54 / 56
清水 あかり ⑱
しおりを挟むパチンッ! ストーラが指を鳴らす。
すると、ずっと声を出せないようにしていたのだろう。一斉に、各々が声を上げた――。
「ぁ"あ"あ"!! 未来ぢゃん"、未来ぢゃん"!! ごめんな"ざい"、ごめ"ん"な"ざい"、未来ぢゃん"っ!!」
「ご、ごめん"……ごめ"ん"……青城ざん"、私が、全で、私のせい"で……」
「青城、俺が悪がっだ……あ"んな"提案な"んがじだぜい"で……ごめ"ん"、ごめ"ん"、ごめ"ん"」
「俺は、大じだごど、じてな"いな"んで、思っでだ……ぞんな"はずな"いの"に"……青城、悪がっだ、悪がっだ……」
「…………」
白川 尊、竹内 凜々花、石田 孝、田中 兼次が。
未来の前で、何度も何度も懺悔をする。
しかし、賀川 剛は――下を向いて、動かない。
賀川だけは身体を自由にしてもらえてないのかと思ったが、身体を震わせているからそういうわけではないようだ。
『うん……。皆がしたこと、絶対に許さないよ』
――未来は、全員にそう言う。
皆は、ピタリと言葉を出すのを止め。すすり泣き始めた。
『――……だから、ちゃんと生まれ直そう。こんな罪を抱えたままじゃ、駄目だから』
(ああ、やっぱり……。未来は、許すんだ。あんなことをした私達を――)
それは、どう見ても『許し』だった。
皆も、私と同じことを感じたのだろう。すすり泣きが、哀哭に変わり。見るも無惨な姿であっても、非常に後悔していることが、その全身から伝わってくる。
未来は、一瞬だけ困ったような表情を浮かべたが。表情を引き締め、それ以上の言葉をかけることはしなかった。
程なくして、皆が落ち着き。未来は、静かに手を差し伸べた。
すると、皆の身体からスゥーーと魂が抜き出てきて……。それからは、未来の近くにふわふわと浮かんでいる。
けど、賀川だけは――緑色の醜い身体に留まったままだった。
『……なにか、言いたいことがあるの?』
賀川は、抵抗したのだ。未来の手を取るのを――。
「お"、俺に"……未来の"手を"取る"資格はな"い"。俺が、未来を"……」
『だからこそ、貴方は必ず生まれ直して。逃げようとしないでよ、卑怯者』
賀川は、ビクリと身体を揺らした後。嗚咽を漏らしていた。
口を震わせながらも、何かを言おうとしているように見えたが。結局、何も言わず――賀川の身体から、スゥ……と魂が抜き出た。
そして、申し訳なさそうな感じに、ふよふよと先にいた皆と合流している。
そのぼんやりと輝く魂たちを見て、思う。
未来は、私に『生きて』と言ってくれた。でも……。
本当に、私だけこちらにいていいのかと。あちらに、行くべきではないのかと――。
そう、思ってしまうのだ。
ミンから、私は皆に巻き込まれたようなものだと言われたけど、そうは思えなかった。
だって、確かに私は……――『後悔すればいい』『痛い目に合えばいい』と、未来の不幸を願ったのだから。
「未来、私――」
『何も言わなくていいよ。あかりちゃん、皆から私を庇ってくれてたでしょ? あの時は、ありがとう。なかなか会えなくてお礼言えなかったから、やっと言えて良かった! だから、例え……――その前に何かをあかりちゃんがしていても、気にしないよ』
――未来は、きっと分かっている。私が、自分の持つ能力を使い『何か』をしたことを。
(それでも、許してくれるの……? どうして、そんなに……強いの?)
理解出来ない。普通は、自分を苦しめた奴らを許すなんて無理だ。私だったら、苦しめて、苦しめて……死後も苦しめ続けてやる。
だから、【神に近しい者達】が行うことも当たり前なことだし、それを否定することは出来ない。
何故、そこまで強くいられるのだろうか……?
