79 / 142
79.〖レイド〗過去
しおりを挟む科学室に入った途端。
バチバチバチと鳴りながら、激しく点滅する光を直視してしまった。
「ぅっ…!」
その激しい光に、目が眩む。
「ハートシア様っ!!」
声の方へ顔を向けると、科学班にいる者達が防御壁の中に入っており、こちらに呼び掛けていた。
「何があった!?」
「それが、あの禁術機が――」
光が、俺の方へ向かってくる。
まるで不意打ちのようなそれを、ギリギリで回避することが出来た。
直ぐに、それが放たれた方向を見ると――。
「まさか、あれは……」
以前、俺に禁術機の術をかけた女性が、機械の残骸のような物を手に持ち。バチバチと音を立たせながら、何度もその光を俺に撃ってきた。
この様子から考えるに。あの機械の残骸は、禁術機だろう……――。
「くっ! あれは、壊れたのではなかったのか!?」
それらを避け、防御壁の中に入っている者達に叫ぶようにして聞く。
「た、確かに壊れた筈です! しかし、力の残留による数値だと思っていたものが、そうでなかったのなら……」
会議室で見た、あの解析数値か。
今の状況から、まだ破壊していなかったということだろう。
「ハートシア様、こちらへ!」
横目でそこを確認すると。
銀色の髪に青色の瞳をした男性が、防御壁を解き、俺が来るのを待っている様子であった。
先程、確認した時。非常に細かく構築のされた防御壁だった。だから、あの者が魔術塔にいる2人目の極・防御壁を使える魔術師だと分かった。
「――ッ! 俺の事は良いっ! 早く、防御壁を張れ!!」
そちらの方に、女性が光を撃つ素振りを見せたので。慌てて、そう叫ぶ。
男性もそれに気付き、再度、防御壁を張ったようだ。
「……成る程」
防御壁が張られる時、少しだけ間があった。
それで、禁術機は光を撃ってしまうかと焦ったのだが。直ぐ、俺の方に焦点を戻したことを考えると……。俺をそこに入れられては困るから、脅しただけのように感じる。
――という事は。禁術機は前回と変わらず、俺に狙いを定めているのだろう。
「なんだ……?」
禁術機を持つ女性が、急に動きを止めたので。次に何をするのかと警戒していたら――。
女性は、ナイフのように鋭く尖っている禁術機の欠片を、己の首に押し付けた。
「……ミィーナっ! 止めろ! ミィーナ!! おいっ!!」
防御壁の術を使っている者が、その女性――ミィーナに呼び掛けている。
俺は、欠片へ魔法を撃ち込んだが。防御壁を張られ、弾かれてしまう。
「チッ! あの者でなければ、すぐにでも――いや、これは……」
まさかとは思うが。あの女性が、2度も禁術機の術者になってしまったのも……偶然ではないとしたら?
極・防御壁を張れる者ならば、そう簡単に捩じ伏せる事は出来ない。
この禁術機は、俺を標的にするのと同じく。術者をも選んでいる可能性が高い。
俺がそう考えていた時、ミィーナは唸り声を上げた。
禁術機が新しく何かをしようとしているのかと思い、動きを注視していると――。
「……に、にげ、て、下さ、い……!」
ミィーナは小さく声を出し。ブルブルと身体を大きく震わせ、何かを押さえ込んでいるようだった。
その中でも手の震えが激しく。もしかしたら、禁術機の残骸を捨てようとしているのかもしれない。
まさか、意識が戻ったのか……?
「待て、今――」
ミィーナの意識がある今ならば、あの残骸を弾く事が可能だろう。
「あぁあああーーーーーっ!!!」
「―――ッ!」
俺が、魔法を撃ち込む瞬間。ミィーナは肩の部分を鋭く尖った欠片で刺し。それで直ぐ、禁術機に意識を奪われてしまい、ミィーナの目がまた虚ろなものとなった。
しかも、わざと見せるかのように。ミィーナは肩から勢い良くその欠片を引き抜き。
そこから、ボタボタと血が垂れていく。
「痛みで意識を奪うとは、つくづく人間を知り尽くしているような行動を取るな……」
またしても、己の首に欠片を突き付け。先程よりも強く押し付けているのか、そこからも血が滴っている。
無駄とは分かりつつも、欠片に向かって魔法を撃った。
俺の予想通り、それが届く前に防御壁によって弾かれてしまう。
あまり近づき過ぎると、光に当たって術にかけられる。
ならば、魔力切れを狙うか。または、あの者に呼び掛け再び意識を戻せれば……――そう考え。ふと、それに対して俺は疑問を感じた。
今までの調査で、術者は頭が狂ってしまうという結果のものしかなかった。
先程の様子では、それに抗う様子を見せ、正気のようであった。
だとすれば、禁術機の力は……あの時よりも格段に弱くなっているのだろう。
それこそ、科学班長に言われていた。残留の力というものでしか、今は使うことが出来ないのかもしれない。
そして、どこか焦っているようにも感じるのだ。
早く俺に術をかけなければならないのだというように――。
「ミィーナっ!!」
悲鳴のような声が聞こえ、意識が現状に戻る。
禁術機に関し、少し考えている間に――ミィーナは首に深く欠片を刺していた。
俺が目を向けた途端。ミィーナがその欠片をズボリと引き抜いたことで、科学室に大量の血が飛び散り、周囲が赤く染まっていく――。
「――チッ!」
首から血を噴き出し、床に倒れ込んでしまったミィーナへ駆け寄り、極・回復魔法を使うと。その傷が瞬時に塞がった。
ミィーナの口元に手を当てると、息があるのも確認出来る。
命を落とす前に、回復が間に合ったのが分かり、ホッと息を吐いた。
「ハートシア様! 早く――……」
――気が付いた時には、既に。視界全てが、眩しい光で埋め尽くされていた。
0
お気に入りに追加
124
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
悪役令嬢の騎士
コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。
異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。
少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。
そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。
少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる