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清水 あかり ⑦
しおりを挟む手に持ったもののお陰で、バケットを回避することが出来た。
『てめぇ……――随分、汚ねぇことしてくれんじゃねぇか……』
『ぷぎぃ……っ!』
『あぁっ! らいらーい!!』
『いたそぉ~』
『きちく~』
――私は、ショベルカーに向かう前。ライオンのぬいぐるみを掴んでいた。
『らいらーい』という名のぬいぐるみは、身体に強い電気が流されたことで、白目を剥いてピクピクしている。
(私も、そう思う。けど、こうでもしないと……逃げられない)
雰囲気から察するに、この者達は仲間意識が強いと思った。だから、こうすれば攻撃の手を緩めるかもしれないと考えたのだ。
仮に、私と一緒に攻撃したとて、このぬいぐるみが死ぬことはないのに、何だか不思議に感じてしまうが――。
『あラ、あラ……。こチラは、やハリ手こズリますヨネ~』
(ぅわぁ……。なに、あれ……)
私が通ろうとした先の道から。赤いシルクハットを頭に被った、顔まで全身白タイツの男が、スノーボードに乗ってこちらに近付いて来ている。
『ふフふ~! 【トク】さんニ、とテも良いモノをプレゼント致死マス☆』
『あん? プレゼントだぁ? つまらねぇもんだったら、投げつけ返すぞ?』
『ご安心ヲ、めチャくチャ、使えルものデース!』
パチンッ! 白タイツは、指を鳴らした――。
すると、何か緑色のものが現れる。
「えっ!? う、嘘……」
一言でいうなら、緑色の化け物。
身体中からスライム状のような汁をボタボタと垂らしながら、今にも破れそうなトップスからぶよぶよとした腹をはみ出し。フーフーと荒い息をするカエルのような姿。
しかし、その顔は……――。
「賀川……?」
だいぶ引き伸びてはいるが、その面影があった。
『はっ、成る程な。人間であるなら、あの女の能力も意味がねぇからな』
『そォーデ~ス☆どウゾ、お好キにお使い下さイナ!』
2人の会話から『人間』といった単語が出た。ならば、あれはやはり賀川なのだろう。
白タイツは、監督――トクといった男に、ゲームパッドのような物を投げ渡した。
(……ッ! 『お使い下さい』ってことは……。アレは恐らく、賀川を好きに操作する為のものかもしれない)
賀川の登場に、唖然とし。トクに渡るのをただ見送ってしまった。
『ァ、つイデに。これモ、お渡し致死マスネ』
『ん~?』
白タイツは、よくクイズで使うボタンに似た物も投げた。
宙を移動するボタンを、らいらーいを上に振り回して弾き。床に落ちたところを素早く掴む。
――私の行動に、白タイツがポカンと驚いている隙を狙い。その横を通ることが出来た。
『あァッ! なンテ、残忍で小癪な人間でショー!! らいらーいガ、哀レでなりマセンッ!』
『おい、馬鹿か! なに逃がしてんだっ! お前、挟み撃ちするために来たんじゃねぇのか!?』
『ェ? そンナつもりデハ、ありまセンでシタヨ?』
『この、馬鹿ド天然が!! ホント、能力しか誇れるもんねぇよな!!』
『ェエッ!? 【トク】さん、酷すぎマス~~(泣)』
2人がギャーギャーと言い合っているのを背後に。
私は、少しでもあの者達から離れる為。息を切らしながらも、絶えず足を動かした。
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