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137.〖ロンウェル〗現在
しおりを挟む――7階のカフェに備え付けられている伝達紙が目に入り、それを手に取って世間の情報を流し読む。
「……やはり、王は不能になったようだな」
『王政廃止の危機か!? ――今年、83歳となる種無し王は、頑なに血統に拘り――――』
前までの王は、種がなくなってしまう事に怯え。政治や、その他に関することにも手を出さなかったのだが……。
現在の王は、この魔術塔に人を送り込み。だいぶ私腹を肥やしていた。
恐らく王は、自分が直接手を出してはいないし、政策も行ってはいないから大丈夫だと思ったようだけど――。
『魔術塔に入り込め』と指示を出したのは、王であり。己の金儲けの為に、いらない制度もけっこう作っていた。勿論、塔主様が魔術塔に戻ってからは、その制度は直ぐに廃止したが……。
それも全て、王により齎されたことならば――あの魔法具が起動してしまうのは当然のことだ。
「――あっ、あのっ! アクセルト様!」
「………? はい、何でしょう?」
呼ばれた声の方へ振り向くと――初めて見る顔の女性が、俺が座っているテーブル近くに立っていた。
確か以前、塔主様が『魔術塔の仲間、少し増やすから!』とか言っていたな。
俺とは関わりが少ない情報収集する場に配属されたらしいから、話すのは初めてだけど……。一体、なんの用だろうか?
「アクセルト様は……。えっと、つ、付き合っている人とかって、いますか?」
「……え?」
付き合っている人……?
女性の後ろに、同じく新人らしい女性達がきゃいきゃいと黄色い声を上げている。
女性達の雰囲気から、恋人のことを指しているのだろう。
まさか……。塔主様の言っていた、俺がアプローチされると言ってたのは、この人達の影響か?
「それは、私に恋人がいるのかを聞いていますか?」
「は、はい!!」
世間一般で、“防御系の魔術師”は恋人対象外だ。
この人達は最近入ったばかりだから、俺が防御系の魔術師だと知らないのだろう。
「私が、防御系の魔術師だと知ってます?」
「え、防御系?」
――女性は信じられないというように、目を大きく見開く。
これが普通の反応であるからか、いま誰かと深い仲になりたいとかを思っていないからか……。俺は、誰にどのような反応をされようが、全く気にはならなかった。
以前だったら、かなり気にしていただろうが――。
「そっ、そんなの、関係ありません! 良かったら、私と――きゃっ!?」
『フシャ~~~~~ッッ!!!』
女性が表情を慌てて戻し、言葉を発した時。いつの間に来たのか、ミィが俺と女性を隔てるように真ん中へと入り込み、女性に対し、激しく威嚇をしていた。
『シャ~~~シャ~~~シャ~~~~~ッッ!!!』
「ひっ! なっ、なによ、この猫……!」
「ミィ、落ち着けっ! 大丈夫だから!」
直ぐにミィを抱き上げ、撫でてあやす。
「おっと! 君たち、新人だよね? アクセルト様は、諦めた方が身のためだぞ? ミィが張り付いて離れないからな」
周囲にいた人が女性に対し、話をし始めたので、俺はミィの怒りを鎮めるのに集中する。
『みゃ~ん! みゃ~~ん!』
「まったく、あんなに激しく鳴いたら喉を痛めるだろ?」
ミィの喉を撫でると、ゴロゴロゴロ~と問題なく音が鳴っている。それにホッとした。
「ア、アクセト様、あの……」
やっと落ち着いたミィが、女性の声が発せられた瞬間に鋭い目になった。
「私は今、誰かとそうなりたいとは思えないので……申し訳ありません」
素早く、女性へと言葉を返す。
「……お時間を取らせて、すみませんでした」
小さな声で、女性はそう言い。俺の後方へと去っていって、一緒にいた女性達もその後を追っていったようだ。
好意を示してくれた相手に、断るにしても冷たくし過ぎてしまったかと思い。
けど、変に声を掛けることも逆効果だからと、女性達の背を見送っていたら――俺の顎辺りにミィが頭をグリグリと押し付けてきて、視線をミィの方に戻す。
そういえば……と。時間を確認すると、お昼を過ぎていた。
「ああ、おやつ……まだあげてなかったな? 部屋に戻ろうか」
『みゃんっ!』
早く早くというように見上げてくるミィに、だいぶ尻に敷かれてしまったなと苦笑した。
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