50 / 142
50.生物ではない存在
しおりを挟む「レイドっ!! 治せないのか!?」
――灰の禁術機が破壊されたことで、術にかかっていた者達は全員解放されたが。ずっと自分自身を傷つけ続けていた、炎竜の傷があまりにも深かった。
俺が、馬鹿を逆上させようと会話していた間に。レイドは、炎竜にふと視線を向けた時――。
炎竜は、特に胸の辺りをかきむしっていて、よく見ると何か杭のようなものが深く埋まっていたという。恐らくは、こいつらの誰かが土魔法を使い、その術が当たり体内に入ってしまったのだろう。
何とか杭を抉り出すのと、それをする一瞬の隙を狙ったのか――術にかけられた人間が、瞬く間に火山に魔法を撃ち込んで、噴火させたのが同時だったようだ。
それで、俺が馬鹿で一人キャッチボールしている時に、大量に溢れ出した溶岩を、炎竜が火の玉を出して押さえ込み。その後すぐに、炎竜は地へと倒れ込んでしまったという――――。
「……出来ない。炎竜は生き物ではなく、自然から生まれる。だから、無機物のような存在だ。生き物に作用する、俺の回復魔法をいくら使おうとも……この傷は癒せない」
「なんだよそれ!? 聞いてねーぞっ!!」
無機物だって!? どう見たって、生きてんじゃねーか!!
レイドはそう言いながらも、炎竜に極・回復魔法をかけてくれている。
しかし、レイドが言ったのを裏付けるかのように――その傷は塞がっていなかった。
『よい。ワシはもう、充分に生きた』
「えっ……? 炎竜!? 話せたのかっ!?」
身体を地面に横たえていた炎竜が、金色の目をこちらへと向けている。
『うむ、こんなに長く生きておれば言葉の一つや二つ覚えるわい。そうだの~……。そろそろ、この世界にも、長い生にも、飽きて来た頃だから丁度よかったところじゃ。ホッホッホ……!』
「……炎竜、それ嘘だろ?」
炎竜が言っていることは、嘘だと直ぐに分かった。
もし、本当にそうだったら……。あの禁術機が火山に何をしようが無視していた方が世界に変化を起こせるし。生きているのが飽きたなら、別に周囲がどうなろうが気にも留めない筈だ。だから、そんな必死に噴火を止める必要はない。
『ホッホッホ! わっぱが生意気じゃの~。まるで、あやつのようじゃわ! ――ん? いや、まさか……お主』
「……?」
炎竜が、いきなり神妙な様子で、こちらをじっと見詰めて来た。
『ホッホッホッホッホ!! たまげたわいっ! ここまで生きていた、甲斐があるものよ!!』
「え? な、なんだよ……?」
何かを確信したのか、炎竜が酷く嬉しそうに大笑いしている。
『お主、本当にすまなかったのぉ~。あの時、ちゃんと素直に自分の気持ちを受け入れておればと……後悔しておった』
ん? 炎竜は、何を言っているんだ?
「炎竜、さっきから何を――あっ!!?」
炎竜の身体が、ボロボロと崩れ落ちてきていた。
「炎竜!! レ、レイド……!! 本当に、手立てはないのか!?」
「す、まない……」
レイドは、俺が炎竜と会話をしている間にも、ずっと回復魔法をかけてくれていて。その顔や身体には、汗がダラダラと垂れ、今にも倒れてしまいそうな様子だった。
分かってる、分かってるんだ。
レイドに言っても、どうしようも無いことなんだろう。
『よい、よい、そこまでしてワシを留めようとしてくれて嬉しい限りじゃ。これは、ワシが自分でやった傷だからの。お主らが気に病む必要はない』
違う。全てが終わった、今だから分かるんだ。
もし、炎竜のような大きな生き物が闇雲に暴れまわったら、いくら俺やレイドであっても無事では済まなかっただろう。
それを、炎竜は俺達に限らず。自分が苦しむ原因となった馬鹿でさえも、傷付けないようにずっと気をつけてくれていた。
そして――炎竜がもし全力を出していたら、ここの一帯どころか、山の下にある国でさえも一瞬で焼失していたかもしれない程の強い力を炎竜から感じる。だから、その傷を負う前に全員を消し炭にすれば良かったのに、炎竜はそれをせずにいたのだ。
――炎竜の顔、身体と。どんどん、形が崩れ落ちて。大きかった身体が半分程になっていた。
きっと、もう長くない。
周りにいる俺達や、街にいる人間達をも守ろうとしてくれた――優しい心を持つ、炎竜が消えてしまう。俺は、それが絶対に嫌だと思った。
――ピピ。
【〖幸運に抱かれし者〗の強い苦痛を察知。
原因を取り除く為に、MAX幸運∞×10の使用を許可しました】
何だ?これは……?
よく分からないけれど、この状況で現れたなら……もしかして――――。
〖確認〗を押す。
――ピピ。
【原因の排除をオート設定にしますか?】
〖YES〗を押す。
――ピピ。
【〖炎竜の使役〗が可能です。申請しますか?】
〖申請〗を押す。
――ピピ。
【〖炎竜の使役〗が承認されました】
――ピピ。
【※使役している、炎竜のダメージが致命的です。
◆存在の消滅まで残り1分17秒
原因の排除=MAX幸運∞×10(残り2回)∶ダメージ移行のみ。
権限を使用しますか?】
〖YES〗を押す。
――――――――……。
0
お気に入りに追加
126
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜
・不定期
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる