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121.〖炎竜〗過去
しおりを挟むレイナが、魔法で撃退しようとしてきたが――『ワシだったら、セルディアを助ける術がある』と伝えると。警戒しながらも、ワシを家に招き入れた。
そして【血の契約】というものを、セルディアとレイナに説明をし。それを提案することにした。
血の契約は、百年に一度だけ使うことが出来て。生ある者にワシの血を与えると、能力をいくつか授けることが出来る。
どのような能力を授けられるかは、無作為であり、分からないが。寿命は、確実に伸びる筈だ。
とはいっても、誰でも良い訳ではなく。ワシが『そうしたい』と、心から認める者しか、その効力は発揮しない。
だから、セルディアの血を引く子が出来たとしても。血の契約の痕跡は、繋がれていくが。その能力自体を、遺伝では引き継ぐことは出来ないのだ。
********
『――ということでな。ワシと血の契約を結べば、その短き生も確実に長くなるじゃろう』
ワシが、どうじゃ? どうじゃ? という風に聞いたのだけど……。何故か、2人は難しい顔をしている。
「本当に、そうなる証拠はあるのですか……? 信用し難い話ですね……」
レイナは、顔をしかめ。ワシの話を、疑わしく思っているようだ。
――うむ、人間とは変な生き物じゃの~? 願いが叶うというのに。それをいざ提示されると、素直に喜べんもんなのじゃろうか……? ワシには、よく分からん感情じゃ。
……にしても、このレイナというおなごは。珍しく、強い魔力を持っておるようじゃな。恐らく、人間で言うところの……最級魔術師だろうか?
レイナの魂は――中心部が、薄いクリーム色に、周りが白色をしている。
本当に、ごくごく稀に。ピッタリ色が一致している魂があるが……。その場合は、周囲から極級魔術師といわれ、憧憬の眼差しを向けられているようだ。
ただ、そんな人間など殆どおらず。人間は、低級~中級魔術師が大半で。その中で、ポツリポツリと高級魔術師がいるのだ。
レイナは、珍しく強い力を持っているから。周囲からは、羨望を向けられていることだろう。
――それに、見たところ。もう、外側の色は確定しているようじゃから……。これ以上は、色合いの変化はしないようじゃな。
人間の魂は、中心部の色は初めから分からぬものだが。外側の色は10の年齢を過ぎるまでは、チカチカと眩しく点滅していて、色を認識することは出来ない。
そして、外側の色は……。転生後には消えてしまうものであることも、己の経験から分かったのだ。
その経験というのも――ワシは初め、人間を興味から観察していた時期があり。観察対象の人間達が亡くなって、少し年月が経過してから……。
その人間達と、同じ中心部の色である魂を、度々見かけるようになっていった。
それが気になり。各地を回って、よくよく人間を注視して見てみると――。
中心部と同色の魂である人間が、同時期に二人とはおらず。
一定の期間で、世界に循環していることに気付いた。
しかし、外側の色は、以前とは違う色へと変化しているようだった。
だから、ワシは――その中心部こそが、転生しても変わらぬ、魂の基柱なのだろうと理解した。
だが……。同じ魂である筈なのに、転生後は似通ったところの一つもない人物になっている。
だから、人間の人格は。その中心部ではなく、外側部分である色の――消えてしまう方でされているのだとも分かり。何だか、それを少し残念に思ったのだ。
「――聞いていますか?」
ワシが、レイナの魂をしげしげと観察していたら。レイナは怪訝な表情を浮かべ、ワシを睨んでいた。
おっと、だいぶ人里から遠ざかっていたからの……。人との会話中に、考え事をしておったわ。
『ふむ、証拠は無いの。だって、ワシ今まで血の契約自体をしたことないからじゃ』
「は……? なら常識的に考えて、絶対にそうなるなんて言えませんよね?」
レイナは、ますますワシに鋭い視線を向けてきた。
まったく、短気なおなごじゃのう。
『そんなこと言われてもの~……。ワシは人間ではないから。人間の常識の枠には当てはまらんのだが……。まぁ、例えるなら。そなたは自分がいま行っている――手を動かしたり、足を動かすこと等を、細かく説明が出来るかの? ワシに言えることは【当たり前に、それが出来る】と認識していることだけじゃな』
そう、『当たり前に出来ること』を説明するのは難しい。
ワシにとっては、己の持つ“本能”が。それが可能だと認識している、という説明しか出来ないのだ。
それは【使役】に関してもそうであるが……。
使役というものは。人が、ワシの力を丸ごと使えるようになる――ワシを従属させる権利を与えるものだ。
だが、今。このセルディアという青年を救うには。ワシの力を利用できるようになる使役ではなく、寿命を伸ばすことのできる血の契約の選択しか無いだろう。
ワシの言葉を最後に、レイナは口を閉ざしてしまい。部屋の中には、重苦しい空気が漂っている。
――ふぅと、ため息がこぼれた。
『善意で、お主らに提案したのじゃが……。まぁ、ワシの言うことが信用出来ぬなら、仕方ないの。別に、無理に行おうとは思わんのでな……』
ワシは、よっこらしょ! と腰を上げる。
空間魔法を使って、さっさと火山へ戻るか? それとも、久しぶりに街へと降りてきたから……観光でもしようかな? と悩みながら、窓の外へと足を向けた。
「ま、まっ、て……!!」
掠れた声に呼び止められ、そちらに向き直ると――ずっと黙っていたセルディアが、強い視線をワシに向けていた。
『ほう……? てっきり、お主は……生を諦めたのかと思っておったわ』
本当に、人間は面白い。急速に、願いが近づけば恐れ。願いが遠ざかれば求める。
その矛盾し、ひねくれた生き物が。今や、この星を支配している。
どうやって、そこまで発展することが出来たのだろうか……?
ふむ……。本当の意味で、人間と深く関わる良い機会じゃ。今までは、観察くらいしかして来なかったからの。
「いや、気に、なっていて……。何故、今、なんだ……?」
何故? 今? そんなの――。
『いつも欠かさず、山に訪れ。何かを呟きながらウロウロとしていたお主が、急に現れなくなっていたのでな。気になっただけじゃ』
ワシがそう言うと。何故か、セルディアが目を大きく見開いた。
「なん、だよ。ちゃんと、見てたんなら、反応くらい、返せよな……っ! 恥ずかしい、じゃんか……!」
セルディアは、口を尖らせ。恥ずかしさからか、頬を染めている。
「――ねぇ、それが出来るなら……早くやって?」
レイナが、低い声で言葉を発し。ワシに冷たい視線を投げかけてきた。
『ホッホッホッ!! これが、嫉妬というやつかの~? 短気は損気じゃよ?』
「……は?」
「お、おい……っ! レイナ……! なんで、魔法を……展開し、てんだよ……!? 危ない、だろ……っ!?」
レイナは、最級魔法を大量に発生させ。それらを全て、ワシへと向けた。セルディアは、それを慌てて止めている。
ワシが伝えた話を、この2人がまだ疑っていたとしても……。ワシは『人間ではない』と、はっきり伝えた。
にも関わらず。2人は、人ではないワシに対し、物怖じもせずに接している。
だから、先程よりも――セルディアとレイナに、興味が湧く。
ワシの退屈な日々が、楽しくなりそうじゃな……と思い。ふっ、と口元に笑みが浮かんだ。
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