――そう思った時。ふと、神になれる存在には共通点があることに気づく。
(……ああ、そうだったのか。だから、未来は【神】になれるんだ)
神になれる者は、常軌を逸した【強み】を持っていた。
非常に優れた【頭脳】。非常に優れた【身体能力】。または、非常に優れた【邪悪な思考】など……。
それらは、二人といないほどの強いものだ。
なら、未来の持つ強みは――【純真な心】なのかもしれない。
世界の真理を覗いたような気持ちになり。ただ呆然と、未来を視界に入れていると――。
未来は、可愛らしくニコリと笑った。
『それにね。あかりちゃんがいたから、海と話すことが出来たんだよ』
「……未来。色々、ありがとう……」
そんな言葉しか、返せなかった。未来は、私の謝罪なんかを求めていないと分かったから――。
未来が、急にパッとしゃがみ込み。腕を広げた。
『海、おいで~!』
『うんっ!』
未来のすることを、静かに見守っていた海は。漸く未来に呼ばれ、嬉しそうにその腕に飛び込んだ。
海は、皆とは違い。猫の形のままだ。それは、霊力が強いからこそ、そのように出来る。勿論、未来もだ。
未来の、表情を見ていても――恨み辛みは、一切感じられない。
(本当に、未来は……凄い――)
「あかりちゃん、もう大丈夫だよ。よろしくお願いします」
「ぁ、ああ……! うん……」
海を優しく抱き抱えた未来は、準備オッケーだというように、私に視線を送ってきた。
――よく、人間と動物では逝く道や辿りつく場所が違うと伝えられているが、そういうわけではない。
冥界の扉に入ってからも、同じ一つの場所にいる。ただ、生きている時にもそうだが。人間と動物で区切っている部分があるだろう。例えば、仕方ないにせよ。人間は、牛や豚などを食べたりもする。
だからか自然と、お互いの空間を区切るようにしているのだ。南側に人間、北側に動物というように……。
私は……。その真っ直ぐな視線を向けてくる未来に、なんだか申し訳なく思い。モジモジと、意味もなく身体を動かす。
そう思うのは……――。
「ん……と、未来。その……重ねて悪いんだけど。扉まで『すっ飛ばす』のって、言葉のまんまなんだ」
『……す、凄いの?』
「……うん」
そう。凄い勢いで、すっ飛ばす。ジェットコースターなんて、可愛いものだ。
『だっ、大丈夫! 海も一緒だから!! 海! ちゃんとしがみついていてっ! あっ、皆も!』
未来は、海を離さないようにかギュゥッと強く抱きしめ。霊魂になっている皆も、戸惑ったような動作をした後。恐る恐るといった感じに、未来の背中辺りにピタッとしがみついた。
私が対象を定めて送るから、置いてけぼりにはならないのだが……。そんなに一生懸命な姿を見たら、何も言えない。
「じゃ、じゃあ……いくよ?」
『う、うん……! ああっ、ちょっと、待って!!』
未来は、スーハスーハと深呼吸をしている。
(そうだった。未来って、確か……アトラクション系が、凄い駄目だったんだよね)
『よ、よし……! いいよ!』
その覚悟を決めた未来の顔を見てから、私は頷き――未来達をすっ飛ばした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。
焔鬼
はじめアキラ
ホラー
「昨日の夜、行方不明になった子もそうだったのかなあ。どっかの防空壕とか、そういう場所に入って出られなくなった、とかだったら笑えないよね」
焔ヶ町。そこは、焔鬼様、という鬼の神様が守るとされる小さな町だった。
ある夏、その町で一人の女子中学生・古鷹未散が失踪する。夜中にこっそり家の窓から抜け出していなくなったというのだ。
家出か何かだろう、と同じ中学校に通っていた衣笠梨華は、友人の五十鈴マイとともにタカをくくっていた。たとえ、その失踪の状況に不自然な点が数多くあったとしても。
しかし、その古鷹未散は、黒焦げの死体となって発見されることになる。
幼い頃から焔ヶ町に住んでいるマイは、「焔鬼様の仕業では」と怯え始めた。友人を安心させるために、梨華は独自に調査を開始するが。
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる