上 下
56 / 142

56.天地異変のような

しおりを挟む
 


 ※流血描写があります。苦手な方は、ご注意下さい。



 --------


 残り一つである禁術機の情報を、未だまったく掴めず。俺達は、数日間ダンジョン内で待機していた――。


「えっ!? 光粒の花が、全部枯れた?」
「ああ。ここ最近、急にらしい」


 毛玉と青い鳥が持って来た種から、植物が生え揃い。ふかふかで気持ち良くなったダンジョン内で。
 俺はゴロゴロとしながら、レイドに勇名にある光粒のことを聞いた。
 あわよくば、種が飛ぶ時期に連れて行ってもらおうかな~、なんて思っていた。種が飛ぶ時期を聞いても、忘れる自信があったから……。

 だが、『全て枯れた』と。そんな驚く返答が返ってきた。

 えぇ~……。じゃあ、勇名を達成するの、絶対に無理じゃんか。


「ちなみに、どんな形の花だったんだ?」
「あれは、何故か色や形が一定していない」

 え? そんな植物なんてあんのか? 怖っ!!

「レイドは見たことあるのか? もし、あるなら……その時はどんなだった?」

 聞いても、意味がないと思うけど。一応な。

「2回程しか見ていないが……。一度目は、花びら部分が白色で、平たく潰れたような形。二度目は、灰色で、ギザギザとしていた。正直、俺はそれが花だとは思えなかったな」

 確かに、そんなの花だと思えないよな~。ただの物体じゃん。
 ん? でも、俺のダンジョンに咲いてるのに、少し似てるような……?

「レイド、ここに生えてる植物知ってる?」

 洞窟内を埋め尽くしているものを、指さした。

「記憶の中では、見たことも聞いたこともない。……実は、これを調べようと、持ち出そうとした事もあるのだが。何度試しても、抜いた瞬間に枯れてしまった」

 えぇっ!? いつ、そんな試みを?
 本当、レイドって、ミステリアスなところがあるわ……。

「へぇ~じゃあ、分から――」
「ハートシア様……っ!」


 切羽詰まったような声が、ダンジョンの入り口から聞こえて来て。そこへ、俺が顔を向けると――――。

 忍者の格好をした人が、苦しそうに息を切らしている。


「何があった?」


 レイドが立ち上がり、その人に歩いて行くようだったので。俺も、一緒について行くことにした。


「はぁ、はぁ……! ハートシア様、今、国が……。いえ、世界が大変なことに、なっており――……ぐっ! ……ゴボッ!!」
「えっ!? な、なに? え、血……?」


 忍者の人が、口から血をゴボゴボと吐き出し。鼻や耳からも、血が吹き出ている。身体が、グラリと傾き。倒れ込みそうになっていた。

 俺が、支えようと近づく前に。レイドがその身体を支え、すかさず回復魔法をかけ始めた。
 それのお陰で、血を吐くのが収まったようだ。


「それで、一体……何が起こっている?」


 一先ず、忍者の人を俺のダンジョン内へと招き。話の続きを聞くことにした。

 と言っても。俺は、何がなんだか分からず。聞き役に徹することしか出来ずにいるが……。


「今、全ての国で作物が育たなくなり。それによって、腐ってしまったものでも口にしなくてはならなくなりました。それを、口にした者は……。恐らく、先ほどの私と、同じ状態になるのでしょう」
「……何故、早く報告をしなかった」


 レイドは、顔をしかめ。それを責めている様子を見せていた。

 ――確か……。八百屋の店主達も、そのような事を話していた気がする。


「あまりにも、急なことで。私達の組織内も、酷く混乱して……――ああ、いえ。申し訳ありません。禁術機とは関係ないからと、ハートシア様にお伝えする必要はないかと思い。報告を怠りました……」


 忍者の人は、言葉の途中で。ふと、何かを思い出したかのような顔をした後。レイドに頭を下げ、謝罪した。

 こんなになる前に。本当は、報告をすることは出来たが。自己判断でしなかった……といったように感じた。
 ただ、その申し訳ないといった表情から。悪気があるようには見えないので。もしかしたら、レイドが食事をしないと知っていて……。だから、手を煩わせる必要はないと考えたのだろうか? と俺は思った。

 ――レイドに視線を向けると。少し、済まなそうな顔を浮かべている。
 だから、俺が思ったように。レイドは食事が必要ないことを、この人にも伝えていたのだろう。


「いや、謝らなくていい。俺が、ちゃんと聞かなかったせいだな。…………それで、それはいつからだ」

 そうだ。あの会話を聞いたのって、いつだったっけ……?
 ここ最近、だったと思うんだけど――。

「作物が腐り初めたのは、2日前……。大陸全ての作物が腐り落ちたと知ったのは、本日です」

 そんな、急に? 天地異変か、何かが起きたのか……?

「分かった。直ぐに街へ向かうことにする」


 ――忍者の人は、レイドに助けてもらったお礼を言い。足早にダンジョンから去って行った。

 それを確認してから、レイドは俺に手を差し出してきた。


「ヤマダ、空間魔法を使うから……手を」
「あ、ああ」


 俺は、レイドの手を握る――。

 視界がグニャリと歪み。俺達のいる場所が、瞬時に変わった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?

青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。 そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。 そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

俺の義兄弟が凄いんだが

kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・ 初投稿です。感想などお待ちしています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

弟の可愛さに気づくまで

Sara
BL
弟に夜這いされて戸惑いながらも何だかんだ受け入れていくお兄ちゃん❤︎が描きたくて…

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...