上 下
72 / 140

72.〖レイド〗過去

しおりを挟む
 


 ※この話以降。暴力、流血などの残酷な描写が多々あります。苦手な方はご注意下さい。



 ----------------





 ――鼠になり、烏になぶり殺され。

 ――魚になり、サメに噛み砕かれて殺され。

 ――縞馬になり、ライオンに臓物を引き出されて殺され。


 ――――俺は、もう数え切れない程の死を経験した。


 俺を殺す相手に共通していることは、モヤのようなものが頭の周りにかかっているということだ。

 恐らくは、あの禁術機による仕業だろう。



 ********


 ――俺は、公園のような場所で身を潜めている。


『くそっ! 蛇だから、うまく動くことが、出来ないな……』

 頭にモヤがかかっている人間達から、何とか逃れられた。

『はぁっ、はぁっ! せめて、魔法が使えれば……』

 身体中に傷を負い。そこからジワジワと血が滲んでいて、酷い痛みを感じる。


「あっ! 汚い蛇、見つけたぁあ~~~っ!!! 皆、ここだぞっ! ここだぁあ~~っ!!」


 素早く駆け寄って来た4人の子供が、俺が逃げられないよう囲んできた。


『ここまでか……』


 多分、俺は魂だけを様々な世界に飛ばされているのだろう。もし、そうならば、身体は元の世界にあるということだ。

 しかし、魂の抜け落ちた、その身体は長くは持たないはず。持って、一週間というところか。

 それまでは、このようにずっと殺され続けるのかと思うと……気が狂いそうだ。


「はははは~~っ!! 死ねぇえ~~~っっ!!!」


 俺は、与えられるだろう痛みを覚悟し。目をきつく瞑って、身体を縮めた。


「お ま え ら が なーーーーーっ!!!」


 ――ボッコーーーーーンっ!!!


「ぎゃあああ~~~~~っ!!?」
「いだっ! いだい~~~っ!!」
「うぎゃーーーーっ!!」
「ぶぎゅっ!?」

「お前も! お前も! お前も! この、アホんだら共がっ!!」


 木の棒らしきものを持った10歳くらいの少年が。ボコボコボコと、その4人の子供達を叩いていた。

 子供達が慌てて、この場から逃げて行く――。


『な、なんだ……? 禁術機による、新しい遊びなのか?』


 急に現れたその少年から距離を取ろうと、ズリズリと後退り、警戒する。

 しかし、少し後退っただけでは、蛇が人間の歩幅に敵うわけもなく。少年は俺のすぐ前まで来て、しゃがみ込んできた。


「あ~、可哀想になぁ……」


 哀れみの声をかけられたことを怪訝に思い、俺は目の前にいる少年を見上げ――その顔を見て、驚いた。


『何故、ヤツが……?』


 いや、ヤツは子供っぽくとも……もう少し成長している。

 この目の前にいる少年は、ヤツをもっと子供にした姿だった。


「う~ん……。また、あいつら戻って来るかもだし。とりあえず、お前を俺の家に連れて行くからな? いいよな……?」


 少年は、ペラペラと俺に話しかけながら。優しく抱き締めてきた。


『ふん、蛇が話を理解出来る、という前提で語りかけるなど……。まるで、本当にヤツのようだな』


 俺は、何気ない気持ちで。少年の魂の色を見ようと集中をした。

 魂を見るのは魔力を必要としないから、今の俺でも出来ると思ったのだ。


『は……? 何故だ? 何故、ヤツと同じ魂の色なんだ……?』


 この少年もヤツと同じ。黒一色だけの、魂の色だった。



 ********


 あれから、一週間程が経過していた。

 まだ、俺の魂がここに存在しているということは、俺の身体は死んでいないのだろう。

 もしかすると、あちらの世界とは時間の進みが違うのかもしれないな。


「ヘビ太~~! 寂しかったか?」


 倉庫の扉が開き。少年が、俺に駆け寄って来た。


 俺の身体に、頬をスリスリと擦り寄せて来る少年を、俺は半目で見る。

 こいつは、本当にしつこい。

 何故、ヤツと魂の色が同じなのかは分からないが……違った世界のヤツなのだろうか?

