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77.〖レイド〗過去
しおりを挟む――ヤツィルダが亡くなり、2日程経った頃。信じられないことを科学班の班長から伝えられた。
「ハ、ハートシア様っ! 落ち着いて、下さいっ!!」
悲鳴のように発せられたその声に、ハッと我に返ると。俺の魔力が漏れ出てしまい、会議室に強い風が巻き起こっていた。その魔力を慌てて収める。
己を、自制出来ないとは……情けないな。
「……すまない。皆が、その考えに至ったのは何故だ?」
会議室に集まっていた、魔術塔の各班長達はホッと息を吐いている。
科学班の班長が、何かを手に持ち、歩いて来た。
しっかりと根拠に基づいた説明があるようだ。
「はい。ハートシア様もご存知のように、あの禁術機の解術は人の命を使います。しかし、塔主様のように、人の姿を形作る原子全てがなくなるなんて絶対にあり得ません。それは、個という存在を否定するからです」
「……ああ」
あの光景を思い出してしまい、顔が歪んでしまう。
「それに、そのような性能を当初、あの禁術機は持っていませんでした。だから、何かしらの変化が起こったと思い至り。私達は、禁術機の残骸を詳しく解析したのです」
科学班長が手に持っていた紙をスッと、俺に渡してくる。
それは、解析した数値等を書き記した紙のようだった。
「すると、先程、私が言ったように……その人間の身体ではなく。もっと内側にある、本質を変異させる可能性が出てきました」
「本質――魂への変異、を生じさせるということだな……」
その渡された、解析結果に目を落とすと――。
「これは、人の魔力ではない……何か別の力か? 正直、このようなものは今まで見たこともない」
人は、身体の中に魔力を溜められる器官が備わっており、そこに魔力を貯蔵している。
だからか、その魔力自体に、個人としての生物因子が色濃く含まれてもいるのだ。
しかし……。これは生物ではない、無機質なただの物を表す数値だろう。
だが、魔力に似たような――いや、魔力以上に強い力が発生されていた。
生物ではない無機質な物に、そのようなことが可能なのか?
渡された紙は何枚かあるが、数値や解析もバラバラなものであるし……。これは、一体、何を表している?
「私達も初めて見ました。まずは、これを解析するに至った経緯や、検分したことについてもお話した方がご納得頂けると思いますので……。魂の変異に関しては、それから順を追って説明をするという事で、よろしいでしょうか?」
「ああ。それは、任せる」
本当は直ぐにでも、ヤツィルダの魂にどうして変異が生じてしまうのかを聞きたいが。この経緯を知らなければ、理解や納得も出来ないのだろう。
「――実は、先に保管されていた禁術機を解析しても……。未だに、解術方法も分かりませんし、このような数値等も出なかったのです。しかし……」
「今回の禁術機は、解術方法や、力の数値を直ぐに解明することが出来た……ということか?」
確かに。俺が禁術機の術に倒れた、あの短時間で、ここまで解明出来るのは普通はあり得ないことだろう。
動転していた俺は。今、言われるまで気がつかなかったが。
「はい、それで、私達はひとつの仮説を立てたのです。禁術機の力が弱体化、または破壊をされた場合。その禁術機の持っている、本来の能力が明るみになるのではないかと」
「弱体化か……そう思った理由は?」
仮説と言う割には、声の力強さから自信があるように見えた。
「あの禁術機は、ハートシア様に術をかけた瞬間に損傷していたのです。それを解析した時に、解術方法が直ぐに表れました」
「成る程、理に適ってはいるな。では、何故損傷することになったのか、完全に破壊された原因、この力をどう見る?」
「私達の調査の中で、この禁術機による記録は今までありませんでした。それは、能力を使用すると自分が損傷し、そして解術された場合は破壊してしまう機能だったからではないかと考えてます。現に、私達が手を加えていないのにも関わらず、目の前でそうなりました。だから、これは間違いないでしょう。しかし、何故。姿を現し、力を使ったのかまでは分かりませんでしたが……」
「ああ、それは……。恐らく、俺を押さえ込めば国を落とせると思ったのだろう。もしかしたら、王手をかける時になり、初めて出現する禁術機だったのかもしれない」
科学班長は、ふむふむ……と頷きながら。その俺が言った事を、メモ帳にサラサラと書いている。
それの考査や検証を、後で行うつもりなのだろう。
「禁術機の使っている、この力ですが。ハートシアがおっしゃっていたように魔力ではなく――自然の力を取り入れています」
「自然の力だと? 草木などか……?」
科学班長は、いいえ、と言って首を振る。
「自然とはいっても、草木という生命活動のあるものではなく。例えば、石や土などそういった鉱物等ですね」
「それらの力を、借りているというのか?」
それらに、力があるのか? 考えたこともないな。
「そうです。ただ使い方に関しては、私達が魔力を使うのとは、全く違った使用方法であると思いますし。同じ解析をしている筈なのに、その前に解析したものとは、何故か全く結果が変わってしまうので……。これに関しては、何年経とうが人間では解き明かせないものだと、諦めた方が賢明ですね」
ああ……。だから、この渡された解析結果は、数値が全てバラバラだったのだな。
俺は、再びその紙に目を落とし。その数値を見る。
普通の人間では到底あり得ない程に、強い力の数値が目に入った。
これを見て疑問に感じるのは――。
「何故、禁術機に力が残っている?」
すると、ああ! と科学班長が忘れていたと言う声を上げているので。初めに、それを話すつもりだったのかもしれない。
「この数値に出ている力は。少しの間だけ、そこに残る、残留のようなものだと思います。なので、数日経てば消え行くものでしょう」
これが残留……? それならば、本来はもっと強い力であると考えられる。
それから、科学班長は一呼吸を置いてから、口を開いた……――。
「だから私達は、禁術機の力を解析するという方面ではなく……。その根本的な性質を解き明かすことで、魂に変異を与えるという可能性に行き着きました」
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