ダンジョンの核に転生したんだけど、この世界の人間性ってどうなってんの?

未知 道

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135.〖ロンウェル〗現在

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 ハートシア様が、白の禁術機との一件が終わり、目を覚ました時――不思議なことに、身体に傷ひとつない状態でありました。

 初め、ハートシア様はすぐに塔主様を見つけようとしましたが、国の仕組み全てが変化しており――。

 以前は無かった、ダンジョンを討伐するギルドが出来ていたり、市民達が横暴になっていたり……。さらには、魔術塔内ではあの当時にいた魔術塔の皆が選ぶはずのない、自己中心的な者達で溢れかえっていました。

 そして、何より……。他の者達は寿命により生を終えてしまっても、極級魔術師の私はそれに該当しない。なのに魔術塔にいないということは、きっと何か良くないことが起こったのだと思い。ハートシア様は、その魔術塔にいる者達に聞きました。

 勿論、その者達が素直に話す訳もなく。初めは糾弾され、ハートシア様は兵士に連れて行かれそうになりましたが……。

 ハートシア様は、己の持つ強力な魔法を見せ。その全員を脅し、事実を聞き出しました。

 事実を知り。当初は全員を【追放】し、追い出そうと考えましたが――結局、一年間は魔術師塔内に、その者達は出入りが出来てしまう。

 けれど、見栄の為にだろうか。魔術塔で決められていた取り組みを多少はしていたのと、魔術塔内には管理しなければならない禁術機もある。
 変に【追放】をかけてしまった場合は、ハートシア様が困ることになると。本来、いるべき者が戻るまでは、そのまま黙認することにしました。

 その時に、ハートシア様は【塔主の間】へと行き、塔主様を探したのですが、身体ごと既にそこから消えていました。


 それがあってから、ハートシア様は私へと何通も伝書を送ったようですが……。市場で買えるような性能の低い伝書だった為に、遠くの国に居た私には届くことはなかったのです。

 それから数年間ほど。ずっと塔主様を探し求め、他の国に至るまで隈無く探しても、見付けられずにいましたが――。

 民からの噂を聞き、まったく視野にも入れていなかった――あるダンジョンの核が、塔主様の可能性が極めて高い……ということが分かったようです。

 それでハートシア様は、直ぐにそのダンジョンへと向かおうとしたのですが。そうするには、ギルドの許可を得ないといけない決まりになっていて……。
 無視すれば良かったのでしょうが、真面目なハートシア様は、その手続きを行おうとしたのです。

 しかし、それには……。これも、以前にはなかったものである――“国民権”という、個人を証明するカードを、ギルドに提示しなければなりませんでした。

 それを得る為には、魔術塔にいる者達の『承認』が必要であり。
 ハートシア様は、以前に脅してしまったことを詫び。国民権が欲しい旨を伝えました。

 けれど、それは拒否され。
 それでハートシア様は、魔術塔の評価が落ちてしまっていたことに気が付いていたので――。
『他国にまで、魔術塔が一目置かれるような存在にすることが出来たら、それを承認して欲しい』と言いました。

 すると、その者達は飛び付くように『それが出来たら、認めよう』と了承したのです。

 それからハートシア様は、魔術塔の評判をあげるため、積極的に人助けを行い。
 気が付けば、周囲の人達から――【古代魔術師】などと呼ばれるようになり。
 使っている空間魔法や拘束魔法の技を、一括りにすると――【古代魔法】という呼名がつけられておりました。

 そう言われたとしても、間違いという訳ではなかったので、ハートシア様は何も言わずに放置したようです。


 そうして数年が経ち、魔術塔の評判が非常に良くなり、同時にハートシア様の存在も知れ渡った事で。
 そのハートシア様に国民権がないことが知られたら、それを発行する自分達が周囲から批判されてしまうと。慌ててその国民権を発行し、ハートシア様に渡したのです。

 そして、ハートシア様はギルドの許可を得て漸く、塔主様のダンジョンへと向かうことが出来ました。



 △▼△▼△▼△▼


「――私は、禁術機の連結が外れてしまうまでは、この国に入るのを禁止され、門前払いをされていたのと。住居は、遠くの人里はなれた場所だったからか、しっかりとした情報が届かなかったようで……。ハートシア様と再会出来たのは、塔主様とそう変わりません」

 ――塔主様は一言も喋らずに、私の話をずっと黙って聞いていて。ハートシア様の事を思っているのか、どこか遠くを見ていた。

「話は終わりです。さぁ、いつもの森に帰って下さい」
「それは、無理っ!!」

 塔主様は俺へと視線を戻し、断固拒否! と言うように手をバッテンにしている。

「何故です……? ハートシア様が、可哀想だと思わないのですか?」
「かっ、可哀想、だけどさ……! でも、あんなに拒絶しちゃったから、なんだか気まずいし……。子供達が帰って来るまでは、魔術塔にいる!」

