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55.付き添いのはずが、何故に?

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 本当に存在しているのかと思う程、黒の禁術機の動向が全く掴めていないようだ。
 もし、身体が黒ずんだ死体が現れたなら、灰の禁術機よりも特殊な為。民間でも話題になり、場所がすぐに特定できるだろう。
 だが、そういったものは無く。だから、勿論のこと、磁気を捉えることも出来ずにいた――――。


「ヤマダ、服を買いに行こう」
「はぁ?」

 なに、なんで、服? 意味分からん。

「俺、一緒に行く必要ある?」
「禁術機の動向が分かったら、直ぐに向かいたい」

 まぁ、紫や灰の禁術機の時も。分かった途端に、直ぐに向かってたしな。
 それは、禁術機を少しでも野放しにしていたら、危険だから……ということは分かるが――。

「その、服を買う理由は……?」
「……火山の溶岩により、俺の服が殆ど燃えた。今、三着ほどしかない」

 ああ~……。そういや、マグマが噴火した時。バッグが消し炭になって、地面に転がってたな。

「お前、服とかあまり買うタイプじゃないんだ? いま着てんのは、リュックに残してた服?」

 レイドは、服の全部を入れる必要もないし、入らないからと言って。何着かはリュックの方に残していたからな。

「ああ、数より質が大事だろう。特に、気に入っていた服たちが、全て灰になってしまった……」

 ションボリとしてるレイドを見て、首を傾げた。

「ってか……。なんで、気に入ってんのを戦闘する場に持ってったんだよ? そのまま、リュックの方に残しとけば良かったじゃん」
「……? 大事なものは、持って行くだろう。戦闘がいつ終わるか、分からないならば余計だ」 

 …………なに、言ってんの? 戦闘の場に持ってく服なんて、絶対にボロボロになるだろ。こいつ、意外と抜けてんのか?

「はぁ~……。じゃあ、お前さ……。次からは、好きな服を買い溜めしといて、自宅に置いとけよ? 買いに行くの、面倒だろ」
「自宅などは無い。荷物は、普段。簡易ロッカーを借り、入れてはいるが……。入れた場所を忘れない為、一つしか借りていないからな。服など、かさばる物をたくさん入れたら。それだけで、埋まってしまう」
「はぁ~!!?」

 自宅が、無い? え? だって……。古代魔術師とか言われて、めちゃくちゃ偉い人みたいに言われてんのに……? 

「なんで? それ、困んないの……?」
「むしろ、あった方が困るだろう。維持費や、掃除。近所付き合い、ゴミ出し当番なんか……。考えるだけで、嫌だな」

 維持費や掃除は分かるけど。近所付き合いと、ゴミ出し当番とか……。こいつが、嫌だと言ってんの……なんか笑える。やること全て、難なくこなせそうなのに。人間関係とか、苦手なんだ?

 ま、そっか……。よく考えると、レイドは普通の人とは違って。食事とかは、特に必要ないとか言ってたし。回復魔法に、身体を清潔に出来る術もあるみたいだからな……。最悪、野宿でも大丈夫なんだろう。

「はぁあ~……。じゃあ、さっさと……――ん? ちょっと、待てよ……」


 じゃあ……。こいつが、俺のダンジョンに入り浸ってんのって――。


「まさか、お前。俺のダンジョン、家代わりにしてる?」
「ヤマダ、なにを今更……。ここは、ヤマダと俺の家だ。ああ、そうか。失念していた……。帰りにロッカーに行き、全ての荷物をここに持っ――」
「宿泊費、払えや!!」


 俺は、レイドをフルパワーな魔法で吹っ飛ばした――――。



 △▼△▼△▼△▼


「ヤマダっ! これ全て、試着してくれ!」


 白い女物のふわりとした服、メイド服、チャイナ服のようなものまで――レイドはそれらを両手いっぱいに抱え、嬉々として俺に見せてきた。


「…………おい、俺の服を見に来たんじゃねぇだろ! しかも、女物の服を持ってくるとか……嫌に決まってんだろうが! 喧嘩売ってんのかよっ! 今すぐ、買ってやろうか!?」
「大丈夫だ。俺が買って、ヤマダにプレゼントしてやる」
「ふざけんなっ! 意味ちげーよ!!」


 もう、こいつ……本当ヤダ。

 禁術機が関係している時とかは、俺に対しても真面目に会話してきて、表情を引き締め、凛とした佇まいでいるのに……。それから離れると、なんでこんなポンコツになるんだよ!

