上 下
61 / 140

61.最後の禁術機との対面

しおりを挟む
 


「ん、分かって来た!! 分かって来たぞ~~~っ!!」


 あの後、レイドは魔術塔に用があると足早に出て行った。恐らく、炎竜から聞いた諸々の話を伝えるためにだろう。

 そして、俺はあれからずっと魔力の流れを読んでいたのだが。遂に、それが分かって来た。


「よし、よし、よ~し!! おっ! ここか? もしかして、ここだったのかっ!?」


 魔力の流れを、しっかりと読み取れてから見てみると――いつも魔法を出す出口の隣に、閉まっている扉のようなものが見えた。
 不思議と、取っ手みたいになっているところも付いてあって、本当に扉にしか見えない。

 俺は、魔力の流れを読んでいるうちに、その中で細かく操作も出来るようになっていた。
 だから、その扉の取っ手に、操作した魔力を絡ませるようにして、強く引いた。


「おし! 開け~~~ゴマっ!!」


 ――シュゥウウ。


 ん? なんか、ショートしたみたいになったぞ?
 あれ? 確かに引いたよな……?


「あれ、戻ってる。何でだ~?」


 それから、何度試しても結果は同じだった。


「あああ~~~っ!! なんでだよ! 俺の直感は、ここだって言ってるんだぁあっ!!」


 そうなんだ、これを見つけてからというものの。成さなければならない、という使命感に駆られている。

 多分、これは核としての本能なのかもしれない。


「いや、ていうかさ~! もっと早くに、この本能みたいなの来てくれよ~!! 俺が意識していなくてもっ!!」


 本当、こんな状況になる前に知ってたらな……。

 俺がしんみりとして、ため息を吐いていた時――黒い渦のようなものが、いきなり俺のダンジョンに出現した。


「なっ、なんだ……っ!?」


 それが収まると。レイドが地面に倒れ込んでいるのが、俺の目に映る。


「え……? レ、レイドっ!! な、何が、何が起こって……っ!?」
「ふ~ん……。お前が、白の救った魂か」


 真後ろから声が聞こえて。俺は、慌てて後ろへと振り向く。

 すると、10才くらいの子供が、俺を観察するような目で見ていた。
 何故か、その目にヒヤリとしたものを感じる。


「ガキじゃん」


 は……? こいつ、俺の事ガキっつった?


「俺はガキじゃねーぞ! お前のがガキだろっ! ってか、誰だよ……お前?」
「おい、おい。そんな悠長にお喋りしてて、良いのか?」
「はぁ? 勝手に入って来て……――あっ!!」


 そうだ、こんなよく分からんガキと、話してる暇なんてない。

 レイドに駆け寄り、何度も名前を呼ぶが……。グッタリとしたまま動かない。
 確認したところでは、外傷もないし。気絶しているように見えた。


「はぁ~。こんな馬鹿に、なんで白は……」


 呆れた声が聞こえたのでガキを見ると、冷たい目をしてこちらを眺めていた。

 多分、原因はこのガキだろう。


「お前、レイドに……ん?」


 俺は、ガキに何か違和感を感じた。

 まさか、こいつ……。


「あ、やっと気がついた? 初めまして、俺は人間に【黒の禁術機】って言われてるみたいだな」


 そうだ、あの現れ方からして変だというのもあるけど。ガキを良く見ると……。灰の禁術機と同じく、身体が透けている。


「黒の禁術機。なんで、ここに……?」

 俺がそう言った途端。黒の禁術機は大きな声で笑っていた。

「はあ~……。あのさ~、何故だかまだ分からないんだ? お前が、なんで核の力を使用出来ないんだと思う……?」

 黒の禁術機は、やれやれといった様子で。俺にゆっくりとした口調で話してきた。

「まさか、お前の仕業……?」
「ああ。俺は、世界と同期出来るからな。お前の力が流れないよう、遮断するなんて簡単だ」

 世界と、同期って……炎竜と一緒じゃないか。

「じゃあ、お前も炎竜と同じように、自然力を使うのか?」
「……自然力を使うのは一緒だけどな。あんな奴と同等だと思われたくはない。あいつと違って、俺は、ずっと、ずっと、苦しい思いをしてきたっ! 特に、俺は……っ! その土地や空気の淀みだって嫌でも伝わって来る! 全然違うんだよっ!!」

 そう言い終えた黒の禁術機は、苦しげに顔を歪めていた。

「なら、俺がそれを打開出来るのに……どうして邪魔をするんだよ?」

 黒の禁術機が苦しい思いをしていたのは、その表情から十分伝わってきた。けど、それなら何故、邪魔立てするのかが分からない。

「……俺、けっこう辛抱強く待ってたんだぞ? こうなるまでに、もし打開してくれるなら……猶予だってやろうと思ってたんだ。でも、こんなに世界を壊しきるまで、何もしてくれなかったじゃないか。だから、許せない」
「だから、今――」
「今さら、遅い……っ! ……こうなったのも、全部お前のせいだ。あんたらが、邪悪だって決めつけて壊し回っていた俺達は、世界を救う役割を持っていたんだからな」


 世界を救う? 禁術機が?

