BL
夜勤バイト明けに倒れ込んだベッドの上で、スマホ片手に過労死した俺こと煤ヶ谷鍮太郎は、気がつけばきらびやかな七人の騎士サマたちが居並ぶ広間で立ちすくんでいた。 どうやらここは、死ぬ直前にコラボ報酬目当てでダウンロードしたBL恋愛ソーシャルゲーム『宝石の騎士と七つの耀燈(ランプ)』の世界のようだ。俺の立ち位置はどうやら主人公に対する悪役ライバル、しかも不人気ゆえ途中でフェードアウトするキャラらしい。 だが、俺は知ってしまった。最初のチュートリアルバトルにて、イケメンに守られチヤホヤされて、優しい言葉をかけてもらえる喜びを。 こんなやさしい世界を目の前にして、前世みたいに隅っこで丸まってるだけのダンゴムシとして生きてくなんてできっこない。過去の陰縁焼き捨てて、コンプラ無視のキラキラ王子を傍らに、同じく転生者の廃課金主人公とバチバチしつつ、俺は俺だけが全力でチヤホヤされる世界を目指す! ※頭の悪いギャグ・ソシャゲあるあると・メタネタ多めです。 ※逆ハー要素もありますがカップリングは固定です。 ※R18は最後にあります。 ※愛され→嫌われ→愛されの要素がちょっとだけ入ります。 ※表紙の背景は祭屋暦様よりお借りしております。 https://www.pixiv.net/artworks/54224680

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。