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賀川 剛 ④

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 ♢◆♢


 ――ある客が、未来を買った。

 その客は、性技がとても上手かったらしく。未来は、何度も絶頂していた。
 俺がしても、あんな風にはならない。

 だから、俺は怒り狂った。

 未来の祖母が、病院に入院していると聞き。
 初めて、未来の家に行った。

 そして、家に入るや否や。未来を責めた。

 ふざけるなと、お前は兼次がつけたあだ名の通りだ、と言ったのだ。

 その時、未来は強く反論した――『私をそうさせたのは、貴方達じゃない! 貴方なんかとするくらいなら、あの人とずっとしてた方がいいに決まってる!』

 俺は、怒りのまま。未来を突き飛ばし、玄関で行為に及ぼうとした――。
 その時。白い猫が、唸り声を上げて飛びかかってきたのだ。

 俺は驚いて、それを思いっきりなぎ払った――。

 白い猫は、壁に激突し。当たりどころが悪かったのか、ピクピクと痙攣して泡を吹き。直ぐに動かなくなった。

 未来は、呆然とした俺を払い退け。白い猫を、抱き寄せた。
 何度も『嫌だ、嫌だ、嫌だっ!! お願い、お願い!! 目を開けてっ!!』と白い猫を胸に抱き。未来は、子供のようにワンワンと激しく泣いた。

 それは、初めて聞くようなもので。俺は暫くの間、動くことが出来なかった。

 未来は、急にストンと表情を無くし。俺をゆっくりと振り返り――。
 飛び付くように、襲いかかってきたのだ。

 殺気立った目で俺に掴みかかる未来を、恐ろしく思い……――。
 だから、力任せに振りほどいた。

 未来は、ビダンッ!! と大きな音を立てて、床に倒れ込んだ。

 そのまま、うずくまっていたので。俺は、冷静を装い言った――『はっ、……ただの動物に、なに本気になってんだ。欲しいなら、新しいのを飼ってやるよ』――そして、逃げるように未来の家を後にした。

 次の日から、未来は学校に来なかった。
 あんなことをされても、欠かさずに出席していたのに……。いくら写真のことで脅しても、既読にすらならない。

 家にも行ったが、人の気配はなく。結局、連絡を待つしか出来なかった。
 他に、未来が行くような場所が分からなかったのだ。
 それは、それほど。未来のことを理解していなかったということでもあったが、俺は認めたくなかった。

 それから1ヶ月後――未来が死んだということが発覚する。

 最初は、兼次の言う自殺だと思った。未来がそうしてしまう理由に、身に覚えがあったからだ。

 でも、自分は悪くないと。先に俺に飛びかかったのは、あの猫の方だと。だから、正当防衛だと。
 自分を保つために、言い訳を何度も何度もした。

 未来が死んでも、全く悲しくないのだと……己にそう言い聞かせていたのだ。

 けど、未来の葬式で――俺は、未来の最期を祖母に聞きに行くことにした。
 未来は最期、一人でどのように亡くなってしまったのか。恨み辛みでもいい、何か手紙でも残されていないかと……それを知りたかった。
 それで、祖母に話を聞き……――『全部、俺のせいだ』と認めざるを得なくなった。

 それは、祖母が1ヶ月後。退院して家に帰った時――。
 未来は、猫と一緒に冷たくなっていたという。

 したことによる死亡だった。

 警察は、その日、酷く雪が降っていたからと――未来が足を滑らせて頭を打ち。猫は、その時に巻き添えを食ったのだろうと結論づけた。


 ――だが、それは違う。どう見ても……。俺が、未来と猫を殺してしまったのだ。


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