 俺も、世界の全てを知っている訳ではないから、その可能性も十分あり得るのかもしれない。


 そして、驚くことに。この少年は禁術機のモヤにはかからないようだった。

 一度、そのモヤだけがやって来たのだが。少年の頭に近づけても、あのように行動を操作することは出来ないようだ。

 だが、少年はそれによってか。少しぼんやりとしてしまっていたから、警戒はした方が良いだろう。


 それにしても、ベタベタとスキンシップをされ、ギャーギャーと何かを話してきて……。うるさい奴だな。
 今も、綺麗な石を見つけたんだと俺に見せてくるが。そんな、ただの石ころに何故ここまで感動するんだか分からん。

 こいつが姿を現す時間帯は、だいたい決まっていて。
 朝の早朝、少しの時間と。正午過ぎた頃に3、4時間程いる。
 一度だけ。辺りが真っ暗になるくらい、長い時間いた時があったが。男女の怒声のようなものが、外から聞こえ。それで、少年が倉庫の外に出て行き。長い間、怒られる声が聞こえてきた。

 少年は、もしかしたら……。なにか、訳ありな環境に身を置いているのかもしれない。

 それは……――男女の怒声が聞こえた瞬間に、少年は、感情が抜け落ちたような無表情になったからだ。

 だが、それを分かったからといって……。この世界の住人でもなければ、人でもなく、何の力も使えない蛇でしかない俺が助けることなど……出来ないだろう。

 しかし、その怒声が響き渡るのを聞いている間。何故だか、もどかしい気持ちになり。その場に飛び出して行きたい気持ちにはなったが――。


「ヘビ太~! お前は、可愛いなあ! その丸くてクリクリキラキラとしたルビーみたいな綺麗な目と、紅葉みたいに鮮やかな赤いボディーが最高だよ! ん~、もしかして、誰かに飼われてたとか? ちゃんと公表して、飼い主を探した方が良いかな……?」


 そんな事をされたら。禁術機に操られた者達に、喜んで殺されてしまうだろう。

 俺は、ブンブンと首を振った。


「そうか! ヘビ太は、俺とずっと一緒にいたいんだなっ!! 可愛い! 可愛い!」


 俺の身体に。少年の頬が、更にグリグリと押し付けられる。

 そのグリグリを、我慢する。……が、非常にしつこい。全身、グリグリグリグリされ……――。


「ヘッビ太! めちゃくちゃかわいいーー!! 俺がちゃんと、美人なお嫁さん見つけてあげるからね!」


 ――ブッチンと、我慢の限界が超えた。


『んなの……! いるかっ!!』


 俺は、シャ~~~~~ッ!! と少年に向かって威嚇をする。


 それに、少年は一瞬キョトンとした後。満面な笑みを浮かべた。


『はぁ? こいつは、馬鹿――ッ!?』
「ちゅっ! ちゅっ! なに、今の~? 可愛い~! 可愛い~! ねぇっ! もう一回、やって? ちゅっ! ちゅっ!」


 驚くことに。この少年は、俺の口にちゅぅちゅぅと接吻をしてきた。


『~~~~~ッ!!? こっ、この! ……ぅうっ!!』


 倉庫の扉が、少し開いていたのが見え。俺は、その隙間から抜け出す。


「あっ!! ヘビ太っ! 待って! 待ってよ~~っ!!」
『ついてくるなっ!! お前は、なんなんだっ!?』


 追いかけて来ていた少年を、何とか撒けた。


 俺が、あの少年から逃げたのは……――蛇であるのに身体中が熱く。しかも、あらぬところまで熱くなっていたからだ。

 もし、そのまま、そこに居たならば……少年に何かをしてしまいそうだった。


『くそ! ヤツと似ているからといって、違う人間に対し、欲情してしまうなんて! しかも、子供相手に……!』


 ――今は、この熱くなった身体を冷まさなければと思い。水辺を探すことにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

刑事は薬漬けにされる

希京
BL
流通経路がわからない謎の薬「シリー」を調査する刑事が販売組織に拉致されて無理やり犯される。 思考は壊れ、快楽だけを求めて狂っていく。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

