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101.上手い喧嘩の仲裁なんて、出来ん
しおりを挟むいつもの森へと戻り、ダンジョンを展開してから。長い間、ロンウェルに渡された手紙を握り締めていた。
けど、その封は開けられずにいる――。
これを、いま読んだら……。駄目な気がするからだ。
俺は、ヤツィルダとしての記憶が戻ったが。まだ、自分のやるべきことが残っている。
だから、過去の……――魔術塔の子達と一緒に過ごした記憶を、深くは思い出さないようにしていた。
それでも、ロンウェルと話したことで皆との記憶が蘇り。感情が高ぶってしまったが……。直ぐ、気持ちを落ち着かせるように、違う方へと気持ちを切り替えた。
――うん……。手紙を読むのは、全てが終わってからにしよう。
「ヤマダ。俺は、少し外に出る」
「え……? なんで?」
外に、まだ何か用でもあるのかな?
レイドが次に言う言葉を待っていると――。
レイドはチラリと、俺が手に持っている手紙を見た。
それで、気を遣わせていることに気づく。
「あぁ、これ読むの……。今、まだ残っていること全て終わってからにしようかなって思ってる。ありがとうな、そんな気を遣わなくていいよ」
「……そうか」
レイドは、何だか悲しげな表情を浮かべ。この手紙に目を落としていた。
レイドの過去を見て思ったけど。レイドは、ミィーナに対し、何か罪悪感を持っているように感じる。
それは、ミィーナが命をかけて防御壁を張る魔法具を作っていたことを、自分が気づくことが出来なかったと思っていることからなのか。それとも、自分とミィーナの気持ちが同じであったからなのか……。
でも、元を辿れば……俺を助けようとしたから――。
ああっ! 過去を深く考えないようにと思った矢先に……。アホか、俺は。
深呼吸をし、気持ちを切り替えていた時――魔術塔で、レイドが肩を落とし、元気がなかったことを思い出した。
そういえば、レイドは、何であんなに落ち込んでいたんだろう?
レイドを見ると、今も元気ない。でも、あの時とは感じが違う。
それを気になりはしたけど。終わったことを、それは何でだったんだと、わざわざ聞き出すのもどうかと思い。結局、聞くのは止めた。
うん、人には何かと思うことが、たくさんあるからな。
ひとりで、そう納得していたら。ダンジョン内に、パッと人が現れる――。
「誰だ……?」
レイドは、現れた人に向かい。警戒しながら問いかけた。
『良かった……。2人共に、無事であったのじゃな』
「……まさか、炎竜か?」
炎竜は、安心したように息を吐いている。
「あっ、炎竜! はははっ! 随分な寝坊だな~?」
『あ~、すまんのう……。何とか抵抗はしておったのじゃが、禁術機の者に閉じ込められた場所から、なかなか抜け出すことができなくての~……』
炎竜は、時間が経てば目を覚ますだろうと思っていた――。
黒の禁術機は、炎竜を押さえ込んだとは言っていたが。消滅させたとは言っていなかったし。
炎竜の主である俺へと。使役している炎竜の命が、危険な状態にあるのだと知らせが来ていない時点で、その心配はないだろう――……と、いうのを。
最近。炎竜の状態をハッと思い出した時に、思ったんだ。
いや、色々とゴタゴタしててさ……。うん、炎竜ごめん。つい最近まで、すっかり忘れてたわ。ま、わざわざ、それは言わんけど……。
「――ヤマダ……。炎竜は、人の姿になれたのか?」
「ん……? あれ、前に言ってなかったっけ? 何とか炎竜を使役しようと、お酒とか食べ物をあげてたって……。はは! 流石に、元の巨体じゃ、それらを味わう前に全部ひと飲みじゃん? そんなんだったら受け取ってももらえないってば! レイドって、以外と天然だったりする? ははははっ!!」
俺がお腹を抱え、笑っていると。ガバリッ! といきなり炎竜に抱き締められた。
「えぇっ!? ちょ、ちょっと……? 炎竜??」
『主、記憶が戻ったのじゃな……? あんなことも、こんなことも……。ワシと過ごした、全ての事を思い出してくれたなんて――ああっ! 感無量じゃ!!』
そっか、炎竜は俺の魂とかも見れるし。俺に関する当時の状況とか、いち早く把握していたようだから……色々と知っていたんだろうな。
そういえばと思い。炎竜に、灰の禁術機の時になんで人形にならなかったのかと聞くと――。
二度と人間に関わるつもりがなく、関わりを一切断っていたから。純粋に、そう出来ることを忘れてたと言われた。
俺も、大概だけどさ。炎竜って、結構うっかり者なんだよな~。
――話している間も、ぎゅうぎゅうとへばりつかれていて……。俺は、いい加減、炎竜の腕から離れようと目の前の身体を押すと。
炎竜は、俺の頭に頬をスリスリと擦り付けてきた。
「ちょ、と……! 炎竜、離――」
――ゾワワワッ!!
「へっ? レ、レイド……っ!?」
凄まじい殺気を後ろから感じ。バッ! と振り返る。
レイドが無表情で。いつの間にか、凄い数の極級魔法をこちらへと向けていた。
「炎竜……。少し話がある、表に出ろ」
『え~? 嫌じゃ、嫌じゃ~!! 見て分からぬか~? ワシは今、主とラブラブしている最中なのじゃよ~! 邪魔はしないで欲しいの~!!』
シュッ! と音を立て――針のように鋭く尖った氷魔法が、炎竜に向かって撃たれる。
それを、炎竜は手から炎を放ち。一瞬で消し去った。
「え? な、なに……? なんで、レイド怒ってんの? えぇ……?」
『まったく、しょうがない奴じゃ……。短期は損気、という言葉を知らぬのか~? 主、すまんが……。ちょいと待って――おっと! はぁ……。本当に、待てが出来ない奴じゃな?』
――それから、レイドと炎竜は。ずっと、激しい攻防をダンジョンの外で繰り広げていた。
最初、俺は意味が分からなくて混乱していたが。流石に、それが長時間にもなると……。何の説明もなく、喧嘩(?)のようなことをしている2人に、なんだか非常に腹が立ってきた。
それで、俺が本気でキレたことにより。その良く分からない状況を打ち切ることが出来たのだ。
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