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スイside ①
しおりを挟む私は、どうしてもツインが欲しかった。
それは、夢の中に【理想の人】が現れるらしいからだ。
私の理想の人は……――お姉ちゃん。私は、お姉ちゃんを愛している。
いつからかは忘れたけど、ずっとずっと前からそういう目で見ていた。
でも、絶対に【報われない恋】だということも……分かっていた。
だから、せめて可愛い妹だと思ってくれるように、女の子らしくした。お姉ちゃんは、隠しているようだけど、可愛いものが大好きだからだ。
そうすると、私を見て。いつも、柔らかな笑顔を向けてくれる。
その笑顔を見るために、キャピキャピとした今時の女子のような装いもしたし。完璧ではなく、少し我が儘な性格で仕方ない子だと思わせる。
だって、そうすれば。お姉ちゃんは、そんな妹を気にかけて『私の誕生日プレゼントはいらないから、茜が欲しいって言ってた物を買ってあげて』と。私がいない時を見計らって、両親にお願いしてもくれるのだ。
結局は、すぐにお母さんが私にばらして、お姉ちゃんが恥ずかしそうな顔をしていたけど……。でも、それが嬉しくて、嬉しくて……お姉ちゃんのことだけを、いつも想っていた――。
♢◆♢
やっと、ツインを買ってもらった夜――。
夢の中のお姉ちゃんは、ずっと私を求めていた。
『茜、愛している。もっと、もっとして……。赤ちゃん、孕ませて――』と言って、目を潤ませて、私にしがみついてくる。
――その夢の中で、私は男になっていた。
目を覚ましてから、漸く気づく。
私は、お姉ちゃんを自分の女として見ていたんだと――お姉ちゃんの身体の奥深くまで、自分を刻み付け。その証も欲しいと思っているのだと……。
けど、そんな事実に気付いても、男になれる訳がないし。それ以前に、血の繋がった姉妹であるのだ。
だから、逆に……絶望感を味わった。
でも、お姉ちゃんの理想相手を知りたくて。我が儘な妹の仮面を被り、聞きに行った。
――けど、その理想相手を聞き。ガチで大爆笑してしまった。ゆるキャラみたいなタヌキとは……本当に笑える。
お姉ちゃんは、気付いていないようだが。実は、お姉ちゃんはゆるキャラが好きみたいなのだ。
テレビでそれらが出ていると、さりげなくチラチラと見て、表情を緩めていた。でも、ゆるキャラが好きなのが恥ずかしいのか、自分自身でそうではないと言い聞かせているようだった。
だから、まさか……。お姉ちゃんが心の奥に隠していた『好き』を引っ張り出され。そんなヘンテコなものが理想相手だなんて、ツインというものは面白いと思った――そして同時に、安堵した。
お姉ちゃんの理想相手が、もし人間だったら……嫉妬で狂いそうだったから――。
♢◆♢
ツインを買ってから、暫くして。おかしな夢になっていった。
――お姉ちゃんが、『茜、食べて……私を、食べて……』と言って、口を開け。唾液の滴る赤い舌をぬるりと、私へと伸ばすのだ。
でも、不思議と恐怖は感じなかった。
それよりも、これが夢で良かったと歓喜する。だって……お姉ちゃんの存在丸ごと、私のものに出来るからだ。夢のお姉ちゃんだって、食べて欲しいと言っている。
現実でするなら、死んでしまうから絶対に出来ない。いくら、食べたいくらいにお姉ちゃんが好きでも。死んでしまったら、二度と会えないのだ。生きて、ずっと私の側にいて欲しい――。
私が黙ったまま、濡れて光っている赤い舌を見つめていると。お姉ちゃんは『茜、早く……』と言い、私の指をぺろぺろと舐めた。
その舌を、指で挟むようにして引っ張り出し。おもいっきり噛みついて、嚥下した。
――バチバチと、頭の中に電流が駆け巡るような感覚がし。パーンと何かを叩き付けた音がした。
それで、目を覚ました。