 塔主様は数年前に、子供達に教育を行う場――【学校】という機関を作った。

 塔主様からそれを作りたいと言われた時、どのようなものかと聞くと――。

 前にいた世界に、そのような教育をしている場があり。知識や、人との交流や、道徳心などを培うのだという。

 俺は初め、それがどういった仕組みであるのか、理解が追い付かなかったが――。

 その体制をよくよく塔主様から伝えられると、素晴らしいものだと感嘆した。

 今までは、その場その場で覚えることしか叶わなかった様々な情報を、その学校にいれば全て教わることが出来るのだ。

 けれど塔主様は、知識よりも【道徳心】のほうに力を入れたいようだった。

 何故かと問い掛けると。この世界にいる人達の思考が、色々とぶっ飛んでるからだと言われた。それには、非常に同感した。

 そして先ず、この国にひとつ作ってみてから、全国的に広めるかどうかを考えることにし……。
 建物の建設や、教材の製作、教員の選出など、全ての準備を整え――5年前に学校を設立した。

 すると、むしろ他国の方から『それを是非とも、我が国にも導入したい!』と申し出が殺到したのだ。

 最近になり、やっとそれらが落ち着いてきたので――前からしようと思っていたけど、色々と慌ただしかったため保留にしていた事柄に、漸く取り組むことが出来ている。


 塔主様は絶対に帰らないといったようにソファーに深く腰を下ろしており、これはテコでも動かないだろう。
 もう仕方ない……とため息をつき「では、そうして下さい」と塔主様に話をするため、机に置いていた本を持ち上げた。

「2日後には修学旅行から帰ってくるからさ。そしたら、ちゃんと帰るよ」

 俺が怒ったと思ったのか、塔主様は取り繕うようにそう言葉を発した。

「……ああ、もう修学旅行の時期だったんですね」

 修学旅行とは学校行事の一つで、他国へと行き、その国の自国にはないものから知識を得て見解を広げることや、集団生活での決まりを守れるようにするため……などの意味合いで組み込まれたものだ。

「そう! だから、レイドと2人きりなんだよ。ん~、なんか……落ち着かないんだよな~……」

 塔主様は頬を染め、モジモジとしている。

 おや、あれは恥じらっているのか……?

 何だかんだ言って、塔主様もハートシア様のことが好きで堪らないくせに。まったく……。


 どうしたものかと、目元をグリグリとした後。塔主様に向き直ると――じ~~~と凝視されていた。

「……? どうなさいました?」

 塔主様は、しきりに頷いている。

「いや~~……。本当、良かったと思ってさ~! あの時――俺が、まだ記憶が戻ってない時に。ロンウェル、めちゃくちゃガリガリで……。目の下にも濃いクマが出来てて、顔色スゲー悪かったじゃん? マジで、元に戻って良かったよ!」


 あ~……。あの時は、本当に忙しかった。
 睡眠も食べるのも割き、禁術機やその他のことに取り組んでいた。

 以前、魔力切れのせいで危険な目にあった教訓で、魔力を少しずつ消費出来るように訓練していた。
 その甲斐あって。破壊された禁術機へと、絶えず防御壁を張ることに関しては、俺の魔力量がもともと多いのも合わさり、問題なかった。

 なのに、何故そうなっていたのかは……。魔術塔内にいる者達のせいだ。

 顔を合わせればグチグチとした蔑みや、ニヤニヤとした笑みで小馬鹿にする態度を取ってくる。

 終いには、その時に重要でもない仕事を、毎日のように命令されていた。

 ハートシア様がそれに気が付き、俺の仕事は『禁術機に関することしかさせてはいけない』と周囲に指示したことで、無駄な仕事を命令されなくなった。

 ハートシア様には、『早く気がついてやれなくて、すまない』と謝罪されたが。
 塔主様と共に禁術機を追い、忙しくしていたハートシア様は何一つ悪くない。俺がまだ大丈夫だと自分で判断し、言わなかったのだから。

 ――しかし、意外と心労があったと気付いたのは、暫くの間、睡眠や食事を上手く取ることが出来なくなってしまったからだ。
 だから、睡眠に関しては薬に頼り、なんとか眠るようにはしていた。

 現在は、眠るのはまだ薬に頼っているが、食事はしっかり取れるようになったので問題にはならない。


「……そうでしたね。このように私が元に戻れたのも、世界か救われたのも……。塔主様と、ハートシア様のお陰様です。ありがとうございました」
「な~に言ってんだよ? ロンウェルがいなきゃ俺の存在は消えてたから、この世界は終わってただろ? お礼を言うのはこっちだ。本当にありがとう!」

 塔主様は弾けるような笑顔を浮かべ、俺の肩を抱き寄せてきた……――と同時くらいに部屋の扉が開き、ハートシア様が室内に入って来る。

 ハートシア様は、俺達を視界に入れた途端。近くの壁へと寄りかかり、無表情でこちらをじっと眺めていた。


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