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清水 あかり ⑰
しおりを挟む『なら、私は絶対に……あなた達の【我が君】という存在にはなれない。さっき、あかりちゃんに。私の分までちゃんと生きてって、約束したの。約束を守れないような人は、尊敬出来ないでしょう?』
――けど、未来は……一緒にした『約束』が大事だと言う。
それは、私を危険な存在としてではなく。他と変わらない『ひとりの人間』として見てくれていると感じて、心が震えるほどに嬉しい。
【ストーラ、貴方の負けよ。そもそも、この純粋さに惚れ込んだのは私達。ここで、もし……清水 あかりを見捨てる選択をしたなら、私達の求める神ではないでしょう?】
『…………はィ、降参デス……』
この世界を作り、復讐を行っていた神に近しい者達全員が、未来に視線を送る。最後の一瞬までを見守るように――。
未来は、海を抱きしめ、頭を優しく撫でた。
海は、とても嬉しそうに目を細めて喉を鳴らしている。
――暫くそうした後、未来はクラスメイト達に視線を向ける。
『あかりちゃん。私達に、道を示してくれる?』
ああ、ついに……この時が来た――。
(未来、ごめん。道を示すことは……出来ないんだ)
『え? どういうこと……?』
(私の僧侶としての力は……。亡くなった人が、自分の死を受け入れるために歩いていく道を――すっ飛ばしてしまうのよ)
『すっ飛ばす……。直接、あの世とかに行っちゃうってこと?』
(まぁ、近いけど。少しだけ違う。あの世に入るための……要は、冥界の扉の前にってこと。一方通行だから、戻ることは出来なくて。それで、自覚がなくて扉の前で戸惑って動けないでいると。いつかは、道が崩れてなくなってしまうのよ。それにより、再び現世に落とされて、舞い戻ってくるはめになる)
そう、私の僧侶としての力は……使い物にならない。
【亡くなった人が、自分の死を受け入れるために歩いていく道】というのは、実はとても大事なことなのだ。
その道には、自分の過去を見つめ直せる力が発せられていて――善行、悪行をも自覚していくことで、人生を振り返りながら【最後の、魂の成長】を促して、己の死を受け入れていくものだった。
それをしないということは、己の死を受け入れる為には、自身で成長を促さなければならない。
それは、まず不可能だ。
他の力の介入がない状態で、成長を促すのは。身体、心の成長までもが止まってしまった死者には出来ない。
『ちゃんと皆を自覚させるよ。まぁ、私に出来るかは、分からないけどね……』
『わたクシ達の、【我が君】ナラバ余裕デスヨ☆』
【ええ。神としての資質が充分に備わっているから、問題ないわよ】
ストーラはともかく、ミンの言葉には説得力がある。
だから、私も……――未来なら大丈夫だと思えた。
(未来、その前に……。一度、私の身体から未来を出さないといけないんだ。ごめん、ちょっと痛いと思う――)
『……? ひっ、きゃぁ……っ!?』
バチバチバッチンッ!! 身体中、特に身体の内側に強い電気が発生して、私の中にいた未来を弾き出した――。
私の陰陽師の力――『どんな強力な存在のものにも近付かれないように弾いたり、憑依をされたりしても弾き出せるほど強力』にある憑依は、【神降ろし】によって身体に降ろした【神】も同じく、私を憑依したことに当たるのだ。我ながら、自分で呼んでおいて酷いとは思うが……。
『あ、あかりちゃん! ちょっとじゃないよ~! 結構、痛かった!!』
「う、うん……。【神降ろし】したの初めてで。だから、弾き出したのも初めてだったから……こんなに痛いと思わなかった。ごめん」
いつもの倍以上の痛みだった。一瞬、意識が飛んだ。
未来は、私の身体で海を抱えていたから当然のこと。海も一緒に弾かれてしまったようで……。一応、意識はあるようだが、地面でぷるぷるとしている。もう、本当に申し訳ない……。
痛みに呻く私達に、『ちょット、すみマセン……』と声がかけられる。
その声の方には、ストーラが困ったように立っていた。
『んン~……。イま話シかけテ、スみませンガ……。ソろソろ、こイツらヲお渡しシマス』
ストーラは、糸で括られているクラスメイト達を、未来の近くに転がした。
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