53 / 56
清水 あかり ⑰
しおりを挟む『なら、私は絶対に……あなた達の【我が君】という存在にはなれない。さっき、あかりちゃんに。私の分までちゃんと生きてって、約束したの。約束を守れないような人は、尊敬出来ないでしょう?』
――けど、未来は……一緒にした『約束』が大事だと言う。
それは、私を危険な存在としてではなく。他と変わらない『ひとりの人間』として見てくれていると感じて、心が震えるほどに嬉しい。
【ストーラ、貴方の負けよ。そもそも、この純粋さに惚れ込んだのは私達。ここで、もし……清水 あかりを見捨てる選択をしたなら、私達の求める神ではないでしょう?】
『…………はィ、降参デス……』
この世界を作り、復讐を行っていた神に近しい者達全員が、未来に視線を送る。最後の一瞬までを見守るように――。
未来は、海を抱きしめ、頭を優しく撫でた。
海は、とても嬉しそうに目を細めて喉を鳴らしている。
――暫くそうした後、未来はクラスメイト達に視線を向ける。
『あかりちゃん。私達に、道を示してくれる?』
ああ、ついに……この時が来た――。
(未来、ごめん。道を示すことは……出来ないんだ)
『え? どういうこと……?』
(私の僧侶としての力は……。亡くなった人が、自分の死を受け入れるために歩いていく道を――すっ飛ばしてしまうのよ)
『すっ飛ばす……。直接、あの世とかに行っちゃうってこと?』
(まぁ、近いけど。少しだけ違う。あの世に入るための……要は、冥界の扉の前にってこと。一方通行だから、戻ることは出来なくて。それで、自覚がなくて扉の前で戸惑って動けないでいると。いつかは、道が崩れてなくなってしまうのよ。それにより、再び現世に落とされて、舞い戻ってくるはめになる)
そう、私の僧侶としての力は……使い物にならない。
【亡くなった人が、自分の死を受け入れるために歩いていく道】というのは、実はとても大事なことなのだ。
その道には、自分の過去を見つめ直せる力が発せられていて――善行、悪行をも自覚していくことで、人生を振り返りながら【最後の、魂の成長】を促して、己の死を受け入れていくものだった。
それをしないということは、己の死を受け入れる為には、自身で成長を促さなければならない。
それは、まず不可能だ。
他の力の介入がない状態で、成長を促すのは。身体、心の成長までもが止まってしまった死者には出来ない。
『ちゃんと皆を自覚させるよ。まぁ、私に出来るかは、分からないけどね……』
『わたクシ達の、【我が君】ナラバ余裕デスヨ☆』
【ええ。神としての資質が充分に備わっているから、問題ないわよ】
ストーラはともかく、ミンの言葉には説得力がある。
だから、私も……――未来なら大丈夫だと思えた。
(未来、その前に……。一度、私の身体から未来を出さないといけないんだ。ごめん、ちょっと痛いと思う――)
『……? ひっ、きゃぁ……っ!?』
バチバチバッチンッ!! 身体中、特に身体の内側に強い電気が発生して、私の中にいた未来を弾き出した――。
私の陰陽師の力――『どんな強力な存在のものにも近付かれないように弾いたり、憑依をされたりしても弾き出せるほど強力』にある憑依は、【神降ろし】によって身体に降ろした【神】も同じく、私を憑依したことに当たるのだ。我ながら、自分で呼んでおいて酷いとは思うが……。
『あ、あかりちゃん! ちょっとじゃないよ~! 結構、痛かった!!』
「う、うん……。【神降ろし】したの初めてで。だから、弾き出したのも初めてだったから……こんなに痛いと思わなかった。ごめん」
いつもの倍以上の痛みだった。一瞬、意識が飛んだ。
未来は、私の身体で海を抱えていたから当然のこと。海も一緒に弾かれてしまったようで……。一応、意識はあるようだが、地面でぷるぷるとしている。もう、本当に申し訳ない……。
痛みに呻く私達に、『ちょット、すみマセン……』と声がかけられる。
その声の方には、ストーラが困ったように立っていた。
『んン~……。イま話シかけテ、スみませンガ……。ソろソろ、こイツらヲお渡しシマス』
ストーラは、糸で括られているクラスメイト達を、未来の近くに転がした。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
『霧原村』~少女達の遊戯が幽から土地に纏わる怪異を起こす~転校生渉の怪異事変~
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります。ライトノベルズ風のホラー物語です》
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。
奇怪未解世界
五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。
学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。
奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。
その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。
闇に蠢く
野村勇輔(ノムラユーリ)
ホラー
関わると行方不明になると噂される喪服の女(少女)に関わってしまった相原奈央と相原響紀。
響紀は女の手にかかり、命を落とす。
さらに奈央も狙われて……
イラスト:ミコトカエ(@takoharamint)様
※無断転載等不可

ファムファタールの函庭
石田空
ホラー
都市伝説「ファムファタールの函庭」。最近ネットでなにかと噂になっている館の噂だ。
男性七人に女性がひとり。全員に指令書が配られ、書かれた指令をクリアしないと出られないという。
そして重要なのは、女性の心を勝ち取らないと、どの指令もクリアできないということ。
そんな都市伝説を右から左に受け流していた今時女子高生の美羽は、彼氏の翔太と一緒に噂のファムファタールの函庭に閉じ込められた挙げ句、見せしめに翔太を殺されてしまう。
残された六人の見知らぬ男性と一緒に閉じ込められた美羽に課せられた指令は──ゲームの主催者からの刺客を探し出すこと。
誰が味方か。誰が敵か。
逃げ出すことは不可能、七日間以内に指令をクリアしなくては死亡。
美羽はファムファタールとなってゲームをコントロールできるのか、はたまた誰かに利用されてしまうのか。
ゲームスタート。
*サイトより転載になります。
*各種残酷描写、反社会描写があります。それらを増長推奨する意図は一切ございませんので、自己責任でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる