ダンジョンの核に転生したんだけど、この世界の人間性ってどうなってんの?

未知 道

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80.〖レイド〗過去

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 掴まれながら引っ張り回されている、その感覚には身に覚えがある。

 その後。何かの中へと意識を入れられたような感覚にも、うんざりする程に身に覚えがあった。


『あのような手を使うとは、良く考えたものだ……』


 ため息を吐く――。

 すると、シュルルとした音が鳴る。それは、以前にも聞いたことのある音だった。
 もしやと思い、確認の為に自分の身体を見回すと――やはり蛇になっているようだ。


『蛇、か。ああ、今になって……』


 だからか、あの少年の事が頭を過った。

 あまりにも、思い悩む事が多く。少年の事を今になって思い出したのだ。


 しかし、禁術機がどのような手を打ってくるのかが分からないこの状況では……一瞬の隙すらも危ないだろう。

 だから、感傷等によって動きを止める訳にはいかない。何とか、今の状況を把握しなければ。


 辺りを見渡す――。


『ここは、まさか……?』


 ここは、見覚えがあった。

 前、蛇になった時に逃げていた公園か……?



「汚ない蛇はっけ~~~~~んっ!! みんなぁ!! 汚い蛇がいるよぉおお~~~~~~~っっ!!!」
『――ッ!』


 舌足らずの声がして、そちらに顔を向けると。
 頭にモヤがかかっている子供が、ニヤニヤとした笑みを顔に貼り付かせながら、俺を見ていた。

 そして直ぐに、3人の子供も現れる。


 ――これは、まるで。あの時の再現のようだった。



 逃げようとしたのだが、蛇の身体では逃げ切れず。その4人の子供達に、成す術もなく身体を痛めつけられ続けている。

 即死ではなく、じわじわと殺していこうとするこの攻撃に、意図のようなものを感じた。


『グッ! まさか、あの時に殺せなかった事を、根に持っているのか……』


 だが、子供達をよく見ると。以前、ここに居た者達とは違うようだ。

 何故だろうと不思議に思っていると――子供の1人が、俺をおもいっきり踏みつけようと足を大きく上げた。


 流石に、これは死んでしまうかもしれないな……と他人事のように考えていると。その子供が、一瞬身を固めた後、足を元の場所に戻していた。


『な、んだ? 何故、殺さない……?』


 これは、わざと殺すことのないように、手加減しているのか?


 禁術機の考えが分からず、混乱する。

 その間にも、どんどんと身体には傷をつけられていき。しかし、致命傷は与えないようにされていた。


 ただ、出来る限りの痛みを俺に与えたいだけなのだろうか……?

 だとしたら、長い時間これが続くということだ。俺はなるべく心を無にしようと、身体を縮めて目を瞑った。


 それから、少しして。バタバタと誰かがこちらに走って来るような音が聞こえてきた。

 新しい刺客なのかと思ったが。確認だけでもしようと目を開け、その音の方に顔を向ける――。



「こんの、ガキンチョ共がーーーっ!! 何してんじゃっ!!!」
『――――ぁ……』


 ――跡形もなく消えていなくなってしまった、ヤツィルダが。俺の前に立っていた。


『ヤツィル……! ――いや……』


 ヤツィルダは、死んだ。

 姿形はそっくりでも、この者はここで生きている。


 でも、あまりにも似ていた。ヤツィルダにも、あの時の少年にも……。それが気になり、俺は集中して魂の色を見ることにした――。


『な、ぜ……?』


 黒一色の、キラキラと綺麗に輝いている魂だった。


 3人の人間が、まったく同じ魂など……あり得るのか?

 しかも。容姿、声、雰囲気までもが、ヤツィルダそのものなのだ。


 魂の色を見ることの出来る俺からすると。このように、まったく同じ人間が生まれることは無いということを知っていた。

 何故なら、長い年月の間で出会った人間の全てが。同一である魂の色など、誰ひとり存在していなかったからだ。

 いくらここが異世界だとしても、その人間としての全部が一緒だなんて……そんな奇跡以上なことが起こり得るのか?
 しかも、たまたまそんな人間達に、俺が出会う確率なんて……。あり得ない。
 前に、少年に会った時は、偶然そうなのかと納得しようと思ったが……。やはり、自分の直感がそうではないと訴えている。


 まさか、これは……――。


『魂の変異……』


 禁術機による魂の変異は、前世とまったく同じ姿や魂のまま転生するというものではないのか……?


 ――……そうだ、俺は何故そのことに考えが及ばなかったのだろう。

 俺をここに落とした禁術機の力は、世界の枠すらも越えていく。異世界や、過去……そして、未来だったとしても。

 この者は、あの時に俺を助けてくれた少年であり。ヤツィルダの生まれ変わりだったと考えれば、全ての辻褄が合う。


『だから、だから……! その姿も魂の色も、まったく同じだったのか……っ!』


 俺は、またヤツィルダに会えた喜びに、身体が震える。


 ヤツィルダは俺の様子を見て、更に怒ったのか。子供達に何かを言い、公園の外に向かって誰かを呼ぶ素振りを見せていた。

 じっと見ていると……。その頭の上に、何かうっすらとモヤがかかっているのが俺の目に映った。


 なんだ、あれは? 俺を傷つけるなどの行為はしていないし、それ以前にこの禁術機は綺麗な魂の者にあのモヤをかけることは出来なかっ……――いや、一度だけ、あったか。

 ヤツィルダが少年だった時に、モヤをかけられて戻って来たことがあり。その時は、ただぼんやりとした様子で俺を見ていたのだ。

 だとするなら、禁術機は扱いにくい綺麗な魂の者であっても。多少の影響を与える事は、可能ということになるのか?


 もし、仮定としての話で。
 【殺せ】などの大きな行動を起こすものではなく。【何処かに向かえ】という何気なく行えるような……。軽い行動に対しての、暗示が出来るとしたら――。



『――ッ!!?』


 急に、後ろから強く掴まれ、次いで身体がガクガクと激しく揺れる。

 ぶれる視界で、俺を掴んでいる相手を何とか見ると。あの中にいた子供の1人が、アヒャアヒャと笑いながら凄い速さで走っていた。


「お、おいっ! ガキンチョ、何してんだっ!? 狂ってんのか!!」


 俺を掴む子供の後を追うようにして、ヤツィルダも追いかけて来ているようだ。

 そして、何か……いくつもの風を切るような音が徐々に近付いてくる。


 ――胸騒ぎがする。
 先ほど考えていた、暗示のことが……ふと頭を過った。

 ヤツィルダは、本当にここに来る用事があったのだろうか?


 俺は、身を捩ったり、子供の手に強く噛みついたりしたが。子供は、楽しそうな笑い声を上げるだけで、一向に力が緩まなかった。

 少しすると、鉄のような物体が激しく行き交う。その場所が見えてきた。



『――ぁ、あ……! そういう、事かっ!!』


 俺の身体が宙を浮き。その鉄のようなものが行き交う場所へと、放り投げられてしまった。


「まさかっ!? くそ……っ!」


 直ぐに、ヤツィルダも俺の元へ向かって来ているのが視界に入る。


『止めろっ!! 来るなっ! 来ないでくれっ……!!』


 俺の声が届かないのは、もう十分に分かっているのに、そう叫ぶ。


 ――理解してしまった。禁術機の狙いは、俺の絶望なのだと。

 そもそも、二度、ヤツィルダの生まれ変わりに会えたということ自体がおかしかった。それだって、奇跡以上の確率だ。
 ……そう、俺に会わせようとしなければ、ヤツィルダに会うことなど出来なかったのではないか?

 俺が死なないように手加減してまで、見せたいもの。俺が、確実に絶望するもの。
 禁術機は、分かっているのだ。あの時も、近くでから……――。

 ヤツィルダの死んだその状況を。俺が、ヤツィルダに『死なないでくれと』泣いて縋っていた姿を。


『――――ぅ、ぁあ……っ!!』


 俺の身体が掴まれ引き寄せられたのと同時に。
 頭の骨が砕け散り、脳髄を撒き散らす……ヤツィルダの虚ろな顔が視界いっぱいに映る。

 途端に、あまりにも場違いな子供の甲高い笑い声が、周囲に木霊していた……――。


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