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108.よく知る匂いに包まれて
しおりを挟むミィーナの手紙を見てから――昔の思い出が、次々と蘇ってきた。
いつからか、ミィーナが皆の妹分になっていたんだよな。俺にとっても、妹って感じで……目に入れても痛くないくらいに可愛がりまくってた。
そういや、魔術塔の皆で。定期的に集まって、ゲームしてたっけ。何故かやる毎に、俺が全敗だったな~……何でだろ?
あ~、意味分からなかったのが……。
なにか、トラブルとかはないかと、俺が夜に見回りしてたら。市民の警備員に、俺が補導されちまって。
連絡を受け、迎えに来た魔術塔の仲間が。俺と顔を合わせた途端、大爆笑してたこともあったな。
流石に、ずっと笑いまくる皆にはガチギレしたわ。
――レイドに術をかけた、禁術機の解術方法が分かった時。俺がいくら止めても……その場に居ないミィーナ以外の全員が、解術を試していた。
けど、誰一人。解術が出来る人はいなくて……。全員がその後も、何度も何度も試していたのを見かねて。
皆を退かし、俺が試したら――簡単に解術をすることが出来た。
正直、あっさり解術が出来たのに驚き過ぎて……実感が湧かなかった。
それもあって、泣く魔術塔の皆には『大丈夫、大丈夫! 俺がいなくても、お前達なら平気だ!』なんて、無責任なことを言ってしまい。レイドが目を覚ますまでの、15分程の間しか話せなかったのだ。
俺が、急に消えてしまったことで。皆がどんなに苦しい思いをしたのか……レイドの過去を見たことで痛感し、後悔した。
だけど、レイドを解術したことに関しては、まったく後悔はしていない。
それに、魔術塔の子達も。俺がレイドを助けたいと言えば、最終的には納得してくれたんじゃないかと思うんだ。
だからこそ、俺は……――皆と満足に話も出来ないまま、別れることになってしまったことが。本当に、申し訳なくて……。
「……っ、もう、あの子達には、会えないのか……。謝ることも、二度と、出来ないんだ……っ、ぅう……」
地面に顔を伏せ、嗚咽を漏らす。
冷えた頬に、生暖かい涙が伝うのが……なんだか虚しく感じた。
「――ッ!」
大きくしゃくり上げた時。身体をギュッと抱え込まれ、急のことで身体がビクリと固まる。
けど、すぐに――よく知る匂いが鼻を掠め、身体の力を抜いた。
のそりと見上げると……。思っていた通り、レイドがいた。
レイドは顔をしかめ、苦しそうな様子で、俺を腕に抱いている。
「レイド……」
「――ヤマダ、すまない。今、一人にして欲しいということは、分かっている。けど、ヤマダが泣いているのを分かっているのに……。知らぬ振りをし、立ち去ることが出来なかった」
レイドの、柔らかな匂いを嗅いでいると。悲しくて、辛い気持ちが落ち着いてくる。
「うぅん。いてくれて、嬉しいよ。ありがとな……」
俺は、暫くの間。身体を預けるように……レイドの腕の中に収まっていた。
△▼△▼△▼△▼
「へぇ~。じゃあ、今は魔力も無限! みたいな感覚なのか?」
俺は、気持ちが落ち着いてから。前に、炎竜から話をされた――レイドに寿命がなくなった……という件のことについて。少し気になっていた事を、レイドに直接聞いていた。
「ああ、そうだな。魔力を消費しても……直ぐに何処からか湧き出てくる、という感覚だ」
魔力は、生命力と同列であり。人間は、寿命が近づくにつれ、魔力がどんどんと減っていき、見た目も衰える。
そして、魔力が身体に作られなくなった時。老衰として、天命を全うする流れなのだ。
だから、人間の身体から、魔力が無限大に発生するということは。確かに、不老不死ということになる。
まぁ、それだから……。魔力の量が多い、極級魔術師が長生きということに繋がるんだ。
「炎竜の性質を、人間に置き換えてるなんて……凄いよな?」
「……確かに。自然力と魔力は、まったく違うものだからな。俺も、どのような原理かは未だに分からない。元々が、自然力自体が不可解なものであるから……。その自然から生まれた炎竜も、同じなのだろう」
う~ん、そうだよな……。これこそ、神のみぞ知るってやつか?
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