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102.種まきの時間
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「塔主様。キィラと、全てのケモフに防御壁を張りました」
「おう、ロンウェルありがと~!」
いや~……。記憶が戻る前からも、ちゃんとした名前があるんだろうな~? と思ってはいたんだけどさ……。でも、知らなくても問題なかったから。レイドに、その正式名称を聞いたりはしなかった。
今は、それらの記憶が戻ったから分かるけど……。青い鳥と言ってたのは【キィラ】という名前で呼ばれていて、毛玉と言っていたのは【ケモフ】って呼ばれていたんだ。
それで、今。キィラと、全てのケモフに移動が出来るタイプの防御壁を、ロンウェルに張ってもらったんだけど――。
ロンウェルはこの百年余りで、人間であれば5人ほどに、その防御壁を張ることが出来るようになっていたようだ。
だから、人間よりも面積の少ないこいつらだったら。今いる、23匹全ては余裕だと言っていた。
元々、その防御壁を使えるのは知っていた。けど、レイドの過去を見てからは、保護魔法まで併用していたのに驚き。今回の事で、更に驚いたのだ。
「あのさ、ロンウェルって……人間だよな?」
「え? は、はい、そうですが……。どうしたんですか? 急に……?」
ロンウェルは、不思議そうに首を傾げている。
「ちょっと聞いてみただけ~!」
うん、凄い天才って世の中にいるもんだな~!
『主~! 準備は良いかの?』
炎竜が少し離れたところで、俺のことを呼んでいた。
「あっ、オッケー、オッケー! もう、バッチシ! じゃ、ロンウェル、行ってくるな~!」
ロンウェルに、じゃっ! と手を上げ。俺は、炎竜の背へと飛び乗った。
「はい! 塔主様、炎竜様、ハートシア様。よろしくお願いしますっ!」
ロンウェルが、ブンブンとこちらに激しく手を振っている姿が。炎竜が夜空へと羽ばたくにつれ、徐々に小さくなっている。
『ホッホッホッ!! 元気な者じゃの~』
「ロンウェル、行ってくる」
はぁ~、涼しい空気が気持ちいい~!
「ヤマダ、出来るか……?」
レイドは、俺が落ちない為になのか。抱き締めるようにして、炎竜の手綱を持っていた。
強く身体を抱かれているから、少し苦しいけど……。その気遣いは、嬉しく思った。
「おぅ! ちょっと、待っててな……」
自分の身体へと、意識を向け――。
「出でよ~! おぉっ! 出た、出た、出た~~!!」
ぶわぁああ~~~!! 光粒の種が、俺から溢れ出した。
********
俺がやるべきことは、陸地の清浄と――空気の清浄だ。
陸地は、全世界を清浄出来たから問題ないけど。
空気に関しては、外にあった光粒の花が全て枯れてしまっているからか……。人は、日に日に息苦しさのようなものを感じているようだ。
でも、光粒の花は、一度根を下ろした所から移動させようとしても、直ぐに枯れてしまうため。それを行うことは出来なかった。
加えて、例え根付けたとしても、様々な外的要因(根付こうとした土が、人々の生活により一瞬でも汚染されてしまっていた場合)であっても枯れてしまうことを炎竜から聞き、分かっている。
だから……。ダンジョンの密封した所から、光粒の種が全世界に流れ、根付くまでには。とても、長い歳月がかかってしまうのではないかと……。俺はそれが心配だった。
しかも、光粒の花は種を噴き出した後。なるべく早くに、腰を据える場所へと根を下ろさなければいけない。
それは、花から飛び出した種が約一週間までに(場所が狭いなどの理由で)根付けなければ、芽吹くことが出来なくなる程に繊細なものだからだ。要は、そこの場所が綺麗な土であっても、種のまま成長が出来ずに転がっているだけになるようだ。(恐らく、キィラ達がダンジョンに沢山持ってきたのが、そのように根付けなかった種だろう)
更に、種を出し終えた光粒の花は枯れてしまうため。一年ごとに、ちゃんと各地に入れ替えるようにもしなければならない。
俺が、それらに頭を悩ましていると――。
まったく考えてもしていなかったことを、炎竜に言われた。
俺自身が、ダンジョンから移動出来るから。手っ取り早く、炎竜の背に乗って、各地を回れば良いのではないか、と……。
最初、何を言われているのが分からなかったんだけど。次に、レイドが納得したように頷き。俺にそれの詳しい説明をしてくれた――。
ダンジョンの核というのは、心のような【精神的な部分】にあたるらしい。
そして、外側のダンジョン自体が、身体のような【肉体的な部分】だという。
その内部に、元々存在していないものであれば……。人形であっても、自由に取り出すことは可能なのではないか? と言っていた。
人間に例えると、アクセサリーを取り外す的な感じであるようだ。
それで、試しに。ダンジョンをしまってから。
中にある、光粒の花を取り出す想像したら――ピョコンと掌に生えてきた。
なんか、凄く感動して。ピョコンピョコンと、身体中にそれを大量に生やし、踊った。
すると。運悪く、人が通りかかって『化け物~~~!!』と言い、逃げてった。凄い、転けながら必死に逃げてて……。めっちゃ、反省した。
ちなみに、自分のダンジョン内に元々あるものは。例え、石粒ひとつであっても取り出せなかった。
人間で言うならば、内臓を体外に取り出すようなものらしいし。その防御本能で、出すことが不可能なのかもしれないな。
それで、何故そんなことをレイドが知っていたのかというと……。
実は、レイドと炎竜は伝書を使い、俺の体質についてのやり取りをしていたらしい。(多分、喧嘩のようなことをした後あたりか?)
だから、レイドは炎竜が言っていることを理解出来たようだった。
なんか……。自分のことなのに、その本人が一番わかってないのってどうなの? ……と思ったが。必要な事があれば聞けば良いや、とあまり考えないようにした。
だって、レイドも炎竜も。自主的には、俺に説明しないし、2人共に教えるのが苦手って言ってたっていうのもある。そして、何より……。その知識が必要になってから俺が聞くパターンって、いつものことで、もう慣れたからな。
――そして、光粒の種が噴き出す、その時期までは。
具合の悪い者達に、レイドが回復魔法を積極的に使うようにしてくれて、何とか凌いでいた。
********
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