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61.最後の禁術機との対面
しおりを挟む「ん、分かって来た!! 分かって来たぞ~~~っ!!」
あの後、レイドは魔術塔に用があると足早に出て行った。恐らく、炎竜から聞いた諸々の話を伝えるためにだろう。
そして、俺はあれからずっと魔力の流れを読んでいたのだが。遂に、それが分かって来た。
「よし、よし、よ~し!! おっ! ここか? もしかして、ここだったのかっ!?」
魔力の流れを、しっかりと読み取れてから見てみると――いつも魔法を出す出口の隣に、閉まっている扉のようなものが見えた。
不思議と、取っ手みたいになっているところも付いてあって、本当に扉にしか見えない。
俺は、魔力の流れを読んでいるうちに、その中で細かく操作も出来るようになっていた。
だから、その扉の取っ手に、操作した魔力を絡ませるようにして、強く引いた。
「おし! 開け~~~ゴマっ!!」
――シュゥウウ。
ん? なんか、ショートしたみたいになったぞ?
あれ? 確かに引いたよな……?
「あれ、戻ってる。何でだ~?」
それから、何度試しても結果は同じだった。
「あああ~~~っ!! なんでだよ! 俺の直感は、ここだって言ってるんだぁあっ!!」
そうなんだ、これを見つけてからというものの。成さなければならない、という使命感に駆られている。
多分、これは核としての本能なのかもしれない。
「いや、ていうかさ~! もっと早くに、この本能みたいなの来てくれよ~!! 俺が意識していなくてもっ!!」
本当、こんな状況になる前に知ってたらな……。
俺がしんみりとして、ため息を吐いていた時――黒い渦のようなものが、いきなり俺のダンジョンに出現した。
「なっ、なんだ……っ!?」
それが収まると。レイドが地面に倒れ込んでいるのが、俺の目に映る。
「え……? レ、レイドっ!! な、何が、何が起こって……っ!?」
「ふ~ん……。お前が、白の救った魂か」
真後ろから声が聞こえて。俺は、慌てて後ろへと振り向く。
すると、10才くらいの子供が、俺を観察するような目で見ていた。
何故か、その目にヒヤリとしたものを感じる。
「ガキじゃん」
は……? こいつ、俺の事ガキっつった?
「俺はガキじゃねーぞ! お前のがガキだろっ! ってか、誰だよ……お前?」
「おい、おい。そんな悠長にお喋りしてて、良いのか?」
「はぁ? 勝手に入って来て……――あっ!!」
そうだ、こんなよく分からんガキと、話してる暇なんてない。
レイドに駆け寄り、何度も名前を呼ぶが……。グッタリとしたまま動かない。
確認したところでは、外傷もないし。気絶しているように見えた。
「はぁ~。こんな馬鹿に、なんで白は……」
呆れた声が聞こえたのでガキを見ると、冷たい目をしてこちらを眺めていた。
多分、原因はこのガキだろう。
「お前、レイドに……ん?」
俺は、ガキに何か違和感を感じた。
まさか、こいつ……。
「あ、やっと気がついた? 初めまして、俺は人間に【黒の禁術機】って言われてるみたいだな」
そうだ、あの現れ方からして変だというのもあるけど。ガキを良く見ると……。灰の禁術機と同じく、身体が透けている。
「黒の禁術機。なんで、ここに……?」
俺がそう言った途端。黒の禁術機は大きな声で笑っていた。
「はあ~……。あのさ~、何故だかまだ分からないんだ? お前が、なんで核の力を使用出来ないんだと思う……?」
黒の禁術機は、やれやれといった様子で。俺にゆっくりとした口調で話してきた。
「まさか、お前の仕業……?」
「ああ。俺は、世界と同期出来るからな。お前の力が流れないよう、遮断するなんて簡単だ」
世界と、同期って……炎竜と一緒じゃないか。
「じゃあ、お前も炎竜と同じように、自然力を使うのか?」
「……自然力を使うのは一緒だけどな。あんな奴と同等だと思われたくはない。あいつと違って、俺は、ずっと、ずっと、苦しい思いをしてきたっ! 特に、俺は……っ! その土地や空気の淀みだって嫌でも伝わって来る! 全然違うんだよっ!!」
そう言い終えた黒の禁術機は、苦しげに顔を歪めていた。
「なら、俺がそれを打開出来るのに……どうして邪魔をするんだよ?」
黒の禁術機が苦しい思いをしていたのは、その表情から十分伝わってきた。けど、それなら何故、邪魔立てするのかが分からない。
「……俺、けっこう辛抱強く待ってたんだぞ? こうなるまでに、もし打開してくれるなら……猶予だってやろうと思ってたんだ。でも、こんなに世界を壊しきるまで、何もしてくれなかったじゃないか。だから、許せない」
「だから、今――」
「今さら、遅い……っ! ……こうなったのも、全部お前のせいだ。あんたらが、邪悪だって決めつけて壊し回っていた俺達は、世界を救う役割を持っていたんだからな」
世界を救う? 禁術機が?
