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白川 尊 ③
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「きゃぁああっ!!」
バシャーンッ!! けたたましい水の音が鳴る。
顔から水に叩きつけられ、鼻血が出てしまったのだろう。水中に赤色がゆらりゆらりと煙のように揺れ、滲んで薄れていく。
このような状態であるが、幸運なことに――水に入った時に縄が緩み、ほどけてくれた。
しかし、見渡す限りの水、水、水――。
「はっ、はぁっぅう、……! 助けて……助けて……っ!」
(掴まるところも、何もない……。このままじゃ――)
バチャバチャと水の中で踠く。どこかに、上がれる場所がないのかと探し、がむしゃらに泳いだ。
『ガァアア~~ガァアアア~~! グァアアアア~~~!!』
「……ヒッ!?」
その音は、アヒルホイッスルにそっくりなものだった。
――振り向くが、何もいない。
意味が分からなくて、恐ろしくて、バチャバチャバチャバチャと暴れる。
『グァッグァッグァァアア!!』
「ひぁっ!? きゃああああーーー!!」
真下から、何かが盛り上がってきて。身体が水上に出された。
「なっ、なに……アヒル?」
よく、お風呂で浮かべるオモチャ――黄色のアヒルが、私を乗せてプカプカと浮いている。
それは、私を助けるために現れた、救いの舟のように感じた。
「……え、も、もしかして……。助けてくれてるの?」
『グァッグァッグァッ!』
目が潤む――。
こんな、よく分からない状況であっても……助けてくれる存在がある。そのことに、感動を覚えた。
「あ、ありがとう。助けてくれて、ありがとう……」
アヒルはプカプカと浮かびながら、ゆったりとどこかに進んでいる。
私は疲れた身体を、プニプニと柔らかいアヒルの上で休めた。
「早く、早く、帰りたい……」
身体に感じる、このリアルな感覚で。これは、夢ではないだろうと既に気付いていた。
何故、このような場所に居て。こんな目に合わなければいけないのだろうと――自分の不幸な状況を悲しむ。
「早く、早く……早く帰してよ……早くっ!」
バシバシと、柔らかくてプニプニしたアヒルの身体を、咎めるように叩く。
つい先程、このアヒルに感謝したばかりだというのに。今は、早く泳いで欲しいと。不満をぶつけたのだ――。
『グァアアァ"ア"ァ"ア"ア"ーーーーーッッ!!!』
「ひっ、ぇ……えっ!?」
柔らかな、プニプニした黄色いアヒルだったはずのモノは。固く、真ん中が凹んだ――白いアヒルのおまるになってしまった。
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