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清水 あかり ⑥
しおりを挟むテチテチテチ~! と私を追いかけてくるぬいぐるみ達。
細心の注意を払って行動していたけれど。やはり、地図もない相手のフィールド内では、見つからない方がおかしい。
少し前に、動物のぬいぐるみ達に見つかってしまい、追いかけっこが始まったのだ。
「いっ、痛っ……!」
――バチバチバチッ!! 身体の内側から、外に向けて電気が流れ出る。
『いたいぃいーー!!』
『ぅぴゃっ!?』
『ちかづけないよぉ~!』
しかし、今いるぬいぐるみ達は、一定の距離からこちらに近付けないでいる。
それもそのはず。私に直接触れたウサギのぬいぐるみは、後ろの方でピクピクと伏せたまま行動を停止しているからだ。
(けど、私も……本当、洒落にならないくらいに痛いっ!)
そう、私の不完全な陰陽師の力。
それは、どんな強力な存在のものにも近付かれないように弾いたり、憑依をされたりしても弾き出せるほど強力だ。
けど、強力な代わりにだろうか。自身にも電流が流れてきて、凄まじい痛みを感じてしまう。
通常の陰陽師であっても、強いものに憑依をされた時に弾く際、痛みを感じることはある。
だが、弱いものに憑依された時や、近付かれないようにするために力を使用するだけで痛みを感じることは、まず無い。そんなことでは、死活問題だろう。
『オラオラオラ~! なに、ビビってんだ! 気合いを見せろ、気合いをーー!!』
現場監督のような男が、曲がり角から姿を現す。
(――ッ! 挟み撃ちにされた……!)
『かんとくぅう~!』
『だって、いたいんだもん!』
『びりびりこわいんだもん!』
『うっさーが、ぴくぴくしちゃってるんだもん!』
ぬいぐるみ達は、監督という男に向かって、キャイキャイと訴えている。
『たっく、しょうがねぇ部下共だ。部下の尻は、上司である俺が拭ってやらぁ~』
監督がウエストポーチに手を入れ、取り出したもの――。
「う、嘘でしょっ!」
ドォオーーン!! と、地面を揺らし、ショベルカーが出現した。
『さぁ~て、どんなものに仕上がるか。皆で予想しろ!』
『あなぼこだらけ~!』
『ぐちゃぐちゃひきにく~!』
『ぺらぺらぺったんこ~!』
『まぁ~るいだんご~!』
(逃げ場は、来た場所を戻るしかないけど……――)
あのショベルカーは、霊力によって作り出したものではなく、ちゃんとした物質だ。
だから、物質に対して……私の力は通用しない。
よって、後ろのぬいぐるみ達を蹴散らし、逃げるしかないのだが――逃げる時、一度通った道に戻るのはタブーだ。
特に、このような危機的状況の場合。戻ってしまうと、私を追いかけて来た『他の助っ人』に鉢合わせしてしまうことが極めて高い。
(なら、突っ込むしかない……!)
――高く上げたバケットを視界に入れながら、私は走り出した。
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