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清水 あかり ④

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 ♢◆♢


 姿勢を低くし、物陰から覗く――。


『信用第一が俺らのモットーだろうが! なんとしてでも、見つけ出せ!! いいな!?』
『はーいっ!! かんとくぅーッ!!』
『声が小さぁあーーいっ!!』
『はぁあああーーーいっ!!! かんとくぅううううーーッ!!!』

 現場監督のような格好をしたガタイのいい男。
 その向かいには――ゾウ、ウサギ、ライオン、キリンなどの可愛らしいぬいぐるみがテチテチと歩いている。
 一見、普通の人間と可愛いぬいぐるみに見えるだろう。

 ――しかし、あれらには見つかってはいけない。

 神を降ろすことの出来る――巫女の力を持っているから、直ぐにそれに気付けた。
 あれらは、神に近しい者達だ。
 神ではないが、神に仕えるようなレベルの強力な者達なのだ。


(私の運気を操る能力は、ここでは使用出来ないみたいだし。どうするかな……)

 ここは、私達がいた世界ではないだろう。
 世界線がおかしいことになっている。
 私も、この世界に来てから気が付いたが。自身が生まれ落ち、生きていくであろう――【地球の枠組みの中】でのみ、運気を操る能力を使用出来るようだ。

 だから、ここでいくら願っても能力は発動しない。それにより、己の無事を完遂することは、ほぼ不可能だった。
 何故なら……――あの者達を消滅させることは出来ないからだ。
 少しの間は、陰陽師の力により足止め出来るが。それも時間の問題。
 相手は無限の再生、こちらは力を使えば疲労していき。当然、いつかは命を奪われる。
 だから、なるべくは見つからないように行動していた。

 でも……。ここの世界は、何か一定の法則がある。

 私が、願ったことを完遂するまでは、絶対に流れを止められないのと似たようなもの――。

 例えば、そう……――因果律だ。

 過去に行った罪などを引き出す力が、私に取り巻いている。何も考えずに行動すればするほど、自ずと流れのままにその罪が自身に返ってくることだろう。
 目には目を歯には歯をという、ことわざの通りにだ。

 このような細やかで複雑な世界を作るのは――神か、それに近しいあの者達でないと出来ないだろう。
 だから、あの者達が私をここに呼んだと見て間違いない。

 ――そして、神に近しい者達が作った世界だからこそ……逃げ道があるのも分かった。

 私の運気を操る力は強力だが、一方通行な力でしかない。要するに、不完全な力なのだ。
 それは――通常の、純粋で完全な陰陽師であれば。仮に、呪術をかけても、解術する力も備わっているのだ。
 それが、神に近しい完全無欠な存在ならば尚のこと。完璧な状態で、この世界を作り出したはず。不完全なものを作り出すわけがない。

 けど、それはあくまでもであるのだ。

 完成した後のことは分からない。もしかしたら、逃げ道を破壊されてしまうかもしれない。

 僅かな可能性は、まだあるか分からないその逃げ道を見つけ出すことだが……。手掛かりがゼロの状態では、かなり難しいだろう。

(けど、ひとつだけ分かったことがある。あの子は……――やっぱり人間じゃなかった)

 鴇 美智瑠は人間じゃない。

 私は、鴇 美智瑠が来るのをシャッターの前で待っていた。しかし、姿か見えた時――。
 その姿は、人間ではなく。白い毛の生えた何かだった。そして、目がギラギラと青く輝いていたのだ。


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