138 / 142
137.〖ロンウェル〗現在
しおりを挟む――7階のカフェに備え付けられている伝達紙が目に入り、それを手に取って世間の情報を流し読む。
「……やはり、王は不能になったようだな」
『王政廃止の危機か!? ――今年、83歳となる種無し王は、頑なに血統に拘り――――』
前までの王は、種がなくなってしまう事に怯え。政治や、その他に関することにも手を出さなかったのだが……。
現在の王は、この魔術塔に人を送り込み。だいぶ私腹を肥やしていた。
恐らく王は、自分が直接手を出してはいないし、政策も行ってはいないから大丈夫だと思ったようだけど――。
『魔術塔に入り込め』と指示を出したのは、王であり。己の金儲けの為に、いらない制度もけっこう作っていた。勿論、塔主様が魔術塔に戻ってからは、その制度は直ぐに廃止したが……。
それも全て、王により齎されたことならば――あの魔法具が起動してしまうのは当然のことだ。
「――あっ、あのっ! アクセルト様!」
「………? はい、何でしょう?」
呼ばれた声の方へ振り向くと――初めて見る顔の女性が、俺が座っているテーブル近くに立っていた。
確か以前、塔主様が『魔術塔の仲間、少し増やすから!』とか言っていたな。
俺とは関わりが少ない情報収集する場に配属されたらしいから、話すのは初めてだけど……。一体、なんの用だろうか?
「アクセルト様は……。えっと、つ、付き合っている人とかって、いますか?」
「……え?」
付き合っている人……?
女性の後ろに、同じく新人らしい女性達がきゃいきゃいと黄色い声を上げている。
女性達の雰囲気から、恋人のことを指しているのだろう。
まさか……。塔主様の言っていた、俺がアプローチされると言ってたのは、この人達の影響か?
「それは、私に恋人がいるのかを聞いていますか?」
「は、はい!!」
世間一般で、“防御系の魔術師”は恋人対象外だ。
この人達は最近入ったばかりだから、俺が防御系の魔術師だと知らないのだろう。
「私が、防御系の魔術師だと知ってます?」
「え、防御系?」
――女性は信じられないというように、目を大きく見開く。
これが普通の反応であるからか、いま誰かと深い仲になりたいとかを思っていないからか……。俺は、誰にどのような反応をされようが、全く気にはならなかった。
以前だったら、かなり気にしていただろうが――。
「そっ、そんなの、関係ありません! 良かったら、私と――きゃっ!?」
『フシャ~~~~~ッッ!!!』
女性が表情を慌てて戻し、言葉を発した時。いつの間に来たのか、ミィが俺と女性を隔てるように真ん中へと入り込み、女性に対し、激しく威嚇をしていた。
『シャ~~~シャ~~~シャ~~~~~ッッ!!!』
「ひっ! なっ、なによ、この猫……!」
「ミィ、落ち着けっ! 大丈夫だから!」
直ぐにミィを抱き上げ、撫でてあやす。
「おっと! 君たち、新人だよね? アクセルト様は、諦めた方が身のためだぞ? ミィが張り付いて離れないからな」
周囲にいた人が女性に対し、話をし始めたので、俺はミィの怒りを鎮めるのに集中する。
『みゃ~ん! みゃ~~ん!』
「まったく、あんなに激しく鳴いたら喉を痛めるだろ?」
ミィの喉を撫でると、ゴロゴロゴロ~と問題なく音が鳴っている。それにホッとした。
「ア、アクセト様、あの……」
やっと落ち着いたミィが、女性の声が発せられた瞬間に鋭い目になった。
「私は今、誰かとそうなりたいとは思えないので……申し訳ありません」
素早く、女性へと言葉を返す。
「……お時間を取らせて、すみませんでした」
小さな声で、女性はそう言い。俺の後方へと去っていって、一緒にいた女性達もその後を追っていったようだ。
好意を示してくれた相手に、断るにしても冷たくし過ぎてしまったかと思い。
けど、変に声を掛けることも逆効果だからと、女性達の背を見送っていたら――俺の顎辺りにミィが頭をグリグリと押し付けてきて、視線をミィの方に戻す。
そういえば……と。時間を確認すると、お昼を過ぎていた。
「ああ、おやつ……まだあげてなかったな? 部屋に戻ろうか」
『みゃんっ!』
早く早くというように見上げてくるミィに、だいぶ尻に敷かれてしまったなと苦笑した。
6
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる