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71.〖レイド〗過去
しおりを挟む「ハートシア様、これをどうぞ!」
「これが、禁術機を追跡する機械か?」
嬉々とした様子の科学班の者に。俺は、U字の磁石のようなものを渡された。
「はいっ! 禁術機の磁気を捉えた時、形を円状に変え、その場所まで案内してくれる優れものですよ!」
「それは、凄いな」
その小さな磁石のようなものを、しげしげと観察した。
「後は、俺が禁術機を必ず見つけるから、任せてくれ」
「はいっ! よろしくお願いします!」
俺の言葉がそんなに嬉しかったのか、科学班の者達はニコニコと笑っている。
「――あ、あの! ハートシア様、ちょっと、聞いても良いですか?」
「ん? なんだ……?」
その中の一人。クリーム色の髪に、ピンク色の瞳をした、小柄な女性が俺の側に来て。モジモジとしながら、上目遣いで見詰めてくる。
「ん~と、そのぉ~……」
顔を赤らめ、言いづらいことなのかモゴモゴとしている。
なかなか話さないので、顔をしかめそうになったが……それを何とか堪えた。
「何でも、言ってくれて構わない」
俺がそう言うと。女性は覚悟を決めたように、顔を更に真っ赤に染め、口を開いた――。
「塔主様と、いつ結婚するんですかーーーーっっ!!!?」
――――結婚するんですかーーーっ!!?
―――するんですかーーっ!?
――ですかー!?
科学室に、その女性の声が木霊した。
「は、はあああああーーーーー???」
俺の絶叫も木霊しているが、そんなことが気にならない程。頭が酷く混乱していた。
「な、ななな……? 何故、ヤツと結婚などと……!?」
「もぅ~! 皆わかってるので、隠さなくても良いんですよ~!! すんごく、ラブラブじゃないですか~!! もう、キュンキュンしちゃうっ! とっても美形なハートシア様と、最高級に可愛い塔主様とが結婚だなんて……あああっ!! ヤバい、萌える! 萌えますぅ~~!! 結婚式には、私達を必ず! 呼んで下さいねっ!!!」
何故、ヤツと結婚するのが確定なんだ……?
終いには、その女性だけでなく。この部屋にいる全員が、どういう結婚式にしようかと細かい計画まで立て始めた。
いや。仮に結婚式をするとしても、それを決めるのは式場の者達ではないのか……?
「あ、ああ……。俺は、用があるから……これで失礼する」
あまりにも、皆の熱が凄すぎて。もう、言い返す気力もなくなってしまい――俺は、その場から逃げるように、空間魔法を使っていた。
********
――2週間後。
「くそっ! いつも、すんでのところで……!」
科学班の者達が発明してくれた追跡機械を持ってしても、禁術機を捉えることが出来ないでいた。
まるで、こちらの動きが読まれているようだ。
必ず禁術機を見つけると言っておいて、全く成果を出せないとはな……――。
「一先ず、魔術塔に報告だけでもしておくか……」
禁術機は、こちらの行動を何かしらの方法で把握している可能性が高い。
魔術塔の会議室に、禁術機の情報を記録する記入帳がある。まずは、それに禁術機の動きを記してから、魔術塔の者達を集めよう。
俺は魔術塔に着き。扉の取っ手を握り、俺の魔力を流し込むと――その鍵が解除された。
そして、会議室の部屋を設定してから扉を開ける。
魔術塔の鍵を開ける資格を得るには。まずは、仲間にならなければいけなかった。
本当は嫌だったのだが、その気持ちを押し殺し。この禁術機による騒動が収まるまでの間という約束で、仲間になることを了承したのだ。
「ん……? あの者は――」
前に、俺とヤツがいつ結婚するのだと興奮して聞いてきた女性が。部屋の中央で、1人ぼんやりとした様子で佇んでいた。
あの者は、いつも科学室に入り浸って研究ばかりしている筈だが……ここに何か用でもあるのだろうか?
「おい、どうかしたのか……?」
俺は、気が緩んでしまっていた。だから、直ぐに反応する事が出来なかった……――。
「――なっ!?」
その女性は、急に、極・防御壁の魔法を展開し。俺は、その中に閉じ込められた。
「まさか……」
――油断していた。
禁術機を追跡する機械は、その女性の周りをクルクルと回っている。
「――くっ! これ程、までとは……!」
その防御壁に極級魔法を大量に撃っても、ヒビすら入らず。空間魔法で移動することも出来ない。
防御魔法は、極級レベルにもなれば。内外どちらからであったとしても、どんなに強い攻撃や、それが物質でなく細かい原子等ですら、通すことが不可能な最強の盾だと聞いたことがある。
この術は、もし俺が習得するにしても何十年もかかるくらいに難しい術である為。俺は面倒で、これを覚えようともしてはいなかった。
それは、俺が異常な魔術師であるから習得出来るというだけであって……。
通常の魔術師であるなら。天性の才能により、その極級防御壁を使えるのだろう。
俺が今まで会った、数少ない極級魔術師は。攻撃の魔術師が2.5割、回復の魔術師が7割、防御の魔術師が0.5割だった。
ここの魔術塔に、希少な極級レベルの防御壁を張れる者が2人いる、とは聞いていたが……。まさか、その中の一人が、この者だったとは――。
あれから攻撃を絶えず撃ち続けている。だが、やはり……防御壁に小さな綻びすら出来なかった。
「だいぶ、時間も経っている筈だが……」
このような高度な術を使い続け、女性がまだ魔力切れを起こしていないということは……。禁術機が無理に、術を発動させているのかもしれない。
しかも、禁術機の術にかかってしまったその女性は。まるで、俺を観察するかのようにじっと見ているだけで、微動だにしていなかった。
「……これは、狙ってやっているとしか思えんな」
あの検分するような目と、この行動。解明はされていないが、禁術機には意思があるように感じる。
今、俺を消す。または、これ以上動くことが出来ないように押さえ込めれば……この国を簡単に落とす事が可能だろう。
何故なら、この国に攻撃の極級魔術師は――俺と、ヤツしか存在していないからだ。
そして、ヤツは今。この国を出てしまっている。
「――貴様らのような、悪意をばら蒔く存在のせいで……。苦しむ人間がどれだけいるのか、考えた事があるのか?」
俺がそう言い終えた瞬間。急に防御壁を解かれ、眩しい光が視界に映る。
それが何なのかを認識する前に、身体に衝撃を感じた――。
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