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清水 あかり ③

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 ――高校3年になり。白川が、竹内にいじめられるようになった。

 ざまぁみろと思い。私も、たまに白川に酷い言葉を投げかけた。
 けど、未来が私にも止めてと訴えてきて……苛立ちが募っていく。

 それで――『未来にも、白川を助けたことを後悔するようなことが起きて……痛い目に合えばいいのに』と、私は願ってしまった。
 別に、『痛い目』とはいっても。白川を助けたことを後悔する起こってくれたらといった、あやふやな願いであった。

 それが、いけなかったのだろう……――。

 未来がいじめられるようになったのだ。

 私は「未来をいじめるのはつまらないし、やめなよ」と皆に言った。
 けど、いくら言っても皆止めようとしない。
 なんで、未来にいじめが移行したのか、理解出来なかった。だって、あんなに優しくて、綺麗な未来をいじめようとする人間がいるなんて……と信じられなかったのだ。
 でも、次第に理解していくことになる。
 いくら言っても、私の声が聞こえていないかのような皆の姿。私も一緒にいじめをしていると認識している皆の姿は、まるで……――ひとつのミッションをこなしているようであった。
 これは、私が願った通りの流れになってしまっている。しかも……最悪な方向へと向かっていた。

 だから、その流れを止めようと思い。初めて、自分の能力と向き合う決心をした。

 だから、学校が終わると直ぐ。自宅から少し離れた祖父の家に行き、祖父が持つ御堂を借りてひたすら瞑想していた。

 しかし、瞑想すればする程。悟ることになる――。

 一度決められた流れを、
 願いが完遂するまで、絶対に止まらないのだ。

 ちょうど、その時に。石田から、未来を使った金儲けを提案された。

 あり得ない、あり得ない、あり得ない!!
 そんなこと、断固反対した。

 確かに、私がそのような流れを作ってしまった。
 だが、そこ願いの完遂に行き着くまでの方法を、考え、行うのは個々が選択することだ。
 私が、その個々の意識をコントロールまでは出来ない。
 だから、そんな行為を選ぶだなんて……と。
 提案した石田は勿論、賛成する皆を、私はあり得ないものを見る目で見た。

 結局は、それは冗談で、未来の写真を少し加工して稼ぐものだと言われたが……。そんな提案をする時点で、そうなるのも時間の問題かもしれない。

 だから、焦りに焦って――皆には、学校をサボると説明して、ずっと瞑想をした。
 何か、何か……決められた流れを強制的にでも断ち切れる、何かがないのかと。ずっと、ずっと、瞑想していたのだ。

 それで、一つの可能性を見つけた。

 私が、全てのことに干渉し。その度に【願い】を望めば良い。

 決められた流れを、完全には止めることは出来ないが。激しい願いの流れを、新しい願いで塞き止め、緩やかな流れに矯正する……ということは可能かもしれない。

 ずっと能力を使用することになるので、精神や身体への負担が激しいが。例え、寿命を消費しても、これはやらなければならない。

 ――だが、全て遅かった。

 1ヶ月ぶりに学校に登校した時。未来が、私と同じく1ヶ月ほど休んでいると聞いた。
 休んでくれているなら、むしろ良かったと思ったが――田中が登校して発した言葉に、血の気が引いた。

 『ビッチン』って……何? 自殺って……え、なんで?
 それで、頭が真っ白になり――私が言えた言葉が、頭の空っぽな馬鹿っぽい口調で『口裏を合わせよう』といたことだった。

 わからない、わからない、わからない、わからない……。だって、わからないのだ。
 なんで、こんなことになってしまったのか……。
 未来が、自ら命を絶つだなんて……絶対に考えられない。
 未来は、強い。どんなことがあっても、親からもらった大切な命を絶つような人間ではない。
 それは、私が特異な能力を持っているから余計に。それが、分かる。

 私には――人の持つ、魂の強さが視覚出来る。未来は、非常に強い魂を持つ人間だったのだ。

 ――真実が知りたい。絶対に、未来に何かがあったはずだ。

 だから、嫌いな白川を手中に収め。仲良くするふりをし……。「口裏を合わせるために、事実が知りたい」と言って、徐々に、私がいなかった時に起こった出来事を聞き出せた。

 竹内がしたこと、賀川がしたこと、田中がしたこと、石田がしたこと――。

 あの時に石田から聞いたことは、すぐに実行されていた。何もかもが、遅かった。

 けれど、そうなるきっかけを作ったのは……私だ。

 未来が、そこまで酷い目に合うことになるきっかけは……私があんなことを望んだせい。
 それに、途中で分かっていた。私が望んだことはなかなか叶わない。
 それは、未来はずっと――『白川を助けたことを後悔する』という部分だけはしなかったからだ。

 それにより、ずっと願いを完遂することが出来なかった。
 だからこそ……――私は焦り、何とかしないといけないと思っていたのだ。


 でも、それでも……未来が自ら命を絶つのには、違和感しかない。

 ――それで、未来に直接聞こうとした。

 故人のお葬式の時、または49日の間など……成仏するまでの期間中。故人が固定の人間に対し、恨み辛みがある場合。その恨みがある人間の近くに現れることがよくある。

 けど、未来はいつまで経っても現れない。

 だから、怒りを増そうとわざとらしく挑発をしていた。

 何とかして会いたいと思った。
 どんな姿でもいい。恨みによって人の姿を保っていなくても、私なら分かるからと……そう考えていた。

 しかし、結局。未来は、一度も私の元に現れることはなかった。

 本当はまず、未来の親族に聞くべきところであるだろうが。私には能力があるからと、そのことが頭からすっぽ抜けていた。
 私がそれに気づいた時には、未来のおばあちゃんも病気で亡くなっており……。その原因は、孫が亡くなったことによる心労で、持病が悪化したようだった。そして既に、魂は成仏していたのだ。
 恐らくだが、自分の子供と孫の元へ、早く行きたかったのかもしれない。

 ――私は、向こう顧みずに行動していたことを非常に後悔した。
 ただ、未来を馬鹿にするような醜い言葉を吐いただけで、得るものは何一つなかったのだから。


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