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清水 あかり ⑳
しおりを挟む――自分の席に着く。
チラチラと伺い見られ、近くにいる人とヒソヒソと話す周囲の者達。
なのに、現状。私に近付いて来る人は1人もいない。
しかし、一歩学校の外に出たら記者に張り付かれる。
それは――校門には、カメラを持っている記者がたくさんいるからだ。まぁ、その中には野次馬もいるだろうが……。
「うわぁ。あれ、すごいね……」
「あぁ、美智瑠。おはよう」
窓際の一番後ろにある私の席に、美智瑠が来る。
とはいっても、その前が美智瑠の席だから、来るのは当たり前だ。
「あかりは、転校しようとか思わないの? 注目の的にされて嫌じゃない……?」
――『注目の的』とは、いま世間を賑わせている【怪奇事件!! バスから消えた7人の高校生。だが、3時間後。再びバスへと戻って来た! しかし、その7人のうち、5人が謎の死を迎えていたのだ!! 一体、この3時間。どこへ行き、何があったのだろうか!?】といった記事が出回っているからだろう。
今の時代。いくら隠してはいても、誰がそうなっていたのかはバレてしまう。
勿論、直ぐに。私がバスで消え、生き残った人物だとバレてしまった。それで、こんなことになっている。
しかし、美智瑠はそこまで注目されていない。それが何故かは――。
私も含めて、亡くなった皆が……未来をいじめていたのも知られることになったからだ。
一部では、【呪い】だと噂されている。
だから、特にオカルト記者は喜び。それとは対照に、クラスメイトは私に対し、恐怖心を抱いている。
それは、クラスメイト達も。未来のいじめに、知らぬ存ぜぬを貫いていたからだ。私と関われば、呪いの矛先が自分達にも向くと思っているのだろう。
バスで、私の隣に座っていた美智瑠が共にいなくなったのが、いい例にされているのかもしれない。
未来がいない間に転校してきた美智瑠は、一切いじめに関与していないからだ。
――ただ、唯一よかったと思えたのは……。あのように亡くなった5人が、バスに戻された時。悲惨な姿ではなかったことだ。
よくテレビとかにある恐怖体験は、魂だけが異世界に移動するというものが多いが。
あの者達のいう【箱庭】は、私達の実体ごと移動するものだった。
だから、もしあそこで死に、箱庭が崩壊したなら……。箱庭から、遥か遠くの地球には戻ることは出来ず。魂と身体の両方が、ずっと何処かをさ迷うことになるのだ。
私は、地球へ戻る途中に意識を落としたので、後のことは知らないが。恐らく、ストーラは私と美智瑠を送った後。再び、皆の遺体も送ってくれたということだろう。
魂のない遺体であっても、異界をさ迷うことになるから、未来との約束を違えることになると思ったのかもしれない。
そして、その5人全員が……――傷一つなく、眠るように亡くなっていた。
あの者達が話していた時に、各々の能力を聞き齧った限り。エダイの持つ力で、上手く修復してくれたのだと思うが……。それを行った本人達でないので、実際のところはよく分からない。
心配そうな顔をしている美智瑠に対し。私は首を振り、言う――。
「どこへ行っても、変わらないよ。きっと……」
「……そっか、全てのことから逃げずに、向き合うんだね」
――美智瑠が、私に笑いかけた。
美智瑠は、あの世界であったことの全てを知っている。
それは恐らく、元は海の身体だったからか……。あの世界にいた海が見たものの記憶を、まるごと共有していたらしいのだ。
しかし、美智瑠は取り乱すことなく。それを受け入れた。
だから、美智瑠の言う『全てのことから逃げずに、向き合う』というのは、既に自身がしたことだ。
そんな事実を受け入れるのは、とても辛かったはず。美智瑠は、とても強い人間だ。
本人は、そうは思っていないだろうが……。私には、美智瑠は作り物なんかじゃなく、ちゃんとした心を持っている人間にしか見えない。
エダイは、私と対峙した時。『貴女と同じく。生きているものと変わらない』と、自分が作ったマネキンは、私と同じで、生きていると言っていた。
だから、美智瑠を生み出したのがエダイならば――それは魂ある人間と同じになるのだろう。
――そして私は、強い心を持つ美智瑠をとても尊敬している。
だからか自然と、『鴇 美智瑠』を。適当につけた『ミッチー』というあだ名ではなく、ちゃんと下の名前である『美智瑠』と呼ぶようになっていた。
美智瑠は、特に気にした様子はなかったので。私とは違い、そういうものはどうでもいいと思っているようだ。
まぁ……。こんな風に、人に対し線引きをしたりするのは、失礼だと分かっているが。私は気を許さないと、なかなか下の名前で呼べないのだ。
「あ、そういえば。ケバい化粧と、変な喋り方とか止めたんだ? 勉強も真面目にやってるし。むしろ、がり勉になったね?」
「あぁ~、あれは……――黒歴史だよ、うん。勉強は、かなりサボっちゃってたからさ。なんとか巻き返さないと……ヤバいんだ」
「確かに、あかりの成績ヤバい感じだもんねぇ。かなり勉強してるはずなのに、この前のテストなんて――」
「ぐはっ! 言わないで~!!」
「ほらほら、逃げずに向き合うんでしょ~?」
「これは違う!」
あははは!! と笑う美智瑠を見ていると――あの箱庭であったことが、まるで遠い昔にあった出来事のように感じる。
しかし、周囲から向けられる視線によって、そうではないといつも再確認する。
でも、それでいい。それによって、自分がやるべきことを、ちゃんと自覚出来るから。
自分がやるべきこと。それは――……『生まれ変わった、未来と海に最大の幸せを与えて下さい』と日頃から、強く願うことだ。
この願いは、私が一生を終えるまで。毎日、願い続けると心に決めている。
仮に、そうすることで寿命が削られようが構わない。
だって、次に生まれ変わった未来と海には、誰よりも幸せになって欲しいから……――。
「――あかり。私達も、幸せにならなきゃね」
「……えっ?」
ドキリとする。まるで、考えを読まれたのかと思うほどのタイミング。
美智瑠は、真っ直ぐな目で私を見つめていた。
その目に映る私は、なんて情けない顔をしているのだろう。
これは、考えを読まれたわけではなく。ただ単に、私が分かりやすいだけだ。
「じゃないと、絶対に許さないよ――……って、あの人なら言うだろうね」
(ああ、確かに……。未来なら、きっとそう言う)
なんだか、本当に未来からそのように言われたようで――『自分の幸せを捨てるな』って、叱られたような気がした。
「うん……。未来を怒らせないように、幸せだったな~って人生にしないと。未来、怒るとけっこう怖いからさ……」
「はははっ! 普段優しい人ほど、怒ると怖いって言うしねぇ~」
「あははっ! そう、そう! その言葉、未来の為にあるようなものだよ~!」
こんな風に友人と笑い合える日々を、私が送っていいのかと。まだ、不安に思ったり、申し訳なくなったりもする。
けど、『悔いのないように生きていきたい』……そう、初めて思えた。
いつか空に還った時……――未来に、笑顔で迎えてもらえるように。
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