128 / 140
127.〖炎竜〗現在(終)
しおりを挟む※『126.〖炎竜〗現在(終)』をご覧になった方へ。
一話の長さと見やすさを考えて、分割しました。内容は変えていないので、飛ばして次の話からお読みになって大丈夫です。
----------------
話し終え。2人に視線を向けると――主は目を赤くし、レイドは顔を歪めていた。
『そのような顔をしなくてもよい。もう、過ぎた過去のこと……。後悔はしても、その事実を変えることは、絶対に出来ぬからの……――それに、2人には謝らなくてはならん』
「な、なにを……?」
主は鼻を啜りながら、首を傾げ。レイドは、下を向き黙っている。
『ワシは……。山へ訪れた主を、突っぱね続けたじゃろ? それのせいで、2人に酷く苦しい思いをさせてしまったのだと思うのじゃ……。もし、あの当時。主に着いていくことで、火山から出て。それで、世界の状態に早く気がついておれば……。ワシじゃったら、核達を守ることが可能だったかも知れぬからの……』
ワシは、もう人とは関わりたくない……と意固地になり。山に訪れた主とも、しっかりと向き合うことはしなかった。
だが、主と接しているうちに、過去の友を思い出し。その当初から、一緒に過ごすのが楽しいと思ってはいたのだ。
しかし結局は、主の申し出を断わり続けた。
けれど、主が一切訪れなくなったことで。ワシは心配で心配で、いてもたってもいられなくなり……――。
主が居を構えている国を、以前に聞いていたのでそこに向かった――すると、主が亡くなったことを知ることとなったのだ。
そして……。セルディアと、魂の基柱の色が同じ、レイドの存在にも気がつき。酷い脱力感に襲われた。
それは、セルディアと似ているところが一つもない……全くの別人になっていたからだ。
人間を観察したことで、以前からそのことに関しては分かっていたのに。もう二度と……。あの2人や、主にも会うことは出来ないのだと。実際に、それを自分と関わりの深い、人間の魂で再確認し。もう、全てがどうでも良くなってしまった。
【禁術機】といわれる存在が生まれたということも、その時に知ったが。ワシには関係のないことだと、見て見ぬ振りをし……。再び、火山へと戻ったのだ。
ただ心のどこかでは、まだ期待を捨て切れていなかったのだと……。禁術機の術にかけられたことで、それに気付かされたのだが――――。
「いや、炎竜は俺を突っぱねてはいないだろ? 俺が、山をずっとウロウロしてたら。見かねて術を解いて、姿も現してくれたじゃんか。それこそ、知らんぷりすりゃ良かったのにさ。あの時は、ありがとな!」
主は、その時を思い出したのか。嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「それにさ、苦しい思いをしたのは……。俺よりも、レイドだからな。世界の歪みだって、炎竜の責任でも何でもないだろ? だって、そうなった原因は……。人間のせいだったんだ。俺達が、もっと早くに気が付くべきだった……」
『主……』
眉をギュッと寄せ――主はそれに関して、非常に後悔しているようだった。
「――確かに、苦しい思いはしたが……。だからと言って、何故、それが炎竜の責任になるというんだ? ヤツの言う通り。その業を背負うべきは、炎竜ではなく……人間だ」
レイドも、顔をしかめ。主と同じような、後悔の表情を浮かべている。
2人にそんな顔をされたら、謝るに謝れなくなってしまうではないか……。
けど、話をしたからか。なんだか心が軽くなったような気がする――。
『ホッホッホッホッ!! なんじゃ? なんじゃ? 懺悔大会のようになってしまっておるの~? 湿っぽい話は、これで終いじゃっ! 話を聞いてくれて、ありがとの~! すっきりしたわい!!』
ワシが盛大に笑い出したからか。主とレイドは互いの顔を見合せ、苦笑していた。
――その後、いつの間にか。各地のご当地グルメの話とか、観光スポットの話などに話題が変わった。
『今度『甘い竹焼きさん』というものを持って来るから、楽しみにしていての~!』
「甘い竹焼きさん? 変な名前だな……」
「はははっ! なにそれ、まじウケる~! めちゃくちゃ楽しみにしてるな~!!」
レイドは面白い物を想像したのか、目を細めてクスリと笑い。
主に至っては、ツボに入ったのか大爆笑している。
『主、笑い過ぎて腹がよじれてしまうぞ~?』
それから少しして。主は、なんとか笑いを収められたようだ。
「――なあ、炎竜。お願いがあるんだけどさ~……」
『ん? なんじゃ?』
――主は、間を置き。『主』と言うのを、止めて欲しいと言った。
『では、何と呼べば良いかの?』
「『ヤツ』って、呼んで欲しい」
次は、ワシが笑ってしまった。
『ホッホッホッ! それは、レイドが呼んでいる呼び名じゃろう? 流石に、ワシがそう呼ぶのはの~? そんなこと言うと、レイドに怒られてしまうのでは――』
「俺達を『大事な友』と思ってくれている炎竜には、そんな事で怒りはしない」
ワシの言葉を遮るように、レイドは涼しげな顔でそう言っていて――。
心の内を言い当てられ。呆然と、レイドの顔を凝視した。
「あっ! レイドも、気づいてたんだな? ――炎竜、あの言葉に詰まってた時に……『大事な友』って言おうとしただろ?」
『な、何故……そう思ったのじゃ?』
主は、キョトンとし――。
「え? だって……。炎竜が『同士』って言う時、あまりにも視線が泳いでいたし……。その2人、セルディアとレイナの話をしていた時の炎竜の目がさ――俺達に向けてた目とそっくりだったから、流石に分かるよ」
ああ、そうだったんか……。ワシは意識せずとも、2人をそのように見ておったのじゃな。
『――そうじゃな……。ワシは何時からか、そう思っていたようじゃ』
「じゃっ! 決まりな! 今度からは、ちゃんと『ヤツ』って呼んでくれよ~? 正直、『主』って言われてるの、ずっと恥ずかしかったから良かったーー!!」
「確かに、『主』と呼ばれるのは恥ずかしいな……」
ヤツとレイドは、気持ちを共感しているのか、2人でウンウンと頷いていた。
2人をぼぅと眺めていたら――その姿が、セルディアとレイナであるように見えた。
それは、瞬く間にヤツとレイドの姿に戻ったが……。確かに、ワシの目にはそう映った。
そして……『再び、2人に逢うことが出来たのだ』と。その言葉が、ストンと胸に落ちてくる。
それは確証もないことなのに、これこそが正解であるのだと……不思議とそう思えた――――。
16
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる
たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。
表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
「陛下を誑かしたのはこの身体か!」って言われてエッチなポーズを沢山とらされました。もうお婿にいけないから責任を取って下さい!
うずみどり
BL
突発的に異世界転移をした男子高校生がバスローブ姿で縛られて近衛隊長にあちこち弄られていいようにされちゃう話です。
ほぼ全編エロで言葉責め。
無理矢理だけど痛くはないです。
転生したら悪の組織の幹部だったけど、大好きなヒーローに会えて大満足だった俺の話
多崎リクト
BL
トラックに轢かれたはずの主人公は、気がつくと大好きだったニチアサの「炎の戦士フレイム」の世界にいた。
黒川甲斐(くろかわ かい)として転生した彼は、なんと、フレイムの正体である正岡焔(まさおか ほむら)の親友で、
その正体は悪の組織エタニティの幹部ブラックナイトだった!!
「え、つまり、フレイムと触れ合えるの?」
だが、彼の知るフレイムとは話が変わっていって――
正岡焔×黒川甲斐になります。ムーンライトノベルズ様にも投稿中。
※はR18シーンあり
表紙は宝乃あいらんど様に頂きました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる