110 / 140
110.幸と辛、二つの過去
しおりを挟む今まで、ちゃんと話せなかった時間を埋めるかのように。レイドと、女子トークならぬ男子トークを学生に戻ったかのように話していた。
――だが【学生】は、ここの世界には無い。
ここの世界は、魔法の基礎的なものを習う【学校】というよりも、【講習会】のような感じなのだ。
しかも、何回か行った後に、資料を渡されて終了。
だからか、まったく楽しいもんじゃなかったし……。
その後は――『各自で自主練をし、感じて覚えろ! この世は弱肉強食だ!!』みたいな、意外とパワフルな世界なんだ。
ん~……。だから、ちゃんとした知識もない、自分勝手な馬鹿が多いのかな……?
あっ! そうか! 俺が、学校ってものを作れば良いかな……? あっちの世界で過ごしてたから、何となく仕組みとかも知ってるし。
「――ヤマダは……。幼い頃、どのように過ごしていた?」
俺が、うんうんと自分の閃きに満足していた時。レイドが、俺の顔を覗き込んできた。
「え? ああ、俺の子供の頃……?」
――あ、レイドと話している最中に、自分の世界に入り込んじゃってたわ。
そうだ。レイドには聞いたくせに、自分の話はしてなかったな。
「……こっちの世界の俺は、捨て子だったんだ」
きっと、俺の両親も。レイドと同じく、等級の低い魔術師だったのだと思う。
極級レベルの子供は、通常だと極級魔術師が両親だ。
だから、自分達がそういった辛い経験をしたからこそ。子供を大事に育てるのだろう。
けど、もし……。等級の低い両親から、極級の子供が産まれたのなら――恐ろしくなるのではないか。
多分それで、俺は捨てられたのだと思うんだ。
そして、レイドの両親のように。最初は恐れ、閉じ込めていたが……『自分達の得になること』を考え始めるクズもいることが。今回、レイドの話を聞いて分かった――。
「捨て子……」
レイドは、しまったという顔をしていて。俺に聞いたことを悔やんでいるようだ。
いやいや、レイドの過去のが、俺からすると悲惨だからな……?
「そんな、嫌な記憶は無いぞ? むしろ、保護してくれてた施設の人達が、めちゃくちゃ良い人達でさ~! 俺の等級とか気にせず、周りの子達とも分け隔てなく接してくれてたんだ。俺にとっては、今でも大切な家族みたいな存在だな」
その人達は、中~高級だったから。もう、とっくの昔に亡くなってる。
でも、数百年経とうとも……。捨てられてた俺を拾って、大切に育ててくれたあの人達の記憶は、永遠に色褪せないものなんだ。
何より。極級魔術師の俺が、何事もなく成長することが出来たのは――かなり大事に守ってくれていたんだと、色々な事実を知ってから特に理解出来た。
「そうか……。良い者達に育てられたから、ヤマダはそのように優しい人間なのだな」
「……うん、ありがと」
俺が優しい云々は置いといて。レイドが、俺の大切な人達を『良い者達』って言ってくれてたから……なんだか凄く嬉しい。
……それに引き替え。あっちの世界にいた家族は、最低だった。
ヤツィルダの記憶が戻るまでは、あまり気にしないようにしていた……いや、思い出さないようにしていた。
俺は、目頭をグリグリと押さえ。つい、大きくため息を吐いてしまう――。
「……? ヤマダ、どうした?」
「いや、あっちの世界のことだから……。今は、もう……俺には関係ない話なんだけど…………」
微妙な話だし、言おうかどうかを悩み。チラリと、レイドに視線を向けると――。
レイドは俺が話すのを、じっと待っているようだった。
ああ、そうか……。レイドは小さい頃の俺と会ってたみたいだから、気になるのかもな。
「……俺な、あっちの世界の両親にとって。いらない子だったんだ――――」
********
俺は、両親の浮気によって生まれた存在だった。
本当は、両親には愛し合っている、本命の婚約者がいたのだが。婚約者を抜いた、ちょっとしたパーティーに呼ばれた時。お互いに魔が差し、一度だけ身体の関係を持ってしまったのだ。
熱が冷め。俺の母親が、慌てて避妊薬を飲んだが――それでも、俺がお腹に出来てしまった。
その事実に、婚約者達が気が付き。直ぐに、2人ともが婚約破棄を突きつけられる事態となった。
そして、両親共に。その婚約者達と同じくらい、良い家柄であった為。そのまま、婚約者をすげ替えるということで丸く収めた。
しかし、自分達の行いのせいにも関わらず。両親の、俺への扱いは酷いものだった。
体裁により、身体的な虐待はされなかったが。精神的な虐待を、幼い頃からずっと受けていて。
『死ね』『消えろ』『価値のない人間』『存在している意味が分からない』『なんで生まれて来たんだ』――それらの言葉は、物心がついた頃には既に、両親から言われていた言葉だった。
両親が自宅に帰って来た時には、俺は息を殺して俯き。ただ、ひたすらにその暴言に耐えるしか出来なかった。