 まさか、俺を一緒に連れて来たの……。俺に服を試着させようって魂胆があったとか?


「お前、これのために……。俺を、連れて来たとか言わねぇよな?」
「……禁術機が、いつ現れるか分からないからだ。それで、ヤマダ……どれがいい?」
「どれも嫌だよ!!」


 こいつ、絶対に魂胆があったな!


「ヤマダ、これだけでいいから」

 ふわりとした白い服を押し付けられた。

「嫌だっつってんだ――」


 ――ビリリ……ッ!


「……あ」


 レイドに、おもいっきり押し付け返そうとしたら……嫌な音がした。

 恐る恐る見たら。レース部分が、縦に破けてしまっている。


「ぁっ、ああっ!! ご、ごめん。破けちゃって……! どうしよ……」


 か、金……。ヤバい。俺、この世界の通貨……持ってない。

 俺が顔を青くし、ワタワタとしていると。レイドが服を渡してくれと言ったので、言われるがまま手渡す。


「俺が、ヤマダに無理に渡してしまったからだ。勿論、弁償は俺がするから、ヤマダは気にするな。無理強いして、悪かった」
「いや、でも……」

 きっかけはどうであれ、破いてしまったのは俺なのに、レイドに弁償させてしまうのを申し訳なく思った。

「ちょっと、待っていてくれ」


 ――レイドが辺りを見渡し、何処かにスタスタと歩いて行く。


「――……ちょっと、良いか」
「あっ……! ハートシア様、何かございましたか?」


 少し離れた場所で品物を整理していた様子の女性店員に、レイドが近づいて行ったようで。店員は直ぐ、レイドにパッと笑顔を向けた。
 頬を赤らめ、きゅるるんとした顔で上目遣いをしているから……。恐らくは、レイドに気があるのだろう。
 チッ! 罪作りなヤロウだ……。


「すまない、この服を破いてしまった。いくらだろうか?」
「いえ! ハートシア様には、いつもご贔屓して頂いておりますので……」
「いや、そういうわけにはいかない」


 店員は良いと言い、レイドは駄目だと言い。暫く、お互いに言っていることが堂々巡りだったが。店員がレイドに押し負け、値段を伝えた――。


「百万ポウルです」


 ……百万ポウル? え、元の世界だと、百万円……なんだけど?

 ウソだぁ~! ヒラヒラして、あんなスースーしそうな服が百万なんて……。いや、そういう服こそ、すんごく繊細に出来てるとか? 俺、服のことは、よく知らんから……。はぁ~……。これは、もう仕方ない……――。


 ――レイドは、クリスタルのようなものに触れ。店員が「ハートシア様の口座から、支払いが完了しました」と、レイドに伝えている。


 あれは……? もしかして、魔法具ってやつか?

 確か、便利な道具のようなものだとディスプレイには書かれてあったんだよな。
 魔法に似ているが、魔法ではないし。機械に似ているが、機械でも無い。科学的には解明できない、不可思議な道具だと濁すように書かれていたから……。詳しくは、説明できない物なのだろう。

 俺は、今。それを思い出し。レイドの持つ魔法や、禁術機を混ぜたような感じだな……と思った。

 手で触っただけで支払いが出来るなんて、魔法具ってどんな仕組みしてるんだ? 禁術機を探す磁石みたいなのは、機械らしいけど……。技術も、凄い発展してるよな? それなら、魔術塔は……。魔法具と、機械どっちな――。


「――ヤマダ。俺の服を買ってくる。もう少しだけ、待っててくれ」
「え……?」


 俺が考え事していたら、支払いを済ませたレイドが戻ってきていたようだ。

 また、俺から背を向けて。何処かに行こうとしていて――俺は慌てて、レイドの腕を掴んだ。


「まっ、待て!」
「……ん? ヤマダ、どうかしたか?」


 レイドは目を丸くし、俺の顔と、俺に掴まれた己の腕を交互に見ている。

 ふっ……。ここは、腹を括るしかない。


「持ってこいっ! お前が――俺に着させたい服、全てを!!」
「…………は、ヤマダ……っ! そんな、いいのか……?」


 レイドは胸を押さえ、ふらりとよろめいた後。顔をぶわりと赤らめた。

 今、手元に返せる金がないなら……。レイドを十分に満足させるしかない。これは――接待だと思えばいい! 仕事だ。これは、仕事なんだ!!


「やってやる! やってやるぞ!! 俺の前に、なんでも持ってこ~いっ!!」
「ヤマダ! いま直ぐに!!」


 すごい勢いで走って行く、レイドの後ろ姿を。俺は、無心な気持ちで見送った。



 △▼△▼△▼△▼


「はぁ……っ、ヤマダ、可愛いっ! 可愛すぎる!!」
「……お前さぁ。流石に、キモいんだけど?」


 俺が初めに着たメイド服から――レイドは、鼻血をダラダラと垂らしている。

 店員の人が、レイドに大丈夫かと声を掛けた時に。レイドは(鼻血を垂らしながら)キリッとした顔を、店員へと向け「まったく、問題ない。俺が話し掛けるまでは、絶対に話し掛けないでくれ」と言ってから、素早く俺に視線を戻していて……。めちゃくちゃ引かれていた。

 こんな様子だから、レイドのアソコ、立ってるんじゃ……? と思って、下腹部をチラリと見たが、普通だった。
 それで、ふと……。もしかしたら、レイドのアソコにいく血流が全部、鼻の方にいってるんじゃないかと思ったんだ。
 そして、時間が経つ毎に、その可能性が濃厚な気がしてきて。マジで、キンモいんだよ……。


 今、俺が着ている服は、まだ在庫にあったらしい、俺が破いてしまった服なんだけど。
 もう、自分の格好を気にするより。レイドの、だんだんと真っ赤に染まっていく服の方が気になってしまっていた。

 あんなになるくらい血が出てるのに、よく倒れないな……。これが、変態パワーか?


 ――それから暫くして、漸く俺の着せ替え人形が終わり。レイドはものの5分ほどで自分の服を選び、購入したのだが……。服を何着も試着させてもらったのと、滞在した時間が長かったからと、プラスでお金を支払っていた。

 逆に、また支払わせてしまった……と悪く思ったけど。なんだが、俺が気づかなかったようなことを気づけるレイドに、尊敬の眼差しを送った。
 ……が、その後に。俺に着させていた服も買おうとしていたから、ぶん殴って止めさせた。

 ダンジョンの核は、通常は裸体のようだが……。俺は、特殊なダンジョンの核だからか、初めから服を着ていて。汚れたり、破れたりしても、気がつけば元通りになっている。だから、服の替えは必要なかった。
 レイドにも、最近。雑談していた時に言ったから、それを覚えているはずだ。きっと、忘れたふりをしているのだろう。

 こんなに買ったら、一体いくらすると思ってんだよ! 俺が破いたので、百万ポウルだから……。数十着あるなら、一千万ポウルだったり……?

 俺はこれらの値段を想像してしまい、顔を引きつらせていたら、レイドに――「嫌なら、買わないが……。ヤマダ、また此処に連れてくるから……。俺の為に、着て欲しい」と言われたので。もう一度、ぶん殴っておいた。

 店員の人も、俺とは違った意味で。レイドの方を見ながら、顔をヤバいくらい引きつらせている。
 レイドに対して向けている目が、始めに向けたハートの目じゃなくて、ヤバい奴を見る目になってるけど……。

 ここ、レイドがご贔屓している……みたいなことを、その人言ってたよな? こんなんして、行きづらくならないの?

 ……いや、こいつ。そういうの気にしないか。気にするなら、鼻血吹いてあんなに堂々としないし。こんな意味わからないことを、店員がいる目の前で言ったりしないもんな。


 その帰り。レイドが荷物を預けているという、ロッカーに寄ったら――。

 レイドは「荷物を全て、ヤマダのダンジョン内に持って行きたい」と言い。手を組んでお願いポーズをし、目をうるうるとさせながら、俺を見つめてきた。
 俺は、もう怒る気力もなくなり「勝手にしろ」と言ったら。レイドは感極まったように、俺に抱きついてきて……。おもいっきり、殴り飛ばしてしまった。

 はぁ……。レイドと、一緒にいるとさ。なんか、俺。ゴリラキャラみたいになってる気がして、すごい嫌なんだけど……。


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