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65.核の力が使えなかった理由
しおりを挟む「ヤマダが核としての力を使うには、赤いお兄さんの力も必要なんだ」
それは、黒の禁術機も言っていたな。
「俺だけでそれが出来ないのは、何でだ……?」
「それは、元々ヤマダの魂は人間であったから、核が使う自然力ではなく、魔力を体内に宿しているんだ。だから、自然力を使い、世界と同期することが出来る炎竜と関わりの深い――赤いお兄さんの魔力を、ヤマダの体内に入れることで、やっと世界と同期が出来て。その力を使用することも可能になるんだ」
ああ、急に、核の使い方が分かったのは。レイドの魔力が、俺の体内に入ったからだったのか……。
ん? でも、それじゃあ、おかしいよな?
「核が自然力を使うなら。同じく自然力を使う炎竜は、どうしてそのことを知らなかったんだ……?」
「炎竜は、世界が意識して産み出そうとした生命ではなく、不意に生まれた存在で……。世界を清浄する役割を与えられていない。だから、それを理解出来ないのは当たり前なんだ。それでも、自然から産み出されているからか、世界と同期することは出来るんだよ」
確かに、役割が与えられているなら。核や毛玉達、そして禁術機のように……己の役目を果たそうと必死になるもんな。
「けど、例え、炎竜がそれを知っていたとしても……。自然力は、魔力のように人へと流し入れることは出来ないものなんだ。だから、赤いお兄さんがいてくれて、僕も助かったよ。――……これら、全ての要素も含め。僕は、君達にこの世界を託すことが出来るとも思えたんだ」
「世界を……。そうか、俺は世界を救う為の、全てを兼ね揃えているからか」
よく考えてみると――。
俺が核ということで、地上の清浄も出来て。更には、運良く光粒の花もここにたくさん咲いていて……レイドだって俺の側にいる。
恐らく、白がした選択とは――俺とレイドに、この世界を任せるということなんだろう。
だから、白は絶対にこの事を伝えないといけない、と言ったんだ。これが唯一、壊れた世界であっても修復出来る、手立てだから――――。
ふいに、白が近くにある光粒に視線を向けた。
「うん、正直……ここまで上手くいくとは思っていなかったよ。種を運ぶ役割の子達は、種が流れやすいように、普通は外にしかその種を運ぼうとはしないんだ。でも、こんなに埋め尽くすくらい持って来てるなんて……凄いね」
白は洞窟内をじっくりと見て、嬉しそうに目を細めていた。
「でも、マジでびっくりしたぞ? あいつらが持って来た、次の日に凄まじい勢いで生えてきたからな……」
あの光景をいま思い出しても、鳥肌が立つ。
「ふふっ! ダンジョン内はね、実は土がとても綺麗なんだ。だから、本当は一番、光粒の花が咲きやすい場所なんだよ。ただ、室内と認識されてしまっているから……」
話の途中。白は急に、ハッとした様子で自分の手を見た。
「……うん、時間だね。そろそろ、赤いお兄さんを助けに行かないと」
――白の身体が、ついたり消えたり点滅し始める。
「――――ッ! 白、消えるのか……?」
白は悲しそうな表情を浮かべ、頷いた。
分かってる。この状況を打開する為に、それが出来る白が呼ばれた……。でも、それは――『蘇らせる』ではなく『喚ぶ』だった。
それに、今だからこそ、そう思ってはいても。俺の意識下が。まだ会ってもいない存在を蘇らせる、ということまで、相手の状態も分からないのに、考えることは出来なかったんだろう。
もし、その時に白のことを知っていたなら――。
俺の目から、勝手に涙がボロリと零れた。慌てて、それをゴシゴシと拭う。
白は、目を見開いた後。ふわりと微笑んだ。
「ありがとう。僕のために泣いてくれて……」
あ~……。もう、俺マジで格好悪いな。
少し話しただけで分かった。白は本当に、優しくて良い子なんだと。
いや、きっと……。白以外の、禁術機たちもそうだったのかもしれない。
俺が出会った――灰の禁術機も、黒の禁術機だって。本当は誰かを傷つけたくない、と訴えているように見えた。苦しそうにしていて……助けて欲しいと、踠いているようだった――。
「ヤマダ。赤いお兄さんの頭へと、手を乗せて」
俺は白に言われるまま、レイドの頭に手を乗せた。
「多分。先に、赤いお兄さんの記憶が見えると思うけど……。それは、しっかりと見て、受け止めてあげて欲しい。それからは、僕が教えなくても……ヤマダだったら大丈夫」
「分かった。ありがとう……白」
白は、ニコッと笑って俺に頷いた。
意識がグニャグニャと掻き回されたようになり、次いで何かに引っ張られそうになった。
その時。ずっと黙っている黒の禁術機が、ふと気になって……そちらに目線を向ける。
黒の禁術機は――ただ、白だけを見詰めていた。
それが、俺の視界に映るのと同時に。意識がぐるりと暗転する。
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