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88.〖レイド〗過去
しおりを挟む『あんな、いつもヘラヘラした馬鹿みたいな奴を……。何故、俺がこんなに苦労して助けないといけない?』
『そもそも、俺が魔術塔に所属しなければいけなくなったのも、アイツのせいじゃないか? まったく、煩わしい!』
『俺が、頼んで命を捧げてくれなど言ってない。あの馬鹿が勝手にやって、みっともなく死んだだけだ』
「――ふ、ざけるなっ! そんなこと、思うわけないだろうっ!!」
『魔術塔を盛り上げようだと? 俺より、何もかもが劣っている、あんな奴らの面倒を見るなど……。勘弁してくれ……』
『俺よりも、ミィーナがもっと頑張らないといけないだろう? 二度も、同じ禁術機に操られたんだからな』
『アイツの魂が永遠に消えようが、別に構わないだろう? だって、転生した人間は全く違った人間になるんだ。そう思って、アイツの事は諦め――』
「黙れっ!!!」
壁のように遮られているものに、少し手応えを感じ始めて来た頃――。このような声が、頭の中に響いてくるようになった。
しかも、俺の声を使って言っている。
「そんなことをしても、絶対に手から離すつもりはないし、それに感化されることもないっ!!」
――日が落ち、日か登り、日が落ち、日が登り……。
どれくらいの月日が経ったのか、分からない。
手応えを感じたと思った時のまま、いくら魔力を注いでも、変化が無くなっていた。
だから、あの時からずっと――。俺の声を使って、醜悪な言葉をだらだらと垂れ流している。
聞かぬように意識を逸らそうとしても、頭に直接響いてくる為、嫌でも聞かされる。
まるで、そうすることは許さないというように――。
それから暫くして……。俺の中で、何かが弾けたのを感じた。
『もう諦めるか……。俺が、こんなに頑張っている意味がない。これから長い年月の中で、アイツ以上に良い人間に出会う時が来るだろう。ただ、顔が好みだったってだけだ』
「はっ! 諦めるか、馬鹿が……。意味がない? あるだろ。ヤツィルダを取り戻すと、皆にも約束した。俺を信じてくれたんだ。それに応えたいし、勿論、俺も同じ気持ちだ。顔が好みなのは否定しない。ヤツィルダ程、全てが完璧な可愛さなど存在するものか……。神の最高傑作だ。いや、あれは奇跡の産物だろう」
『いつ終わるか分からない、こんな状況など。もう、うんざりだ。魔力だって、何度尽きかけたか……。栄養剤だって、いつまで持つか分からないしな。だから、諦め――』
「むしろ、このような状況になって。俺は、いかにヤツィルダを愛していたのか痛感した。だから、自分を見詰め直すきっかけになったことだけは、良かったと思っている。魔力は小出しにしているから、全然問題はない。俺なら、皆が用意してくれた栄養剤の量があれば、百年ほどは持つだろう。だから、まだまだいけるな」
『全てを投げ出し、逃げたいと思ってしまうな。俺は、責任など負いたくな――』
「その気持ちは、既に解消された過去のものだ。責任を負いたくないのなら、始めからここにはいない。そんなの、俺だったら知っている筈のことだがな」
『――――……』
――パキン。
「……ん?」
遮られていたものが消え。
頭に響いていた声も、一切聞こえて来なくなった。
一先ず、これで難関を乗り越えたということか……?
「禁術機の術者になるには、魔力を注ぎ入れれば良いのだろうか?」
低級魔術師でさえ術者になれるようだから、そう難しくはないと思うが……。
俺は、手に持っている白い禁術機に魔力を注ぎ込む。すると、何かがカチッ! と嵌まった感覚がした。
次いで、何かが起動した感覚もする。
「……? 実感は無いが……。白い禁術機の術者になれたのか? 取り敢えず、皆に伝――ッ!!?」
――バシュッ、バシュッ、バシュッ、バシュッ!!
禁術機が宙を浮き、こちらに向かって魔法を撃ってきた。
「なっ!? 何故、禁術機から魔法が!?」
しかも、極級レベルの強力な魔法が、こちらへ大量に降り注いでくる。
「くっ! 一体、どういうことだっ!? 俺の魔力が、破壊しようとしていると、認識されてしまったのか……!?」
確か、前に……――禁術機を破壊しようとした場合。暴走してしまう可能性が高いのだと、聞いたことがあった。
それが、今。起こってしまっているのかもしれない――。
********
「はぁっ、はぁっ! こ、れは……いつまで続くんだっ!?」
――昼夜問わず。禁術機の攻撃を、撃ち落としたり、避け続け……。日にちなど、数えていられなかった。
今のところ魔力切れは起きていないが、それも時間の問題だろう。
「ぅっ……! ――ガハッ!!」
一瞬、足元がふらつき。禁術機の攻撃が、胸の辺りを直撃した。
「――ゴフッ!! ゴホッ! ゴホッ!!」
――……ボタボタボタッ!! 口から、大量の血が吹き出る。
「ゴホッ!! ゴプッ……! ―――ヒュゥ、ヒュッ! ヒュッ!!」
禁術機から、追撃が来てしまうかと思い。慌てて身体を動かそうとしたら、当たりどころが悪かったようで、息が吸えなくなってしまった。
意識が落ちかけたが、何とか耐え。残り少ない魔力を使い、自分へと回復魔法を使う。
「はっ! はぁ……! ――……ふぅ。………ん?」
何故か、禁術機からの攻撃が止んでいた。
「なんだ……? 停止、しているのか?」
先程までの、激しい攻撃は鳴りを潜め。禁術機は、宙を浮き、そのままピクリとも動かなくなっていたのだ。
試しに近づいてみると、禁術機との距離が3メートル未満になると、電流のようなもので遮られてしまうが。今は、攻撃をしてくるつもりは無いように見えた。
まさか、禁術機にも……魔力切れのようなものがあるのか? ――いや、それは無いのだと、魔術塔の者達が解析していたな。
「だが、こちらとしては好都合だ」
理由は分からないが、停止してくれているのならば、今のうちに休息を取っておける――。
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