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50.生物ではない存在

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「レイドっ!! 治せないのか!?」


 ――灰の禁術機が破壊されたことで、術にかかっていた者達は全員解放されたが。ずっと自分自身を傷つけ続けていた、炎竜の傷があまりにも深かった。

 俺が、馬鹿を逆上させようと会話していた間に。レイドは、炎竜にふと視線を向けた時――。
 炎竜は、特に胸の辺りをかきむしっていて、よく見ると何か杭のようなものが深く埋まっていたという。恐らくは、こいつらの誰かが土魔法を使い、その術が当たり体内に入ってしまったのだろう。
 何とか杭を抉り出すのと、それをする一瞬の隙を狙ったのか――術にかけられた人間が、瞬く間に火山に魔法を撃ち込んで、噴火させたのが同時だったようだ。

 それで、俺が馬鹿で一人キャッチボールしている時に、大量に溢れ出した溶岩を、炎竜が火の玉を出して押さえ込み。その後すぐに、炎竜は地へと倒れ込んでしまったという――――。


「……出来ない。炎竜は生き物ではなく、自然から生まれる。だから、無機物のような存在だ。生き物に作用する、俺の回復魔法をいくら使おうとも……この傷は癒せない」
「なんだよそれ!? 聞いてねーぞっ!!」

 無機物だって!? どう見たって、生きてんじゃねーか!!


 レイドはそう言いながらも、炎竜に極・回復魔法をかけてくれている。

 しかし、レイドが言ったのを裏付けるかのように――その傷は塞がっていなかった。


『よい。ワシはもう、充分に生きた』
「えっ……? 炎竜!? 話せたのかっ!?」

 身体を地面に横たえていた炎竜が、金色の目をこちらへと向けている。

『うむ、こんなに長く生きておれば言葉の一つや二つ覚えるわい。そうだの~……。そろそろ、この世界にも、長い生にも、飽きて来た頃だから丁度よかったところじゃ。ホッホッホ……!』
「……炎竜、それ嘘だろ?」


 炎竜が言っていることは、嘘だと直ぐに分かった。

 もし、本当にそうだったら……。あの禁術機が火山に何をしようが無視していた方が世界に変化を起こせるし。生きているのが飽きたなら、別に周囲がどうなろうが気にも留めない筈だ。だから、そんな必死に噴火を止める必要はない。


『ホッホッホ! わっぱが生意気じゃの~。まるで、あやつのようじゃわ! ――ん? いや、まさか……お主』
「……?」


 炎竜が、いきなり神妙な様子で、こちらをじっと見詰めて来た。


『ホッホッホッホッホ!! たまげたわいっ! ここまで生きていた、甲斐があるものよ!!』
「え? な、なんだよ……?」

 何かを確信したのか、炎竜が酷く嬉しそうに大笑いしている。

『お主、本当にすまなかったのぉ~。あの時、ちゃんと素直に自分の気持ちを受け入れておればと……後悔しておった』

 ん? 炎竜は、何を言っているんだ?

「炎竜、さっきから何を――あっ!!?」


 炎竜の身体が、ボロボロと崩れ落ちてきていた。


「炎竜!! レ、レイド……!! 本当に、手立てはないのか!?」
「す、まない……」

 レイドは、俺が炎竜と会話をしている間にも、ずっと回復魔法をかけてくれていて。その顔や身体には、汗がダラダラと垂れ、今にも倒れてしまいそうな様子だった。

 分かってる、分かってるんだ。
 レイドに言っても、どうしようも無いことなんだろう。


『よい、よい、そこまでしてワシを留めようとしてくれて嬉しい限りじゃ。これは、ワシが自分でやった傷だからの。お主らが気に病む必要はない』


 違う。全てが終わった、今だから分かるんだ。

 もし、炎竜のような大きな生き物が闇雲に暴れまわったら、いくら俺やレイドであっても無事では済まなかっただろう。

 それを、炎竜は俺達に限らず。自分が苦しむ原因となった馬鹿でさえも、傷付けないようにずっと気をつけてくれていた。

 そして――炎竜がもし全力を出していたら、ここの一帯どころか、山の下にある国でさえも一瞬で焼失していたかもしれない程の強い力を炎竜から感じる。だから、その傷を負う前に全員を消し炭にすれば良かったのに、炎竜はそれをせずにいたのだ。


 ――炎竜の顔、身体と。どんどん、形が崩れ落ちて。大きかった身体が半分程になっていた。
 きっと、もう長くない。

 周りにいる俺達や、街にいる人間達をも守ろうとしてくれた――優しい心を持つ、炎竜が消えてしまう。俺は、それが絶対に嫌だと思った。



 ――ピピ。


【〖幸運に抱かれし者〗の強い苦痛を察知。

 原因を取り除く為に、MAX幸運∞×10の使用を許可しました】


 何だ?これは……?

 よく分からないけれど、この状況で現れたなら……もしかして――――。


 〖確認〗を押す。


 ――ピピ。

【原因の排除をオート設定にしますか?】


 〖YES〗を押す。


 ――ピピ。

【〖炎竜の使役〗が可能です。申請しますか?】


 〖申請〗を押す。


 ――ピピ。

【〖炎竜の使役〗が承認されました】



 ――ピピ。

【※使役している、炎竜のダメージが致命的です。

 ◆存在の消滅まで残り1分17秒

 原因の排除=MAX幸運∞×10(残り2回)∶ダメージ移行のみ。

 権限を使用しますか?】


 〖YES〗を押す。


 ――――――――……。


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