ダンジョンの核に転生したんだけど、この世界の人間性ってどうなってんの?

未知 道

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82.〖レイド〗過去

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「分かりました。こちらで引き続き、防御壁を塔主様へと張ります」
「ああ、すまないな」
「いいえ、当たり前のことです!」


 ロンウェルが疲れた様子も見せずに、笑顔で言う。


 俺は、魔術塔の者達と関わりが希薄で。各々の能力というものが把握していなかったのだが……。ロンウェルという者の能力を知り、圧倒された。


 通常の防御壁とは。守りたい対象を、丸い球体の中に囲う。

 最初は、通常の防御壁を張ってくれていたのだが。流石に、科学室の中央部分にヤツィルダをずっと寝かせておくわけにはいかないと思い。どうにかして移動をさせようと、ロンウェルにその旨を伝えると。

 新しく極・防御壁を張り直してくれた。

 それは、ピッタリとヤツィルダに貼り付くようにされていて。一見、防御壁と分からないくらいに繊細に出来ていた。

 更には、移動することも可能なのだ。

 ただ、それは巧妙な術であるので。今は1人が限界だと、恥ずかしそうにロンウェルは言っていたが……。このような防御壁を張れる人物を初めて見たから、俺は呆気に取られてしまった。


「いつか、ここで私達を導いてくれる塔主様を、また見たいです……」


 ロンウェルが物悲しげに言い、俺もそれに頷いて答える。


 ここは、塔主が普段いる部屋であり。この部屋にあるソファーの上へと、ヤツィルダを移動させた。


 後に、ロンウェルに聞いたのだが。俺が最近入ることの多いこの塔主の部屋は、皆からは【塔主の間】と呼ばれているようで。ここは、塔主が認めた者でしか踏み入ることが出来ない空間だという。

 それ以外の者は、扉を開けることすらも出来ず。仮に部屋が開いたままであり、その中に入ろうとしても、透明な何かに弾かれてしまうようだ。

 このような仕掛けのある魔術塔は、一級魔法具職人が作り。塔主の間を基盤にし、魔術塔は組み立てられたというのだ。


 ロンウェルに、あの契約書などもその者が作ったのかと聞いてみると。恐らくはそうみたいだが、その人物は塔主様にしか会いたくないと、素顔も不明な謎多き人物らしい。

 それを聞いた時。ヤツィルダの人間タラシのような才能に、俺は何だか妙に感心してしまった。


「確認だが……。この場所は、今いる魔術塔の者達であれば、入ることは可能なのか?」
「はい。塔主様いわく『皆にとって、魔術塔は家と同じだ! だから入れないところがあるのは駄目だよな~!』と言って、皆に許可を出していました」
「……ヤツィルダらしいな」


 俺が、ここへの入室を許可される前に『お前が塔主の間に入るのを許可する!』となんだか肩をバシバシと叩かれたような気がする。

 俺は、肩を叩くヤツィルダに怒り、それに対しては深く考えなかったが……。あの時に、承認の魔力を渡していたのかもしれないな。


 ここの部屋に入る時は、取っ手に自分の魔力を流し込み、塔主に許可された人物であれば扉が開く仕組みであるのだ。

 この仕組みは、魔術塔に入る時や、クリムルの酒の引き出しを開ける時と同じ仕組みであるから……。やはり、同一の者が全て手がけているように見えた――。



 ********


「――では、前にハートシア様が記入張に書かれていたように、禁術機はこちらの動きを読んでいる可能性が高いということですか……」
「ああ。禁術機がいる可能性が高いと分かった場所へ、俺が空間魔法を使い、飛んだとしても……既にもぬけの殻だ。まるで、こちらの出方を観察しているようにも感じる」


 俺は、今まで自分の能力を過信していたところがあった。

 それは、生まれて数百年の間。何かを失敗したことなど、一度もなかったからだ。

 だが、それがただの自惚れだったのだと……このような状況になり初めて知った。


「禁術機は、どこから現れたのかも、未だ謎に包まれていますからね。各々の持つ能力が様々で、個性のようなものがあり、洞察力もあるとなると……。これだけ見れば、人間のようにも見えますね」
「俺も、そう感じた。まだ分かっていないようだが、禁術機には人間のような感情が――」


 ――バタンッ!!

 俺が言葉を言い終える前に。塔主の間へと、勢い良く誰かが入って来た。


「ハ、ハートシア様っ! 今すぐに科学室へ、来て下さいっ!!」


 部屋に入るや否や、そう叫ぶように言う者へ顔を向けると――表情を強張らせた科学班の者が、扉を開け放っていた。
 説明する間も惜しいというように、俺を早く連れて行きたいようだが……。


「どうした……? 簡潔にで良いから、状況を教えて欲しい」


 流石に、何も分からず向かう訳にはいかない。そう思い、聞くと……――。


「禁術機が……! 新しい禁術機の存在が、ここの魔術塔で発見されましたっ!!」


 ――己の耳を疑うようなことを伝えられた。


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