15 / 56
白川 尊 ②
しおりを挟む♢◆♢
いつも、やること全てが遅い自分が嫌いだと、未来ちゃんに言った――。
「大丈夫だよ。人にはそれぞれ、自分のペースがあるの。だから、尊ちゃんは、尊ちゃんの思うペースでいいんだよ」
優しい笑顔でニコリと笑う、未来ちゃん。
それでも、自分はどんくさくて、周囲に迷惑ばかりかけてる駄目な人間だと、泣き言を漏らすと――。
「尊ちゃんは、いっぱいいっぱい考えて。それで、最善を尽くそうとしてるの、私しってるよ? だから、尊ちゃんが時間をかけて頑張っていた、文化祭の出し物だって大好評だったじゃない。一つ一つのことを全力で頑張れるのは、誰にでも出来ることじゃないよ」
未来ちゃんの顔を見れば分かる。偽善じゃない、本心からの言葉。
私は――未来ちゃんの隣が、とても心地よかった。
いつも、いつも。『どんくさい』『何しても駄目』『出来損ない』と言われていた私に、優しい光を与えて、癒してくれた。
こんな綺麗な心を持った人間に出会えるなんて、私の人生捨てたものじゃないと……――ずっと、一生涯、死ぬまで。未来ちゃんの、一番の友達。特別でありたいと思っていた。
――でも、自分を守るためには、それを少しの間切り捨てざるを得なかった。
未来ちゃんにいくら『止めて』『お願い』『助けて』と懇願されても、私には助けてあげることは出来ないのだ。
だって、未来ちゃんは強い。自分をしっかり持っていて、前を向いていける人間だ。
それに比べて、私は弱い。ちょっとしたことでも落ち込んでしまう、立ち上がることすら出来ない人間だ。
だから、強い人が弱い人を助けるのは当たり前だろう。
強い未来ちゃんならば。例え、皆にいじめられていても、あと少しの高校生活だし、乗り越えていけるだろうと安心していた。
だって、あと少しだ。そうすれば、またいつもみたいに――『私も辛かったよ』と泣いて謝れば、優しい未来ちゃんは許してくれる。
未来ちゃんが、たくさんの男の人に身体を汚されたせいで、悲しんでいたら『大丈夫、私ならそんなの気にしないよ。未来ちゃんは、未来ちゃんだよ』と言って抱き締めながら、慰めてあげよう。
それに、地味な私とは違って。未来ちゃんほど可愛い女の子ならば。男性経験が多くても、両手を挙げて付き合いたいと言う人なんていっぱいいる。だから、大丈夫。
――それで、私と未来ちゃんは死ぬまで【一番の、特別な友達】になるんだ。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。
焔鬼
はじめアキラ
ホラー
「昨日の夜、行方不明になった子もそうだったのかなあ。どっかの防空壕とか、そういう場所に入って出られなくなった、とかだったら笑えないよね」
焔ヶ町。そこは、焔鬼様、という鬼の神様が守るとされる小さな町だった。
ある夏、その町で一人の女子中学生・古鷹未散が失踪する。夜中にこっそり家の窓から抜け出していなくなったというのだ。
家出か何かだろう、と同じ中学校に通っていた衣笠梨華は、友人の五十鈴マイとともにタカをくくっていた。たとえ、その失踪の状況に不自然な点が数多くあったとしても。
しかし、その古鷹未散は、黒焦げの死体となって発見されることになる。
幼い頃から焔ヶ町に住んでいるマイは、「焔鬼様の仕業では」と怯え始めた。友人を安心させるために、梨華は独自に調査を開始するが。
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる