35 / 56
清水 あかり ③
しおりを挟む――高校3年になり。白川が、竹内にいじめられるようになった。
ざまぁみろと思い。私も、たまに白川に酷い言葉を投げかけた。
けど、未来が私にも止めてと訴えてきて……苛立ちが募っていく。
それで――『未来にも、白川を助けたことを後悔するようなことが起きて……痛い目に合えばいいのに』と、私は願ってしまった。
別に、『痛い目』とはいっても。白川を助けたことを後悔する何かが起こってくれたらといった、あやふやな願いであった。
それが、いけなかったのだろう……――。
未来がいじめられるようになったのだ。
私は「未来をいじめるのはつまらないし、やめなよ」と皆に言った。
けど、いくら言っても皆止めようとしない。
なんで、未来にいじめが移行したのか、理解出来なかった。だって、あんなに優しくて、綺麗な未来をいじめようとする人間がいるなんて……と信じられなかったのだ。
でも、次第に理解していくことになる。
いくら言っても、私の声が聞こえていないかのような皆の姿。私も一緒にいじめをしていると認識している皆の姿は、まるで……――ひとつのミッションをこなしているようであった。
これは、私が願った通りの流れになってしまっている。しかも……最悪な方向へと向かっていた。
だから、その流れを止めようと思い。初めて、自分の能力と向き合う決心をした。
だから、学校が終わると直ぐ。自宅から少し離れた祖父の家に行き、祖父が持つ御堂を借りてひたすら瞑想していた。
しかし、瞑想すればする程。悟ることになる――。
一度決められた流れを、止めることは出来ない。
願いが完遂するまで、絶対に止まらないのだ。
ちょうど、その時に。石田から、未来を使った金儲けを提案された。
あり得ない、あり得ない、あり得ない!!
そんなこと、断固反対した。
確かに、私がそのような流れを作ってしまった。
だが、そこに行き着くまでの方法を、考え、行うのは個々が選択することだ。
私が、その個々の意識をコントロールまでは出来ない。
だから、そんな行為を選ぶだなんて……と。
提案した石田は勿論、賛成する皆を、私はあり得ないものを見る目で見た。
結局は、それは冗談で、未来の写真を少し加工して稼ぐものだと言われたが……。そんな提案をする時点で、そうなるのも時間の問題かもしれない。
だから、焦りに焦って――皆には、学校をサボると説明して、ずっと瞑想をした。
何か、何か……決められた流れを強制的にでも断ち切れる、何かがないのかと。ずっと、ずっと、瞑想していたのだ。
それで、一つの可能性を見つけた。
私が、全てのことに干渉し。その度に【願い】を望めば良い。
決められた流れを、完全には止めることは出来ないが。激しい水の流れを、岩で塞き止め、緩やかな流れに矯正する……ということは可能かもしれない。
ずっと能力を使用することになるので、精神や身体への負担が激しいが。例え、寿命を消費しても、これはやらなければならない。
――だが、全て遅かった。
1ヶ月ぶりに学校に登校した時。未来が、私と同じく1ヶ月ほど休んでいると聞いた。
休んでくれているなら、むしろ良かったと思ったが――田中が登校して発した言葉に、血の気が引いた。
『ビッチン』って……何? 自殺って……え、なんで?
それで、頭が真っ白になり――私が言えた言葉が、頭の空っぽな馬鹿っぽい口調で『口裏を合わせよう』といたことだった。
わからない、わからない、わからない、わからない……。だって、わからないのだ。
なんで、こんなことになってしまったのか……。
未来が、自ら命を絶つだなんて……絶対に考えられない。
未来は、強い。どんなことがあっても、親からもらった大切な命を絶つような人間ではない。
それは、私が特異な能力を持っているから余計に。それが、分かる。
私には――人の持つ、魂の強さが視覚出来る。未来は、非常に強い魂を持つ人間だったのだ。
――真実が知りたい。絶対に、未来に何かがあったはずだ。
だから、嫌いな白川を手中に収め。仲良くするふりをし……。「口裏を合わせるために、事実が知りたい」と言って、徐々に、私がいなかった時に起こった出来事を聞き出せた。
竹内がしたこと、賀川がしたこと、田中がしたこと、石田がしたこと――。
あの時に石田から聞いたことは、すぐに実行されていた。何もかもが、遅かった。
けれど、そうなるきっかけを作ったのは……私だ。
未来が、そこまで酷い目に合うことになるきっかけは……私があんなことを望んだせい。
それに、途中で分かっていた。私が望んだことはなかなか叶わない。
それは、未来はずっと――『白川を助けたことを後悔する』という部分だけはしなかったからだ。
それにより、ずっと願いを完遂することが出来なかった。
だからこそ……――私は焦り、何とかしないといけないと思っていたのだ。
でも、それでも……未来が自ら命を絶つのには、違和感しかない。
――それで、未来に直接聞こうとした。
故人のお葬式の時、または49日の間など……成仏するまでの期間中。故人が固定の人間に対し、恨み辛みがある場合。その恨みがある人間の近くに現れることがよくある。
けど、未来はいつまで経っても現れない。
だから、怒りを増そうとわざとらしく挑発をしていた。
何とかして会いたいと思った。
どんな姿でもいい。恨みによって人の姿を保っていなくても、私なら分かるからと……そう考えていた。
しかし、結局。未来は、一度も私の元に現れることはなかった。
本当はまず、未来の親族に聞くべきところであるだろうが。私には能力があるからと、そのことが頭からすっぽ抜けていた。
私がそれに気づいた時には、未来のおばあちゃんも病気で亡くなっており……。その原因は、孫が亡くなったことによる心労で、持病が悪化したようだった。そして既に、魂は成仏していたのだ。
恐らくだが、自分の子供と孫の元へ、早く行きたかったのかもしれない。
――私は、向こう顧みずに行動していたことを非常に後悔した。
ただ、未来を馬鹿にするような醜い言葉を吐いただけで、得るものは何一つなかったのだから。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。
焔鬼
はじめアキラ
ホラー
「昨日の夜、行方不明になった子もそうだったのかなあ。どっかの防空壕とか、そういう場所に入って出られなくなった、とかだったら笑えないよね」
焔ヶ町。そこは、焔鬼様、という鬼の神様が守るとされる小さな町だった。
ある夏、その町で一人の女子中学生・古鷹未散が失踪する。夜中にこっそり家の窓から抜け出していなくなったというのだ。
家出か何かだろう、と同じ中学校に通っていた衣笠梨華は、友人の五十鈴マイとともにタカをくくっていた。たとえ、その失踪の状況に不自然な点が数多くあったとしても。
しかし、その古鷹未散は、黒焦げの死体となって発見されることになる。
幼い頃から焔ヶ町に住んでいるマイは、「焔鬼様の仕業では」と怯え始めた。友人を安心させるために、梨華は独自に調査を開始するが。
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる