その罪+罰=身をもって贖う

未知 道

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清水 あかり ⑱

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 パチンッ! ストーラが指を鳴らす。
 すると、ずっと声を出せないようにしていたのだろう。一斉に、各々が声を上げた――。

「ぁ"あ"あ"!! 未来ぢゃん"、未来ぢゃん"!! ごめんな"ざい"、ごめ"ん"な"ざい"、未来ぢゃん"っ!!」
「ご、ごめん"……ごめ"ん"……青城ざん"、私が、全で、私のせい"で……」
「青城、俺が悪がっだ……あ"んな"提案な"んがじだぜい"で……ごめ"ん"、ごめ"ん"、ごめ"ん"」
「俺は、大じだごど、じてな"いな"んで、思っでだ……ぞんな"はずな"いの"に"……青城、悪がっだ、悪がっだ……」
「…………」

 白川 尊、竹内 凜々花、石田 孝、田中 兼次が。
 未来の前で、何度も何度も懺悔をする。

 しかし、賀川 剛は――下を向いて、動かない。
 賀川だけは身体を自由にしてもらえてないのかと思ったが、身体を震わせているからそういうわけではないようだ。

『うん……。皆がしたこと、絶対に許さないよ』

 ――未来は、全員にそう言う。

 皆は、ピタリと言葉を出すのを止め。すすり泣き始めた。

『――……だから、ちゃんと生まれ直そう。こんな罪を抱えたままじゃ、駄目だから』

(ああ、やっぱり……。未来は、許すんだ。あんなことをした私達を――)

 それは、どう見ても『許し』だった。

 皆も、私と同じことを感じたのだろう。すすり泣きが、哀哭に変わり。見るも無惨な姿であっても、非常に後悔していることが、その全身から伝わってくる。

 未来は、一瞬だけ困ったような表情を浮かべたが。表情を引き締め、それ以上の言葉をかけることはしなかった。
 程なくして、皆が落ち着き。未来は、静かに手を差し伸べた。

 すると、皆の身体からスゥーーと魂が抜き出てきて……。それからは、未来の近くにふわふわと浮かんでいる。

 けど、賀川だけは――緑色の醜い身体に留まったままだった。

『……なにか、言いたいことがあるの?』

 賀川は、抵抗したのだ。未来の手を取るのを――。

「お"、俺に"……未来の"手を"取る"資格はな"い"。俺が、未来を"……」
『だからこそ、貴方は必ず生まれ直して。逃げようとしないでよ、卑怯者』

 賀川は、ビクリと身体を揺らした後。嗚咽を漏らしていた。
 口を震わせながらも、何かを言おうとしているように見えたが。結局、何も言わず――賀川の身体から、スゥ……と魂が抜き出た。
 そして、申し訳なさそうな感じに、ふよふよと先にいた皆と合流している。

 そのぼんやりと輝く魂たちを見て、思う。
 未来は、私に『生きて』と言ってくれた。でも……。
 本当に、私だけこちらにいていいのかと。あちらに、行くべきではないのかと――。
 そう、思ってしまうのだ。

 ミンから、私は皆に巻き込まれたようなものだと言われたけど、そうは思えなかった。
 だって、確かに私は……――『後悔すればいい』『痛い目に合えばいい』と、未来の不幸を願ったのだから。

「未来、私――」
『何も言わなくていいよ。あかりちゃん、皆から私を庇ってくれてたでしょ? あの時は、ありがとう。なかなか会えなくてお礼言えなかったから、やっと言えて良かった! だから、例え……――その前にあかりちゃんがしていても、気にしないよ』

 ――未来は、きっと分かっている。私が、自分の持つ能力を使い『何か』をしたことを。

(それでも、許してくれるの……? どうして、そんなに……強いの?)

 理解出来ない。普通は、自分を苦しめた奴らを許すなんて無理だ。私だったら、苦しめて、苦しめて……死後も苦しめ続けてやる。
 だから、【神に近しい者達】が行うことも当たり前なことだし、それを否定することは出来ない。

 何故、そこまで強くいられるのだろうか……?

 ――そう思った時。ふと、神になれる存在にはがあることに気づく。

(……ああ、そうだったのか。だから、未来は【神】になれるんだ)

 神になれる者は、常軌を逸した【強み】を持っていた。

 非常に優れた【頭脳】。非常に優れた【身体能力】。または、非常に優れた【邪悪な思考】など……。
 それらは、二人といないほどの強いものだ。

 なら、未来の持つ強みは――【純真な心】なのかもしれない。

 世界の真理を覗いたような気持ちになり。ただ呆然と、未来を視界に入れていると――。
 未来は、可愛らしくニコリと笑った。

『それにね。あかりちゃんがいたから、海と話すことが出来たんだよ』
「……未来。色々、ありがとう……」

 そんな言葉しか、返せなかった。未来は、私の謝罪なんかを求めていないと分かったから――。

 未来が、急にパッとしゃがみ込み。腕を広げた。

『海、おいで~!』
『うんっ!』

 未来のすることを、静かに見守っていた海は。漸く未来に呼ばれ、嬉しそうにその腕に飛び込んだ。

 海は、皆とは違い。猫の形のままだ。それは、霊力が強いからこそ、そのように出来る。勿論、未来もだ。

 未来の、表情を見ていても――恨み辛みは、一切感じられない。

(本当に、未来は……凄い――)


「あかりちゃん、もう大丈夫だよ。よろしくお願いします」
「ぁ、ああ……! うん……」

 海を優しく抱き抱えた未来は、準備オッケーだというように、私に視線を送ってきた。

 ――よく、人間と動物では逝く道や辿りつく場所が違うと伝えられているが、そういうわけではない。
 冥界の扉に入ってからも、同じ一つの場所にいる。ただ、生きている時にもそうだが。人間と動物で区切っている部分があるだろう。例えば、仕方ないにせよ。人間は、牛や豚などを食べたりもする。
 だからか自然と、お互いの空間を区切るようにしているのだ。南側に人間、北側に動物というように……。


 私は……。その真っ直ぐな視線を向けてくる未来に、なんだか申し訳なく思い。モジモジと、意味もなく身体を動かす。
 そう思うのは……――。

「ん……と、未来。その……重ねて悪いんだけど。扉まで『すっ飛ばす』のって、言葉のまんまなんだ」
『……す、凄いの?』
「……うん」

 そう。凄い勢いで、すっ飛ばす。ジェットコースターなんて、可愛いものだ。

『だっ、大丈夫! 海も一緒だから!! 海! ちゃんとしがみついていてっ! あっ、皆も!』

 未来は、海を離さないようにかギュゥッと強く抱きしめ。霊魂になっている皆も、戸惑ったような動作をした後。恐る恐るといった感じに、未来の背中辺りにピタッとしがみついた。
 私が対象を定めて送るから、置いてけぼりにはならないのだが……。そんなに一生懸命な姿を見たら、何も言えない。

「じゃ、じゃあ……いくよ?」
『う、うん……! ああっ、ちょっと、待って!!』

 未来は、スーハスーハと深呼吸をしている。

(そうだった。未来って、確か……アトラクション系が、凄い駄目だったんだよね)


『よ、よし……! いいよ!』

 その覚悟を決めた未来の顔を見てから、私は頷き――未来達をすっ飛ばした。


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