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79.〖レイド〗過去
しおりを挟む科学室に入った途端。
バチバチバチと鳴りながら、激しく点滅する光を直視してしまった。
「ぅっ…!」
その激しい光に、目が眩む。
「ハートシア様っ!!」
声の方へ顔を向けると、科学班にいる者達が防御壁の中に入っており、こちらに呼び掛けていた。
「何があった!?」
「それが、あの禁術機が――」
光が、俺の方へ向かってくる。
まるで不意打ちのようなそれを、ギリギリで回避することが出来た。
直ぐに、それが放たれた方向を見ると――。
「まさか、あれは……」
以前、俺に禁術機の術をかけた女性が、機械の残骸のような物を手に持ち。バチバチと音を立たせながら、何度もその光を俺に撃ってきた。
この様子から考えるに。あの機械の残骸は、禁術機だろう……――。
「くっ! あれは、壊れたのではなかったのか!?」
それらを避け、防御壁の中に入っている者達に叫ぶようにして聞く。
「た、確かに壊れた筈です! しかし、力の残留による数値だと思っていたものが、そうでなかったのなら……」
会議室で見た、あの解析数値か。
今の状況から、まだ破壊していなかったということだろう。
「ハートシア様、こちらへ!」
横目でそこを確認すると。
銀色の髪に青色の瞳をした男性が、防御壁を解き、俺が来るのを待っている様子であった。
先程、確認した時。非常に細かく構築のされた防御壁だった。だから、あの者が魔術塔にいる2人目の極・防御壁を使える魔術師だと分かった。
「――ッ! 俺の事は良いっ! 早く、防御壁を張れ!!」
そちらの方に、女性が光を撃つ素振りを見せたので。慌てて、そう叫ぶ。
男性もそれに気付き、再度、防御壁を張ったようだ。
「……成る程」
防御壁が張られる時、少しだけ間があった。
それで、禁術機は光を撃ってしまうかと焦ったのだが。直ぐ、俺の方に焦点を戻したことを考えると……。俺をそこに入れられては困るから、脅しただけのように感じる。
――という事は。禁術機は前回と変わらず、俺に狙いを定めているのだろう。
「なんだ……?」
禁術機を持つ女性が、急に動きを止めたので。次に何をするのかと警戒していたら――。
女性は、ナイフのように鋭く尖っている禁術機の欠片を、己の首に押し付けた。
「……ミィーナっ! 止めろ! ミィーナ!! おいっ!!」
防御壁の術を使っている者が、その女性――ミィーナに呼び掛けている。
俺は、欠片へ魔法を撃ち込んだが。防御壁を張られ、弾かれてしまう。
「チッ! あの者でなければ、すぐにでも――いや、これは……」
まさかとは思うが。あの女性が、2度も禁術機の術者になってしまったのも……偶然ではないとしたら?
極・防御壁を張れる者ならば、そう簡単に捩じ伏せる事は出来ない。
この禁術機は、俺を標的にするのと同じく。術者をも選んでいる可能性が高い。
俺がそう考えていた時、ミィーナは唸り声を上げた。
禁術機が新しく何かをしようとしているのかと思い、動きを注視していると――。
「……に、にげ、て、下さ、い……!」
ミィーナは小さく声を出し。ブルブルと身体を大きく震わせ、何かを押さえ込んでいるようだった。
その中でも手の震えが激しく。もしかしたら、禁術機の残骸を捨てようとしているのかもしれない。
まさか、意識が戻ったのか……?
「待て、今――」
ミィーナの意識がある今ならば、あの残骸を弾く事が可能だろう。
「あぁあああーーーーーっ!!!」
「―――ッ!」
俺が、魔法を撃ち込む瞬間。ミィーナは肩の部分を鋭く尖った欠片で刺し。それで直ぐ、禁術機に意識を奪われてしまい、ミィーナの目がまた虚ろなものとなった。
しかも、わざと見せるかのように。ミィーナは肩から勢い良くその欠片を引き抜き。
そこから、ボタボタと血が垂れていく。
「痛みで意識を奪うとは、つくづく人間を知り尽くしているような行動を取るな……」
またしても、己の首に欠片を突き付け。先程よりも強く押し付けているのか、そこからも血が滴っている。
無駄とは分かりつつも、欠片に向かって魔法を撃った。
俺の予想通り、それが届く前に防御壁によって弾かれてしまう。
あまり近づき過ぎると、光に当たって術にかけられる。
ならば、魔力切れを狙うか。または、あの者に呼び掛け再び意識を戻せれば……――そう考え。ふと、それに対して俺は疑問を感じた。
今までの調査で、術者は頭が狂ってしまうという結果のものしかなかった。
先程の様子では、それに抗う様子を見せ、正気のようであった。
だとすれば、禁術機の力は……あの時よりも格段に弱くなっているのだろう。
それこそ、科学班長に言われていた。残留の力というものでしか、今は使うことが出来ないのかもしれない。
そして、どこか焦っているようにも感じるのだ。
早く俺に術をかけなければならないのだというように――。
「ミィーナっ!!」
悲鳴のような声が聞こえ、意識が現状に戻る。
禁術機に関し、少し考えている間に――ミィーナは首に深く欠片を刺していた。
俺が目を向けた途端。ミィーナがその欠片をズボリと引き抜いたことで、科学室に大量の血が飛び散り、周囲が赤く染まっていく――。
「――チッ!」
首から血を噴き出し、床に倒れ込んでしまったミィーナへ駆け寄り、極・回復魔法を使うと。その傷が瞬時に塞がった。
ミィーナの口元に手を当てると、息があるのも確認出来る。
命を落とす前に、回復が間に合ったのが分かり、ホッと息を吐いた。
「ハートシア様! 早く――……」
――気が付いた時には、既に。視界全てが、眩しい光で埋め尽くされていた。
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