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56.天地異変のような
しおりを挟む※流血描写があります。苦手な方は、ご注意下さい。
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残り一つである禁術機の情報を、未だまったく掴めず。俺達は、数日間ダンジョン内で待機していた――。
「えっ!? 光粒の花が、全部枯れた?」
「ああ。ここ最近、急にらしい」
毛玉と青い鳥が持って来た種から、植物が生え揃い。ふかふかで気持ち良くなったダンジョン内で。
俺はゴロゴロとしながら、レイドに勇名にある光粒のことを聞いた。
あわよくば、種が飛ぶ時期に連れて行ってもらおうかな~、なんて思っていた。種が飛ぶ時期を聞いても、忘れる自信があったから……。
だが、『全て枯れた』と。そんな驚く返答が返ってきた。
えぇ~……。じゃあ、勇名を達成するの、絶対に無理じゃんか。
「ちなみに、どんな形の花だったんだ?」
「あれは、何故か色や形が一定していない」
え? そんな植物なんてあんのか? 怖っ!!
「レイドは見たことあるのか? もし、あるなら……その時はどんなだった?」
聞いても、意味がないと思うけど。一応な。
「2回程しか見ていないが……。一度目は、花びら部分が白色で、平たく潰れたような形。二度目は、灰色で、ギザギザとしていた。正直、俺はそれが花だとは思えなかったな」
確かに、そんなの花だと思えないよな~。ただの物体じゃん。
ん? でも、俺のダンジョンに咲いてるのに、少し似てるような……?
「レイド、ここに生えてる植物知ってる?」
洞窟内を埋め尽くしているものを、指さした。
「記憶の中では、見たことも聞いたこともない。……実は、これを調べようと、持ち出そうとした事もあるのだが。何度試しても、抜いた瞬間に枯れてしまった」
えぇっ!? いつ、そんな試みを?
本当、レイドって、ミステリアスなところがあるわ……。
「へぇ~じゃあ、分から――」
「ハートシア様……っ!」
切羽詰まったような声が、ダンジョンの入り口から聞こえて来て。そこへ、俺が顔を向けると――――。
忍者の格好をした人が、苦しそうに息を切らしている。
「何があった?」
レイドが立ち上がり、その人に歩いて行くようだったので。俺も、一緒について行くことにした。
「はぁ、はぁ……! ハートシア様、今、国が……。いえ、世界が大変なことに、なっており――……ぐっ! ……ゴボッ!!」
「えっ!? な、なに? え、血……?」
忍者の人が、口から血をゴボゴボと吐き出し。鼻や耳からも、血が吹き出ている。身体が、グラリと傾き。倒れ込みそうになっていた。
俺が、支えようと近づく前に。レイドがその身体を支え、すかさず回復魔法をかけ始めた。
それのお陰で、血を吐くのが収まったようだ。
「それで、一体……何が起こっている?」
一先ず、忍者の人を俺のダンジョン内へと招き。話の続きを聞くことにした。
と言っても。俺は、何がなんだか分からず。聞き役に徹することしか出来ずにいるが……。
「今、全ての国で作物が育たなくなり。それによって、腐ってしまったものでも口にしなくてはならなくなりました。それを、口にした者は……。恐らく、先ほどの私と、同じ状態になるのでしょう」
「……何故、早く報告をしなかった」
レイドは、顔をしかめ。それを責めている様子を見せていた。
――確か……。八百屋の店主達も、そのような事を話していた気がする。
「あまりにも、急なことで。私達の組織内も、酷く混乱して……――ああ、いえ。申し訳ありません。禁術機とは関係ないからと、ハートシア様にお伝えする必要はないかと思い。報告を怠りました……」
忍者の人は、言葉の途中で。ふと、何かを思い出したかのような顔をした後。レイドに頭を下げ、謝罪した。
こんなになる前に。本当は、報告をすることは出来たが。自己判断でしなかった……といったように感じた。
ただ、その申し訳ないといった表情から。悪気があるようには見えないので。もしかしたら、レイドが食事をしないと知っていて……。だから、手を煩わせる必要はないと考えたのだろうか? と俺は思った。
――レイドに視線を向けると。少し、済まなそうな顔を浮かべている。
だから、俺が思ったように。レイドは食事が必要ないことを、この人にも伝えていたのだろう。
「いや、謝らなくていい。俺が、ちゃんと聞かなかったせいだな。…………それで、それはいつからだ」
そうだ。あの会話を聞いたのって、いつだったっけ……?
ここ最近、だったと思うんだけど――。
「作物が腐り初めたのは、2日前……。大陸全ての作物が腐り落ちたと知ったのは、本日です」
そんな、急に? 天地異変か、何かが起きたのか……?
「分かった。直ぐに街へ向かうことにする」
――忍者の人は、レイドに助けてもらったお礼を言い。足早にダンジョンから去って行った。
それを確認してから、レイドは俺に手を差し出してきた。
「ヤマダ、空間魔法を使うから……手を」
「あ、ああ」
俺は、レイドの手を握る――。
視界がグニャリと歪み。俺達のいる場所が、瞬時に変わった。
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