禁術機の行動を思い返す――……まさか。
「人間を滅ぼす、ことか?」
「ああ、そうだよ。世界が、己を壊していく人間を『悪』だと考えたんだろうな。――でも、俺一人じゃ……役割は果たせない。まだ、灰がいれば……」
黒の禁術機があまりにも、苦しさに踠くように話していて……俺は言葉を発することが出来なかった。
「……――そうだ、灰は馬鹿な奴だ。もし、俺があいつの能力を与えられていたら、直ぐに人間達を滅ぼしたのに。一度、国を落としただけで怯えて。最後の最後まで、人間を滅ぼそうとしなかった。お陰で、世界はこの有り様だ……」
灰の禁術機……。やっぱり、あの時。人間を滅ぼそうと思ってはいなかったんだな……。
同じ仲間である、黒の禁術機がこう言っているのなら。確実だろう。
「……灰は覚えてなくても、俺はこいつの顔を一度たりとも忘れたことはなかった。だから、俺のかけた術で誰よりも苦しんで死んでもらうんだ!」
――黒の禁術機は、手で髪をグシャグシャと掻き回し、ぶつぶつと話している。
途中から、俺に話すというよりも、自分自身の鬱憤をぶちまけているだけのようだった。
レイドを睨み付け、過去に会った事があるといった風に話しているが――。
俺はそれよりも、術をかけたという言葉に驚く。
「おい! お前、レイドに術をかけたのか!? 術者がいない、のに……?」
そう、術者が見当たらない――だから、俺は……。ただ、レイドが気絶しているのだと思っていた。
禁術機が能力を発動し、移動するには……術者が必須じゃなかったのか?
「あ~。そんなことにも、辿り着いてなかったんだ? ……まあ、もう最後だ。教えてやる。勿論、能力を使用するには、術者は必要だが――俺と白、緑は、人間を使わずとも、自分から移動することは可能なんだよ。白と緑は、一度、能力を使うと壊れちまう性質だったが。俺達は壊された後の、残留思念も強い」
黒の禁術機は、どこか寂しそうに目を伏せている。
なんだか、灰の禁術機の時もそうだったけど……。まるで、子供のようだ。
苦しさや悲しみをたくさん感じ、辛くて泣き叫んでいる、子供のようなんだ。
俺が、早く核の力を使えていれば、こんな事態にならずに済んだ?
皆、苦しまずに済んだのか……?
「――核の力に、早く気付かなくて……ごめん」
黒の禁術機に謝るというよりも。ぽろりと、そんな言葉が出てしまった。今、誰かに謝ったからといって……どうしようもないのは分かっているのに――。
俺の言葉に、黒の禁術機は目を見開き。それから、俺を強く睨み付けてくる。
「ふざけんな!! そんな一言で、済むわけないだろっ! ――……はははっ! ほら、見ろ!! 漸く、術の進行が出て来たぞ?」
黒の禁術機が、笑いながら指さした方を見ると――レイドの身体が、ジワジワと黒く染まり始めていた。
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