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63.ふわふわとした存在
しおりを挟む洞窟内が強い光に包まれ、無意識に目を瞑る。それが収まり、瞼を開けたら――優しい雰囲気をした少年が立っていた。
その少年は、ぐるりと周囲を見渡し。悲しみの表情を浮かべた。
「そっか、こうなっちゃったんだね」
ディスプレイには、白を喚ぶって書いてあったよな……?
黒の禁術機も、白って親しげな様子で何度か言ってたような気もするし……――まさか、白の禁術機なのか?
「白っ!? な、何故、消滅した筈じゃ……?」
黒の禁術機は、驚いたように目を見開き。けど、どうしてか、更に涙をボロボロと流していた。
「黒、久しぶり。うん、僕は消滅したんだけどね。――〖幸運に抱かれし者〗に心から望まれたなら、それすらも凌駕出来るんだよ」
その少年に、ニコッと可愛らしい笑みを向けられた。
「あ~、えっと……? し、白の禁術機だよな?」
「うん、人間にはそう言われてるね。でも、白で良いよ。長いし、言いづらいでしょ?」
「お、おう。じゃあ、俺はヤマダって言ってくれ」
「分かったよ、ヤマダ」
俺に向けて、白はずっと柔らかく微笑んでいて。それを見ているだけで、不思議と張り詰めた空気が和らぐような気がした。
なんだろ、めちゃくちゃ良い子っぽいな……。――ッ! じゃなくて、レイドは!?
ふわふわとした雰囲気の、白の出現によって。意識が逸れてしまっていた。
「心配しなくて大丈夫だよ。今は、術の進行を止めてるから」
白の言うように、顔の方にまで黒いものがジワジワと浸食していたレイドは。そこからは、一切進行をしていないようだった。
「――――ッ!! 白! ふざけんなよっ! 邪魔をするな!! 一体、何のつもりだっ!!?」
「それは、こちらが聞きたい。一体、どういう了見なのかな? 知っているでしょ……? 僕の選択を。何故、黒が信じてくれなかったんだ。君にだけは、僕を信じて欲しかった」
白が目に涙を浮かべながらそう言うと。黒の禁術機は息を呑み、それから何も話さなくなった。
「さてと、じゃあ……そろそろ本題に移ろう」
白が、俺の方へと向き直る。
「まずは、この状況を打破する為にも知っておいた方が良いこと……。ヤマダが、その能力を得るようになった経緯を説明するけど、良いかな?」
やっぱり、この能力を持つようになった、何らかの経緯があったのか。
この状況を打破する為なら、それは聞かないとだよな?
もう一度、レイドに視線を向け。術が進行していないのを再度確認する。俺は白に頷き、それを肯定した。
「ヤマダは、一度死に……ここで生まれ変わった。だけどね、それ以前の生――二度前の生では、ここの世界の人間として産まれていて。僕の仲間の一人、緑の術を解術する為にその命を落としたんだよ。赤いお兄さんを助けるためにね」
「レイドを……?」
確か、緑の禁術機での解術は……――『自らの命を、心から捧げられる場合のみ』だったよな?
そうか。だから、レイドはずっと俺に何かを隠しているようだったんだ。
「うん、そう。それをしたことによって、ヤマダの輪廻に不具合が生じてしまって……。それは、僕達も実際にそのようになって、初めて知ったことだったんだけど。緑の術は……解術をし、命を落とした者の方に影響が強く出てしまうようだったんだ。ごめんね……」
白が申し訳なさそうに、俺に謝っていたので。俺はそれに対して、首を振り、気にしないで欲しいと言う。
実際に、そうだったとしても……まったく実感なんてないしな。
「それで……。その、輪廻の不具合は――死んだ時とまったく同じ魂のまま、生まれ変わって来るというものなんだ」
「え……? それは、別に……。他に何か、問題あるのか?」
俺の状況的に、そうなんだろうなとは思っていたけど。
それに対して、白が謝るものなのか……?
「2度目の輪廻までは、大丈夫なんだよ。だけど、通常とは違う形での輪廻を、何度も繰り返すことは出来ないようで……。3度目の輪廻に向かおうとしたヤマダの魂に、稲妻のようなヒビが無数に入っていたんだ。だから、恐らく……。僕が術を使い、ヤマダを転生させなかったなら、魂自体が消滅してしまっていたと思う」
……ああ、成る程。そういうことだったのか。
「前世の俺が、それを理解したとしても……。後悔はしなかったはずだ。命を捧げることの出来る相手だったんだからな。だから、白が謝ることなんて何もないだろ? それより、さ……。白が、俺を助けてくれたってことだよな……? 勿論、それを覚えてはいないけど。白のお陰で、今、生きていられるんだ。助けてくれて、ありがとう……」
白は驚いたように目を見開き。そして、ふわりとした笑みを浮かべた。
「うん、僕の選択は間違えていなかった。ヤマダの魂を救うことが出来て、本当に良かったよ」
白がニコニコと優しげに笑っていて、こんな状況であるのに、俺も顔に笑みを浮かべていた。
「――あ、それとね。転生させるの、実はけっこう面白かったんだ。特に、能力設定とかね!」
そう言った白は、顔を輝かせ。より一層、笑みを深めている。
ん? ちょっと待てよ。じゃあ、もしかして、俺のあのシステムとかも白が……?
「なあ、白。もしかして、俺の色々なシステム的なものって……まさか――」
「あっ! あれは、いっぱい楽しんでもらおうと、僕すっごい頑張ったんだ! どうだった?」
…………なんだって?
「お、おい~? まさか、幸運スキルの、あのやつも……?」
「幸運スキルの?」
んん? あれ……? 人が吹っ飛んでいくのは、幸運スキルじゃないのか?
「あの、一定距離で人が吹っ飛ぶの……」
「ああっ! あれは、僕のプレゼントだよ! 無敵っ!! みたいなのって子供は好きでしょ? だから、波動的な感じをイメージしたんだ! 流石に、強すぎる魔術師には無効化されちゃうけどね~。ね、ね、喜んでくれた?」
おい。てっきり、あれは幸運スキルのせいだとずっと思ってたのに、白のプレゼントだって……?
っていうかさ――――。
「俺は、子供じゃねーーぞっ!! この、ガキンチョがぁああーーーっっ!!!」
思いっきりゲンコツかまそうと思ったけど、スカした。
チッ! 実体じゃないこと忘れてたわ。
キョトンとした様子の白に。俺は転生前、22歳だったのだと伝えた。
すると、酷く驚かれ。それに俺は、ガックリと肩を落とす。
――それから、レイドの拘束魔法などに対して寒気を感じたのも、幸運スキルの恩恵などではなく。俺自身の、ただの第六感だったらしい。
いや、スキルに組み込まれてるから。普通は、何かしら、意味があると関連付けるよな?
それじゃあ、ただ表記されてるだけじゃんか……。
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