異世界で性奴隷として生きてイクことになりました♂

あさきりゆうた
BL
【あらすじ】 ●第一章  性奴隷を軸とした異世界ファンタジーが開幕した! 世界は性奴隷の不遇な扱いを当たり前とするものだった。  ある時、現世の不運な死により転生した少年は助けた戦士の性奴隷となってしまった!? ●第二章  性奴隷を扱う施設、「性奴隷の家」内で、脱退の意思を示した男が監禁されることになった。その友人に課せられた命令は愛と狂気の入り交じった性的な拷問であった! ●第三章  義賊とよばれる盗賊は性奴隷の家から一人の性奴隷候補の子を誘拐した。その子はダークエルフの男の子だった。その子のあまりにも生意気な態度に、盗賊はハードプレイでお仕置きをすることにした。 ※変態度の非常に高い作品となっております   【近況報告】 20.02.21 なんか待たせてしまってすいませんでした(土下座!) 第三章は本編を絡めながら、ショタのダークエルフに変態的なプレイをする作者の欲望を表現するだけのおはなしです。 20.02.22 「大人しくしていれば可愛いな」を投稿します。一応シリアスめな展開になります。 20.02.23 「助けた礼は体で支払ってもらうぞ」を投稿します。引き続きシリアスな展開。そしてR18を書きたい。 20.02.24 試しに出版申請しました。まあ昔やって書籍化せんかったから期待はしていませんが……。 「欲望に任せたら子作りしてしまった」を投稿します。つい鬼畜にR18を書いてしまった。 あと、各章に名称つけました。 ついでに第一章の没シナリオを7話分のボリュームでのっけました。このシナリオ大不評でした(汗) ディープ層向けな内容です。 20.02.25 「束の間の握手だ」を投稿します。本編が進みます。 20.02.26 「妊夫さんですがHしたくなっちゃいました」を投稿します。 久々に第一章のお話書きました。そして妊婦さんならぬ妊夫さんとのHな話が書きたかったです。 20.02.27 「世話の焼けるガキだ」を投稿します。 話書いたのわしですが、酷い設定持たせてすまんなエルトくん。 20.02.28 「死んだなこりゃあ」を投稿します。展開上、まだR18を書けないですが、書きてえ。やらしいことを! 20.02.29 「性欲のまま暴れて犯るか」を投稿します。R18回です。この二人はどうも男よりの性格しているのでラブシーンの表現苦戦しますね・・・。 20.03.01 「お前と一緒に歩む」を投稿しました。第三章、良い最終回だった…としたいところですが、もっとR18なお話を書く予定です。 後、第四章あたりで物語を終結させようかと考えています。 20.03.05 職場がキツくて鬱になりました。しばらくは執筆できないかもしれないです。またいつか再開できたらなと思っています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

傾国の伯爵子息に転生しました-嵌められた悪女♂は毎日が貞操の危機-

ハヤイもち
BL
”だからお前のことを手に入れることにする” 高校三年生卒業間際の誰もいない教室で親友に告白された主人公。 しかし、気づいたら悪役子息:シャルル伯爵子息に転生していた。 元の世界に戻るためにはシャルルを演じ切らないといけない。 しかし、その物語のシャルルは王子を陥れ、兄弟たちで殺し合わせた末に、 隣国の王子をたぶらかし亡命→その後気まぐれで自国に戻った際に 騎士団長に捕らわれて処刑されるというすさまじい悪役だった。 それでも元の世界に戻るために主人公は悪役を演じ切ると誓うが…。 ※主人公は関西弁で本心隠す系男子。 2chスレ描写あります。 親友→→主人公(ヤンデレ) 隣国王子→→主人公 など主人公愛され描写あり。

兄上の五番目の花嫁に選ばれたので尻を差し出します

月歌(ツキウタ)
BL
今日は魔王である兄上が、花嫁たちを選ぶ日。魔樹の華鏡に次々と美しい女性が映し出される。選ばれたのは五人。だけど、そのなかに僕の姿があるのだけれど・・何事? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【※R-18】αXΩ 懐妊特別対策室

aika
BL
αXΩ 懐妊特別対策室 【※閲覧注意 マニアックな性的描写など多数出てくる予定です。男性しか存在しない世界。BL、複数プレイ、乱交、陵辱、治療行為など】独自設定多めです。 宇宙空間で起きた謎の大爆発の影響で、人類は滅亡の危機を迎えていた。 高度な文明を保持することに成功したコミュニティ「エピゾシティ」では、人類存続をかけて懐妊のための治療行為が日夜行われている。 大爆発の影響か人々は子孫を残すのが難しくなっていた。 人類滅亡の危機が訪れるまではひっそりと身を隠すように暮らしてきた特殊能力を持つラムダとミュー。 ラムダとは、アルファの生殖能力を高める能力を持ち、ミューはオメガの生殖能力を高める能力を持っている。 エピゾジティを運営する特別機関より、人類存続をかけて懐妊のための特別対策室が設置されることになった。 番であるαとΩを対象に、懐妊のための治療が開始される。

処理中です...