1 / 24
CM
しおりを挟む『――さあ、君も今すぐツインしてみないか!?』
鮭を頬張った時。テレビから、耳がタコになるほどに聞き飽きたCMが流れる。
「あ~あ、私もツイン欲し~なぁ。ねぇ、お父さ~ん」
私の向かいにいる妹の茜が、自分の隣に座る父をチラリと見て声を掛けた。
この猫なで声は、きっとおねだりするつもりだろう。
先週。茜は、次の休みにはお父さんを攻略してゲットするぜ! と息巻いていた。今日が、その決戦の日なのだ。
「何言ってんの。いま使ってる従来のケータイで十分でしょ! 機能だって、そんな変わりないじゃないの!」
――しかし、母がそれをズバッと遮る。
「もうっ! お母さんは黙っててよ~! 友達みんな持ってるんだからね! 話が合わなくなって、もしハブられたらどうすんの!?」
「そんな友達は、友達とは呼べません!」
茜と、お母さんはいつものように喧嘩する。これも、見飽きた光景だ。
「鈴鹿を見習いなさい! 欲しいなんて、言ったことないわよ!!」
「はぁ!? お姉ちゃんは、普通じゃないの! 変わってる人と、比較しないでくれる!?」
(……なんだって? 普通じゃないなんて、酷いじゃないか……)
――と思ったが。喋るのが億劫で、ただひたすら食事を口に運ぶ。
CMにある【ツイン】とは、新型のケータイ電話だ。
お母さんの言ったように、使い方は特に変わりはない。
だが、従来のものと大きく変わってることが一つ。
ツインという名の通り――自分だけのパートナー的存在となるのだ。
なんだそれ~? と思うだろう……? そう、当初。世間もそんな反応だった。
けど、面白半分で先頭を切る者は必ずいる。
それで、その概要が明らかになった――。
自分の【好みの人】が夢に現れるようだ。
本当に、ドンピシャらしい。
しかも、相手が自分にぞっこんだという。
そんな馬鹿なことあるか、じゃあ試してやるよ! といった人々が瞬く間に増え。この売れ行きや、未だ人気が衰えないことから考えるに、それが事実だったのだろう――。
「分かった。買いに行くか……。茜、鈴鹿、準備しなさい」
「えっ!? ちょっと、あなた……!」
「やったぁ~!! お父さん、ありがとー!」
「……はぁ(めんどくさ)」
――かなりの時間を待たされ。手に入れたツインを見ても、なんの感動も湧かなかった。
普段からケータイを弄らないというのもあり、ツインを買ったことをすっかり忘れて。その日、眠りに落ちた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説


心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった
あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。
本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……?
例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり……
異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり……
名前で呼んでほしい、と懇願してきたり……
とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。
さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが……
「僕のこと、嫌い……?」
「そいつらの方がいいの……?」
「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」
と、泣き縋られて結局承諾してしまう。
まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。
「────私が魔術師さまをお支えしなければ」
と、グレイスはかなり気負っていた。
────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。
*小説家になろう様にて、先行公開中*

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ヒョロガリ殿下を逞しく育てたのでお暇させていただきます!
冬見 六花
恋愛
突如自分がいる世界が前世で読んだ異世界恋愛小説の中だと気づいたエリシア。婚約者である王太子殿下と自分が死ぬ運命から逃れるため、ガリガリに痩せ細っている殿下に「逞しい体になるため鍛えてほしい」とお願いし、異世界から来る筋肉好きヒロインを迎える準備をして自分はお暇させてもらおうとするのだが……――――もちろん逃げられるわけがなかったお話。
【無自覚ヤンデレ煽りなヒロイン ✖️ ヒロインのためだけに体を鍛えたヒロイン絶対マンの腹黒ヒーロー】
ゆるゆるな世界設定です。


彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した
Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる