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賀川 剛 ④
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――ある客が、未来を買った。
その客は、性技がとても上手かったらしく。未来は、何度も絶頂していた。
俺がしても、あんな風にはならない。
だから、俺は怒り狂った。
未来の祖母が、病院に入院していると聞き。
初めて、未来の家に行った。
そして、家に入るや否や。未来を責めた。
ふざけるなと、お前は兼次がつけたあだ名の通りだ、と言ったのだ。
その時、未来は強く反論した――『私をそうさせたのは、貴方達じゃない! 貴方なんかとするくらいなら、あの人とずっとしてた方がいいに決まってる!』
俺は、怒りのまま。未来を突き飛ばし、玄関で行為に及ぼうとした――。
その時。白い猫が、唸り声を上げて飛びかかってきたのだ。
俺は驚いて、それを思いっきりなぎ払った――。
白い猫は、壁に激突し。当たりどころが悪かったのか、ピクピクと痙攣して泡を吹き。直ぐに動かなくなった。
未来は、呆然とした俺を払い退け。白い猫を、抱き寄せた。
何度も『嫌だ、嫌だ、嫌だっ!! お願い、お願い!! 目を開けてっ!!』と白い猫を胸に抱き。未来は、子供のようにワンワンと激しく泣いた。
それは、初めて聞くようなもので。俺は暫くの間、動くことが出来なかった。
未来は、急にストンと表情を無くし。俺をゆっくりと振り返り――。
飛び付くように、襲いかかってきたのだ。
殺気立った目で俺に掴みかかる未来を、恐ろしく思い……――。
だから、力任せに振りほどいた。
未来は、ビダンッ!! と大きな音を立てて、床に倒れ込んだ。
そのまま、うずくまっていたので。俺は、冷静を装い言った――『はっ、……ただの動物に、なに本気になってんだ。欲しいなら、新しいのを飼ってやるよ』――そして、逃げるように未来の家を後にした。
次の日から、未来は学校に来なかった。
あんなことをされても、欠かさずに出席していたのに……。いくら写真のことで脅しても、既読にすらならない。
家にも行ったが、人の気配はなく。結局、連絡を待つしか出来なかった。
他に、未来が行くような場所が分からなかったのだ。
それは、それほど。未来のことを理解していなかったということでもあったが、俺は認めたくなかった。
それから1ヶ月後――未来が死んだということが発覚する。
最初は、兼次の言う自殺だと思った。未来がそうしてしまう理由に、身に覚えがあったからだ。
でも、自分は悪くないと。先に俺に飛びかかったのは、あの猫の方だと。だから、正当防衛だと。
自分を保つために、言い訳を何度も何度もした。
未来が死んでも、全く悲しくないのだと……己にそう言い聞かせていたのだ。
けど、未来の葬式で――俺は、未来の最期を祖母に聞きに行くことにした。
未来は最期、一人でどのように亡くなってしまったのか。恨み辛みでもいい、何か手紙でも残されていないかと……それを知りたかった。
それで、祖母に話を聞き……――『全部、俺のせいだ』と認めざるを得なくなった。
それは、祖母が1ヶ月後。退院して家に帰った時――。
未来は、猫と一緒に玄関で冷たくなっていたという。
頭を強打したことによる死亡だった。
警察は、その日、酷く雪が降っていたからと――未来が足を滑らせて頭を打ち。猫は、その時に巻き添えを食ったのだろうと結論づけた。
――だが、それは違う。どう見ても……。俺が、未来と猫を殺してしまったのだ。
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