 禁術機の行動を思い返す――……まさか。


「人間を滅ぼす、ことか?」
「ああ、そうだよ。世界が、己を壊していく人間を『悪』だと考えたんだろうな。――でも、俺一人じゃ……役割は果たせない。まだ、灰がいれば……」


 黒の禁術機があまりにも、苦しさに踠くように話していて……俺は言葉を発することが出来なかった。


「……――そうだ、灰は馬鹿な奴だ。もし、俺があいつの能力を与えられていたら、直ぐに人間達を滅ぼしたのに。一度、国を落としただけで怯えて。最後の最後まで、人間を滅ぼそうとしなかった。お陰で、世界はこの有り様だ……」


 灰の禁術機……。やっぱり、あの時。人間を滅ぼそうと思ってはいなかったんだな……。

 同じ仲間である、黒の禁術機がこう言っているのなら。確実だろう。


「……灰は覚えてなくても、俺はこいつの顔を一度たりとも忘れたことはなかった。だから、俺のかけた術で誰よりも苦しんで死んでもらうんだ!」


 ――黒の禁術機は、手で髪をグシャグシャと掻き回し、ぶつぶつと話している。
 途中から、俺に話すというよりも、自分自身の鬱憤をぶちまけているだけのようだった。

 レイドを睨み付け、過去に会った事があるといった風に話しているが――。
 俺はそれよりも、術をかけたという言葉に驚く。


「おい! お前、レイドに術をかけたのか!? 術者がいない、のに……?」


 そう、術者が見当たらない――だから、俺は……。ただ、レイドが気絶しているのだと思っていた。
 禁術機が能力を発動し、移動するには……術者が必須じゃなかったのか?


「あ~。そんなことにも、辿り着いてなかったんだ? ……まあ、もう最後だ。教えてやる。勿論、能力を使用するには、術者は必要だが――俺と白、緑は、人間を使わずとも、自分から移動することは可能なんだよ。白と緑は、一度、能力を使うと壊れちまう性質だったが。俺達は壊された後の、残留思念も強い」


 黒の禁術機は、どこか寂しそうに目を伏せている。

 なんだか、灰の禁術機の時もそうだったけど……。まるで、子供のようだ。
 苦しさや悲しみをたくさん感じ、辛くて泣き叫んでいる、子供のようなんだ。

 俺が、早く核の力を使えていれば、こんな事態にならずに済んだ?
 皆、苦しまずに済んだのか……?


「――核の力に、早く気付かなくて……ごめん」


 黒の禁術機に謝るというよりも。ぽろりと、そんな言葉が出てしまった。今、誰かに謝ったからといって……どうしようもないのは分かっているのに――。

 俺の言葉に、黒の禁術機は目を見開き。それから、俺を強く睨み付けてくる。


「ふざけんな!! そんな一言で、済むわけないだろっ! ――……はははっ! ほら、見ろ!! 漸く、術の進行が出て来たぞ?」


 黒の禁術機が、笑いながら指さした方を見ると――レイドの身体が、ジワジワと黒く染まり始めていた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

勇者よ、わしの尻より魔王を倒せ………「魔王なんかより陛下の尻だ!」

ミクリ21
BL
変態勇者に陛下は困ります。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

不良が異世界に行ったら騎士達に溺愛され波乱万丈な日々を過ごしてます

茶子ちゃ
BL
喧嘩の日々を送る柊桃太、ある日喧嘩をした帰り道誰かに後ろから殴られ目が覚めるとそこは……。 ※R18要素盛り沢山予定です。 言葉責め、淫語多々あります。 主人公が溺愛、そして複数と身体の関係(数人の情事あり)を持ちます。苦手な方はおすすめできません。

見せしめ王子監禁調教日誌

ミツミチ
BL
敵国につかまった王子様がなぶられる話。 徐々に王×王子に成る

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

召喚聖女が十歳だったので、古株の男聖女はまだ陛下の閨に呼ばれるようです

月歌(ツキウタ)
BL
十代半ばで異世界に聖女召喚されたセツ(♂)。聖女として陛下の閨の相手を務めながら、信頼を得て親友の立場を得たセツ。三十代になり寝所に呼ばれることも減ったセツは、自由気ままに異世界ライフを堪能していた。 なのだけれど、陛下は新たに聖女召喚を行ったらしい。もしかして、俺って陛下に捨てられるのかな? ★表紙絵はAIピカソで作成しました。

刑事は薬漬けにされる

希京
BL
流通経路がわからない謎の薬「シリー」を調査する刑事が販売組織に拉致されて無理やり犯される。 思考は壊れ、快楽だけを求めて狂っていく。

処理中です...