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石田 孝 ⑦
しおりを挟む「――ぅっ! ……くそっ! いい加減に、止めろっ!!」
『ばぶっ、ばぶっ、ばぶぅうう~~っ!!』
ニコニコと笑いながら、俺を好き勝手に着せ替えするデカイ赤ん坊。
――地面から出てきた赤ん坊は、俺に手を伸ばしてきた。
すぐに逃げようとしたが、クッションに足を取られて転んでしまい。そのまま捕まり、今、このようにファッションショーをさせられてしまっているのだ。
しかも、お姫様の服、チャイナ服、女学生の服、ナース服など。女物の服ばかりを着せてくる。
「止めろって、言ってるだろ……!」
俺を掴んでいる赤ん坊の手を、おもいっきりつねる。
『ぅばばばばばぁあ"あ"あ"ーーーっ!!!』
ギャン泣きした赤ん坊は、ブンブンと手を激しく振り
――俺は、勢いよく地面に放り投げられた。
「……ガハッ!」
いくら、クッション素材の地面であっても。生身の状態で叩きつけられれば、それなりの衝撃がある。
その痛みに呻いていると――強い力で、身体を握り締められた。
『ばぁああっ、ぶぅううう"う"う"~~~~~!!』
「い"っ……!?」
ブチブチブチッ! 髪の毛をむしられる。
「やっ……! やめ"っ、やべでっ!! いだい、いだい"、いだいぃ"い"ーーー!!」
赤ん坊は、憤怒の表情を浮かべたまま。いくら止めてと言っても、止めない。
『ぶぶぶぅう"う"~~~!! うぎゃっ! うぎゃっ!! うぎゃははははは~~っ!!』
俺の髪をむしった赤ん坊の手には、ゴッソリと髪の毛が絡み付いた。
それが、楽しくなったのか。次は、機嫌よく大笑いをし始め、更に髪をブチブチとむしりだした。
俺の髪が全て抜き取られ、無くなってからは。赤ん坊に、クッションの地面に身体をベチベチと叩きつけられた。
「は、ははは……。これが、因果応報ってやつ……か?」
――ナース服を着させた青城を、加害性のある客に売ったことがある。
客は、ナース服を来た女性を痛めつけてみたかったと言い。青城の髪を強く掴み、身体を叩きながら行為をしていた。
青城は、ずっと――『痛い、痛い、止めて……!』と顔を歪め、泣いていた。
それを見た俺は……――大笑いをしたのだ。
理由なんて、大したものじゃない。ただ、サラサラとした綺麗な髪を引っ張られ、馬のように叩かれている青城を見て、楽しかったというだけだった。
「は……っ! だとしても、俺は……後悔してな、い……っ、優秀な、人間が……誰かを使うのは……当たり、前……で…………」
優秀な人間――果たして、己はそうであるのか? と、問いかけてくるもう一人の自分。
何故、好意を持ってたはずの青城を、嫌悪するようになったのか? それは……――青城が俺よりも、優秀であったから。
しかも、それを自分ではない誰かの為に役立てることを、息をするかのように行っていた。
だから、焦った。自分の価値がなくなってしまうと思って――。
それで、青城をどん底まで突き落とせば……『俺が、一番のままでいられる』と、そう考えたのだ。
「違うっ! 違う、違う、違ぁああーーう!! 俺が一番だ! 俺が! 俺がっ! 俺がっ!! 俺が、一番なんだぁあああーーーっ!!」
覆い隠していた、本当の理由――。
自分すら、ずっと騙していた。けど、この状況によって、これ以上は繕えなくなった。
あまりに、青城のことをなぞっているような出来事の連続であったせいで……。
「お、俺が……誰かに、負ける、だなんて……。だから、蹴落とした……だなんて……。もう、俺は、一生……――」
認めたくない、認めたくない……と思っているが。もう、理解してしまった。
自分を正当化し、青城が悪いのだと決めつけていた。
青城よりも上に立とうと、努力をしなかった。
俺は戦わずに、自分よりも優れた青城を、蹴落とす選択をした。
だから、俺は一生――青城に、勝つことは出来ないのだ。
そして、白タイツが言っていたように俺は……――。
青城の【心】をずっと殺してきた、人殺しでもあるのだろう。
『ぶばぁあ"あ"あ"ーーーー!! ぶぅぶぅう"う"~~~っ!!』
うるさい! うるさい! といった風に、赤ん坊は癇癪を起こす。
バシバシバシバシバシバシッ!! 強打、激痛、強打、激痛、強打、激痛――。
ブチリとした音が聞こえる。
その音の方向には、赤ん坊に掴まれている捩れた下半身のようなものが見えて。それから視界が落下していき――ベチャリとした音が、間近くで鳴った。
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