でも、良い家柄のお陰で。俺には、有能なお手伝いさんがつけられていた。だから、その環境でも衣食住は得られ、生きていくことは出来たんだ。
それで、多分。蛇になってた、レイドと会った頃だと思うけど――。
俺は、頭などを強く打ち、病院に運ばれたことがあり。病院に、両親が見舞いに来て『お前は、不運な事故にあってしまったようだ。可哀想に……』と言われ、痛いくらいに抱きしめてきた。
そして、退院し。家に帰って直ぐ――『ちゃんと、死んでおけよ! 死に損ないが!!』と、ちゃんと死ねなかったことを両親に責められたのだ。
少しでも心配してくれたかと思っていた。だから、ショックで呆然と、ただ両親を見上げていたが……。
いつも以上に、まるでパニックを起こしているかのように……必死な形相で怒鳴り、罵倒する両親は――とても可哀想な人間だと思った。
――それから、数年が経ち。俺は、全寮制の中学校に入りたいと、両親に伝えることに決めた。
その頃には、もう。俺は両親に対し、微塵も期待しなくなっていて。
両親も飽きたのか、罵倒することは無くなっていたのもあり、幾分か楽な気持ちで話し掛けることが出来た。
それに、両親にとっても。俺がいない方が楽だと思っていたから、二つ返事で了承されるだろうと安心していたのだ――……しかし、無視をされた。
全寮制の学校についての返事がされず、数日が過ぎ。これは、一種の嫌がらせだと流石に気付いた。
早くしないと、エスカレーター式に、近くの中学に入らないといけなくなる。
そうなると、この地獄のような家から逃れられないと俺は焦った。
だから、仲の良い友人も一緒に行くとか、景色の良い場所で勉強に集中したいとか、就職する時に有利だとか、両親に何度も訴え掛けた。
自分達に張り付くように追いかけてくる俺が、いい加減煩わしくなったのだろう。進学が決定するギリギリで、やっと了解してくれた。
だが、俺に視線を向けた2人の顔は。酷く強張り、話すのも嫌だというように歪んでいるものだった。
そして、俺があのように死ぬ、その時まで――両親と顔を合わせることは、一度もなかったのだ。
********
0
お気に入りに追加
123
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
魔族に捕らえられた剣士、淫らに拘束され弄ばれる
たつしろ虎見
BL
魔族ブラッドに捕らえられた剣士エヴァンは、大罪人として拘束され様々な辱めを受ける。性器をリボンで戒められる、卑猥な動きや衣装を強制される……いくら辱められ、その身体を操られても、心を壊す事すら許されないまま魔法で快楽を押し付けられるエヴァン。更にブラッドにはある思惑があり……。
表紙:湯弐さん(https://www.pixiv.net/users/3989101)
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
性女【せいじょ】に召喚~男は男達にイカされる
KUMA
BL
八神尊(ヤガミミコト)15歳
尊はある日 召喚されてしまった。
何処にかって……
異世界転移と言うヤツだ
その世界は男の存在だけ
あれ変わんなくないとか尊は思う
尊は性女として召喚され…
その日から尊は男にモテるように…
ヤ○○ン皇太子殿下「お前を知ってしまったら他とはしたくなくなったぞ。」
優しいドS王子様「君は私の心に火を付けた、この恋の炎はもう消せませんよ。」
強引な騎士様「どんな貴方も、好きです。」
変態魔導師様「貴方を召喚したのは僕です、僕の子を孕んで下さい。」
俺様公爵様「絶対…俺の事を好きと言わせるぞ、相手が王族でも。」
毎日違う男にお尻の穴を狙われる日々
そんな日々を送れば快楽に落ちちゃった尊
尊の運命は…
「陛下を誑かしたのはこの身体か!」って言われてエッチなポーズを沢山とらされました。もうお婿にいけないから責任を取って下さい!
うずみどり
BL
突発的に異世界転移をした男子高校生がバスローブ姿で縛られて近衛隊長にあちこち弄られていいようにされちゃう話です。
ほぼ全編エロで言葉責め。
無理矢理だけど痛くはないです。
転生したら悪の組織の幹部だったけど、大好きなヒーローに会えて大満足だった俺の話
多崎リクト
BL
トラックに轢かれたはずの主人公は、気がつくと大好きだったニチアサの「炎の戦士フレイム」の世界にいた。
黒川甲斐(くろかわ かい)として転生した彼は、なんと、フレイムの正体である正岡焔(まさおか ほむら)の親友で、
その正体は悪の組織エタニティの幹部ブラックナイトだった!!
「え、つまり、フレイムと触れ合えるの?」
だが、彼の知るフレイムとは話が変わっていって――
正岡焔×黒川甲斐になります。ムーンライトノベルズ様にも投稿中。
※はR18シーンあり
表紙は宝乃あいらんど様に頂きました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる