混じり合い淘汰されるモノ

エスエside ②

　


　♢◆♢


　結局、【海】は人間の救いでも何でもなかった。

　ツインは、適応力が凄まじい。だから、直ぐにこの【地球】にも、ツインは適応した。

　ならば、もう……。静かに過ごす道しか、僕と鈴鹿の2・人・には残されていない。

　李里は勿論。茜が連れて来た両親も、寄生されている。だから、もう人間ではない。

　茜が外出する際は。鈴鹿と、特に僕を監視するよう、全員が指示を受けていた。

　そんなことをしても、意味がない。だって、どうせ僕らには何も出来ない。
　もし、本気でツインの存在を消滅するならば……。それこそ、前の星の変異体とシュリルのように、星ごと滅ぼさなければならないだろう。
　けど、人間の技術力を考えると。即刻、僕らは処理されてしまうだろうし。何より、鈴鹿がそれを望んでいない。

　鈴鹿は、両親と、李里。そして……茜を攻撃することは出来ない。茜が、ツイーグルとなっていても、元は大事な妹だったからか。傷付けたりはしたくない、と考えているのが分・か・る・の・だ・。

　――そう、僕の中には……鈴鹿の感情が流れてきていた。
　同調するにつれ、初めは思考の変化だったのが。徐々に、鈴鹿の感情が分かるようになっていった。

　僕は同調により、鈴鹿に力を流す。その代わりなのか、鈴鹿は、僕にその心の内にある感情を流しているのかもしれない。

　今は常時でも、鈴鹿の感情が流れてきて……。だから、嫌でも伝わってくる。

　鈴鹿は、初めは。現実を見たくないと、目を背けていた。しかし、今は……――壊れる寸前だった。

　自分が愛している人達から、違和感が伝わってきて。日々、ストレスに晒されていたからだろう。

　鈴鹿の心は、ボロボロの穴だらけになっている。

　そして、自身が感じているその違和感を『ただの勘違いだって思いたい』という感情が、僕に強く流れてくるのだ。



　♢◆♢


　新婚旅行だと、鈴鹿と茜が出掛け。しかし、予定より早く帰って来た、その日――。

　鈴鹿は『李里の中身が、全く違うものになっている』と、認めそうになっていた。

　直ぐに、鈴鹿を呼び。僕は首を振った『考えちゃ駄目だよ』って、気持ちを込めて。それにより、鈴鹿の意識をそれから逸らしたのだ。

　僕のする行動に、鈴鹿が戸惑っている内に。茜が来て、李里に何かを言う。

　そして、李里は鈴鹿に――【本物の李里】の真似をした。

　鈴鹿はそれを見て、再び。『李里は、ちゃんと李里なんだ』と思い込んだ。

　けど、きっと……。次、また同じことがあったら――鈴鹿は、壊れてしまうだろう。

　そんな鈴鹿の、悲痛な姿を視界に入れ。『鈴鹿に、ちゃんと寄生出来なくて……ごめんね』といった感情が湧き上がる。

　もし、僕がちゃんと寄生が出来ていたなら。この鈴鹿という存在が消えてしまったのだとしても……。少なくとも、鈴鹿がこんな苦痛を感じることはなかった。

　僕だって……。こんな、苦しい感情を知ることすら無かっただろう。

　鈴鹿に抱きつき、口を開けて笑うツイーグルを見て、表情が歪む。

　あれは、李里の真似をし。打算的に行動している……見せかけだけの偽物だ。
　己のような強力で優秀なツイーグルとなる器人間を、鈴鹿が誕生させられるのを知り。心身共に、健やかに生きていて欲しいだけなのだ。
　そうすれば、たくさんの強力で優秀なツイーグルとなる子を産んでくれる。そして、もしかしたら。自身と相性の良いツインや、器人間となる存在も産まれてくるかもしれない、と。そう考えての、行動だろう。

　だから……。あの可愛い女の子は、もういない。

　――李里が4歳になった頃。言葉を教えていた時、『パパ』という言葉の意味を聞かれた。

　僕が『ママと、パパがいるから、子供が誕生するんだよ』と軽く説明すると。李里は「じゃあ、エスエは私のパパなんだ！」と、喜んだ声を上げ。にぱっと口を開けて笑った。

　直ぐに、鈴鹿が「馬鹿！　変なこと教えないで！　李里、違うよ。こんなヘンテコなのが、李里のパパなわけないでしょ？」と訂正していたが、それに李里は非常に残念そうな顔をしていた。

『パパ』と……そう言われたのが、何故だかとても嬉しくて。鈴鹿に『ヘンテコ』と言われても、気にならないくらいに。ホカホカとした幸せな気持ちが、胸の辺りに込み上がってきたのだ。

　けど、僕にそんな幸せを与えてくれた李里を……守ってあげられなかった。何もしてあげられなかった。
　僕は……ただただ、呆然と――李里が、小さな機械を飲み込まされているその光景を見ていただけだった。
　泣く李里に、一言も声をかけてあげられなかった。
　あれが、李里と話せる最期の時間だったのに……――。

　涙がこぼれ、慌てて下を向く。とはいっても、僕の感情が画面を通し、伝えられるだけだ。だから、こんなのは何の意味もない。なのに、なかなかこの感情が収まらない。

　ツイン仲間が聞いたら、鼻で笑われるだろうけど……。
　僕は、確かに。とても、とても、愛していた。『自分の子』のような李里のことを、とても、愛おしく思っていた――。

　だから、せめて……。鈴鹿だけは、鈴鹿のことだけは……守りたい。

　例え、その守る方法が――鈴鹿の心を保つため、騙すようなことしか出来なくても。ハリボテのまやかしな幸せしか、あげられなくても。鈴鹿には、最後まで鈴鹿のままで狂わないで生きていて欲しいから――。