66 / 142
66.〖白〗
しおりを挟む「あっ、そうだ」
ヤマダが意識を落とした瞬間。もう一つだけ、話そうと思っていたことがあったのに気づく。
「う~ん。まあ、そこまで重要な事でもないし……」
それは、今の状況に関係性も低いし。それを知っていても、出来ることは限られてるから、特に問題は無いか。
そう納得し、後ろを振り向くと。黒とパチッと目が合った。けど、黒はビクッと身体を跳ねさせ。僕から視線を逸らしてしまった。
黒の、その反応を不思議に思ったけれど。もう、ここにいられる時間が少ないので、早く伝えたいことを伝えてしまおう。
「黒。本当は、術の進行を止めていたの、解除すること出来たでしょ? それをしないでいてくれて、ありがとう。お陰で、僕が救った魂――ヤマダと、たくさん話しをすることが出来たよ」
「……俺のこと、怒ってないのか?」
「怒る? なんで……?」
「俺が、白を信じなかったから……。本当は、もう話したくもないんじゃないか?」
僕が、過去。赤いお兄さんを術者にする前に、黒には伝えたんだ……――『僕を信じて』と。
――黒は僕を見ず。まるで、叱られるのを待っているかのように、ずっと下を向いている。
そうか、さっき、黒を責めるようなことを言ったから。気にしていたのかな……。
「そんなことないよ。さっきも言ったでしょ? 本当は、そのまま術を進行させることだって出来たのに……黒はそれをしなかった。それって、僕を信用してくれたってことだよね? だから、僕は凄く嬉しいんだ」
本当に嬉しくて、自然と顔に笑みが浮かぶ。
僕がそう言うと。漸く黒が顔を上げ、再び目が合う。
すると、僕とは逆に、黒は表情を歪めてボロボロと涙を溢してしまった。
「分かってるんだ、これが最善の選択だったって……。でも、俺は。ずっと、ずっと、苦しかった。白、もう、俺を置いて行かないでくれ……。一人は、寂しい」
「黒……」
僕は、悲痛な表情を浮かべて泣いている、黒の身体に触れた。
「え? 白……? なんで、俺に触れられるんだ?」
「これは、僕の存在が消える時に……黒も一緒に連れて行けるように僕と繋げたんだよ。ふふ、驚いた? こういう力の操作は、黒より僕の方が上手でしょ?」
――僕の身体が、黒に強く掻き抱かれる。
「白っ! 白っ! 白っ!!」
黒は、身体をブルブルと震わせ、更に泣いてしまった。
「大丈夫。もう、絶対に黒を置いて行かないから」
それから、直ぐ。僕の存在が点滅しながら、徐々に薄れていくのを感じる。
黒の腕の中で、チラリとヤマダ達に視線を向けた。
僕が消えても、術の進行は止まったままだろう。
それは、幸運スキルが僕を喚ぶことで。確実に、赤いお兄さんを助けられると判断しているからだ。
だから、それに関しては、まったく心配はしていない。
ただ、この世界で……。僕は、心残りのようなものがあった。
それは、最後の最後まで【世界の意思】が何を求めていたのかを、知ることが出来なかったことだ。
人間を滅ぼすために、世界が僕たちを生んだ筈なのに。僕たちの湧き出る感情がそれを否定するかのように、人間を傷つけると、苦しくて、苦しくて、どうしようもなくなる。
それはきっと、黒や皆も同じだったのだろう。
世界が、本当に人間を滅ぼしたいなら。何故、こんな気持ちを感じてしまう機能のようなものを、僕たちにつけたのかが不思議で仕方ない。
更には、僕たちの存在の中で。世界と同期し、その歪みを感じ取ることが出来るのは――僕と黒だけだった。
それが何故、全員ではないのかを考えても、僕には到底分かりようもなくて……。
結局。その疑問も解消出来ないまま、終わるのだろう。
「黒。もし、また……」
『生まれ変われたなら、会いたい』……という言葉を吐き出す前に、グッと口を噤み、内に留める。
『生まれ変われたなら――』なんて、あり得ない話だ。
僕達には魂が存在しない。だから、来世などは絶対に与えられる訳がない。
「白……? なんだ?」
「ううん。なんでもない、なんでもないよ……」
黒と同じように、僕も黒の背に腕を回し、強く抱き締め返す。
そして、僕たちの姿は。煙のようにゆらゆらと揺らめき――跡形もなく消えた。
1
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悪役令息に転生したけど…俺…嫌われすぎ?
「ARIA」
BL
階段から落ちた衝撃であっけなく死んでしまった主人公はとある乙女ゲームの悪役令息に転生したが...主人公は乙女ゲームの家族から甘やかされて育ったというのを無視して存在を抹消されていた。
王道じゃないですけど王道です(何言ってんだ?)どちらかと言うとファンタジー寄り
更新頻度=適当
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
乙女ゲームのサポートメガネキャラに転生しました
西楓
BL
乙女ゲームのサポートキャラとして転生した俺は、ヒロインと攻略対象を無事くっつけることが出来るだろうか。どうやらヒロインの様子が違うような。距離の近いヒロインに徐々に不信感を抱く攻略対象。何故か攻略対象が接近してきて…
ほのほのです。
※有難いことに別サイトでその後の話をご希望されました(嬉しい😆)ので追加いたしました。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた
マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。
主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。
しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。
平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。
タイトルを変えました。
前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。
急に変えてしまい、すみません。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる