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石田 孝 ⑤

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(は……!? 今までのが無効ってことか!? こっちがふざけんなよっ!)

 白タイツは鼻歌を歌いながら、ルンルンと楽しそうに腰を左右に振っている。
 このよく分からない奇妙な存在を、強く睨み付けるが。全く意に介さず、パチンパチンと指も鳴らし始めた。

(……まぁ、いい。どんな問題が出ようと、俺が勝つだろうしな)

 けして、剛の頭が悪いというわけではない。
 ただ、知識量で言えば。断然、俺の方が優れているというだけだ。

(剛……。例え、お前が真面目に回答していても俺には勝てなかっただろうが。お前なりに、俺を助けようとしてくれていたんだな。まぁ、俺のお陰でいい思いも出来たから、当たり前と言えばそれまでだが……。でも、今までありがとう)

 横目で、未だに下を向いている剛を視界に入れ。感謝の念を送る。


『でハ、でハ~。最後ノ問題、逝きマス☆』

 白タイツは踊りを止めて、言う――。

『第10問メ――青城 未来ハ、自殺で亡くなったカ?』

 最後だから、雰囲気を作っているのだろうか? 白タイツは、非常に低い声で言葉を発している。

 身体が勝手に動き――【ハイ】のボタンを押す。

 白タイツは先ほど『身体を強制的に動かす』と変なことを言っていた。
 この感覚からするに。俺の持つ知識を読み、身体を動かしているということだろう。

『答えハ~、ジャジャンッ! 【イイエ】デース!! 右ノ人、不正解。左ノ人――正解デースッ!!』
「――……は?」

 バッと剛を見る。剛は顔をしかめ、白タイツを見上げていた。

「は、はぁ……? おい、剛……どういうことだよ? 青城は、自殺だろ……? ……っ、ま、まさか、お前……!」

 青城は、自殺だと……俺達は思っていた。
 しかし、それは――兼次がそう言っていたのを聞き、そのように――。

「剛っ! 兼次と一緒に、青城を殺したのか!?」
「違う……! 兼次は、知らなかった。本当に、自殺だと思って言っていただけだろうな……。俺も、俺だって、最初はそうだと思ってた……――未来の葬式に行くまでは」

(なに、青城の葬式……?)

 青城の葬式が終わってからのことを、思い出す――。

 そういえば……。剛は一人、俺達から離れて青城の祖母と話していた。
 けど、直ぐに話し終えていたので。あまりそのことを、気に留めていなかった。
 俺以外の皆はそのことに気づいていないようで、剛もそれを話したりしなかったし。だから俺は、わざわざ聞くほどのことでも無いだろうと、話題に出したりはしなかったのだ。

「それは、どういう――」
『はイ、はイ~! 敗者にハ、ソろ、ソろ、落下死テもらいマ~ス☆』

 パチンパチンと指を鳴らす、白タイツ。
 それで、今の状況を思い出した――。

「まっ、待て、待て!! 俺は、9問も正解している! たった1問正解しただけで、剛が勝者だなんて……! そんなの横暴すぎるし、剛しか知り得ない問題なんかは、問題とは言えない! これは、無効だっ!」

 う~ん……と悩む素振りを見せる、白タイツに。これは、まだ可能性があると確信し――。

「それに、剛は人殺しだ! そんな、人間なんかは生き残る資格は無い!!」

 畳み掛けるように言葉を出した。


『それハ――お前モ、そうだロウガ』


 底冷えするような声でそう言った白タイツは、指をパチンと鳴らし。俺の乗る座席を落下させてしまった――。


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