ダンジョンの核に転生したんだけど、この世界の人間性ってどうなってんの?

未知 道

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66.〖白〗

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「あっ、そうだ」


 ヤマダが意識を落とした瞬間。もう一つだけ、話そうと思っていたことがあったのに気づく。


「う~ん。まあ、そこまで重要な事でもないし……」


 それは、今の状況に関係性も低いし。それを知っていても、出来ることは限られてるから、特に問題は無いか。

 そう納得し、後ろを振り向くと。黒とパチッと目が合った。けど、黒はビクッと身体を跳ねさせ。僕から視線を逸らしてしまった。

 黒の、その反応を不思議に思ったけれど。もう、ここにいられる時間が少ないので、早く伝えたいことを伝えてしまおう。


「黒。本当は、術の進行を止めていたの、解除すること出来たでしょ? それをしないでいてくれて、ありがとう。お陰で、僕が救った魂――ヤマダと、たくさん話しをすることが出来たよ」
「……俺のこと、怒ってないのか?」
「怒る? なんで……?」
「俺が、白を信じなかったから……。本当は、もう話したくもないんじゃないか?」


 僕が、過去。赤いお兄さんを術者にする前に、黒には伝えたんだ……――『僕を信じて』と。

 ――黒は僕を見ず。まるで、叱られるのを待っているかのように、ずっと下を向いている。

 そうか、さっき、黒を責めるようなことを言ったから。気にしていたのかな……。


「そんなことないよ。さっきも言ったでしょ? 本当は、そのまま術を進行させることだって出来たのに……黒はそれをしなかった。それって、僕を信用してくれたってことだよね? だから、僕は凄く嬉しいんだ」


 本当に嬉しくて、自然と顔に笑みが浮かぶ。

 僕がそう言うと。漸く黒が顔を上げ、再び目が合う。
 すると、僕とは逆に、黒は表情を歪めてボロボロと涙を溢してしまった。


「分かってるんだ、これが最善の選択だったって……。でも、俺は。ずっと、ずっと、苦しかった。白、もう、俺を置いて行かないでくれ……。一人は、寂しい」
「黒……」


 僕は、悲痛な表情を浮かべて泣いている、黒の身体に


「え? 白……? なんで、俺に触れられるんだ?」
「これは、僕の存在が消える時に……黒も一緒に連れて行けるように僕と繋げたんだよ。ふふ、驚いた? こういう力の操作は、黒より僕の方が上手でしょ?」


 ――僕の身体が、黒に強く掻き抱かれる。


「白っ! 白っ! 白っ!!」


 黒は、身体をブルブルと震わせ、更に泣いてしまった。


「大丈夫。もう、絶対に黒を置いて行かないから」


 それから、直ぐ。僕の存在が点滅しながら、徐々に薄れていくのを感じる。


 黒の腕の中で、チラリとヤマダ達に視線を向けた。

 僕が消えても、術の進行は止まったままだろう。

 それは、幸運スキルが僕を喚ぶことで。確実に、赤いお兄さんを助けられると判断しているからだ。

 だから、それに関しては、まったく心配はしていない。


 ただ、この世界で……。僕は、心残りのようなものがあった。

 それは、最後の最後まで【世界の意思】が何を求めていたのかを、知ることが出来なかったことだ。


 人間を滅ぼすために、世界が僕たちを生んだ筈なのに。僕たちの湧き出る感情がそれを否定するかのように、人間を傷つけると、苦しくて、苦しくて、どうしようもなくなる。

 それはきっと、黒や皆も同じだったのだろう。

 世界が、本当に人間を滅ぼしたいなら。何故、こんな気持ちを感じてしまう機能のようなものを、僕たちにつけたのかが不思議で仕方ない。


 更には、僕たちの存在の中で。世界と同期し、その歪みを感じ取ることが出来るのは――僕と黒だけだった。

 それが何故、全員ではないのかを考えても、僕には到底分かりようもなくて……。

 結局。その疑問も解消出来ないまま、終わるのだろう。



「黒。もし、また……」


 『生まれ変われたなら、会いたい』……という言葉を吐き出す前に、グッと口を噤み、内に留める。

 『生まれ変われたなら――』なんて、あり得ない話だ。

 僕達には魂が存在しない。だから、来世などは絶対に与えられる訳がない。


「白……? なんだ?」
「ううん。なんでもない、なんでもないよ……」


 黒と同じように、僕も黒の背に腕を回し、強く抱き締め返す。

 そして、僕たちの姿は。煙のようにゆらゆらと揺らめき――跡形もなく消えた。


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