けど――『何故、何故……!? 寄生したはず。何故、消えてないっ!?』と言った声が、頭の中に響き。
そして、同時に。凄まじい量の知識が、私の脳に定着する。
その後も『俺の知識を、奪ったのか!?』『ふざけるな、劣等種が!』『ただで済むと思うなよ!!』とピーピー何かを言っている声がして、ムカついたから捻り潰すようなイメージを浮かべた。
すると『ギュゥッ……!』という変な音を立てて、その存在が消滅したのを感じ取れた。
私――……いや、俺は笑った。
だって、そうだろ? こんな奇跡があるなんて……と。この世にいるか分からない神に、とても感謝した。ツインを地球に迎えてくれて、ありがとう……ってな。
――ツインは、非常に良い生物だ。体質変化を起こせる。
覚醒状態じゃなく、通常の姿である身体全てを変化させるには、少し時間が掛かるが。数年かければ、男性の体型に変化することだって可能だ。
そうすれば、鈴鹿を俺だけのものに出来るし。逞しい男性になれば、いつか好きになってくれるかもしれない。
でも、その前に――変異体となっているエスエの意思が知りたい。
なるべくは、穏便にことを進めたいから。敵対したくはないと思っているのだ。
それに、確認したいこともある――。
♢◆♢
確認したかったこと、それは……。エスエが俺のことを、寄生を完了したスイだと思っているか、変異体と認識されてしまうかどうかだ。
自分自身ではこの確認が出来ないから、他のツインから確認されないと分からないのだ。
結果。ちゃんと、スイだと思っているようだし。変異体でも無いと認識しているようだった。
ツインの変異体に近付くと、普通のツインとは違う独特な電波を発生しているから、【変異したツイン】だと気付く(繁殖細胞の変化は無いから、繁殖するには問題ない)。だから、同じ家内にいる俺は、それにすぐ気が付いた。
俺から発する電波が、普通のツインと同じで、スイという個体として認識されているのは……。
もしかしたら、俺に寄生したツインを逆に乗っ取った形になっているのかもしれない。
なら、確かに変わりはないだろう。それには、胸を撫で下ろした。
新しい変異体が発生したと気付かれれば、イレギュラーだからと処刑対象になる可能性が高いからだ。
そして、エスエと話をしてみて感じたことは――裏切る確率が高い……ということだった。
エスエは、裏切ってはいけないと自分自身に言い聞かせているようだが。戸惑っているような、悲痛な気持ちを隠しきれていない。
恐らくは、変異体となり。意識の変化が起こったか何かがあったのかもしれない。
元々のエスエは、他のツインよりも残虐性があり、命を軽く見ていた。寄生する生物を、使い捨てのようにコロコロと変えるのは当たり前だったのだ。
変異体となり、変に善意を持ってしまったエスエを面倒だなと思うが……なんとか対策を考えなければ。
じゃないと、裏切り者は勿論だが、それを誘発した人間も同罪として処理されてしまう。だから、数日間。必死に考えた――。
♢◆♢
そして、考えついた対策は……――優秀なツインを繁殖させることだ。
これなら、裏切り者であっても殺されないだろう。人間社会と同じだ。優秀な者は、なるべく多くいて欲しい。そうすれば、将来、リーダー格となるからだ。
今の段階で、エスエや鈴鹿を変に庇えば、俺も追われる身となる。そうなれば結局、鈴鹿は誰かに殺されてしまう。それでは本末転倒だ。
だから、無理やりにでも鈴鹿を孕ませようと決めた。
そう決めた時。やはり、エスエは裏切った。
それで、一番焦ったのが――ルトが鈴鹿を攻撃したことだ。庇いたかったが、目の前でそんなことしたら確実に裏切り行為となる。
だから、上手く逃げてくれてホッとした。ルトには俺が追うと言い。すぐに、鈴鹿の後を追った。
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