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田中 兼次 ④

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 ♢◆♢


『そこのチャーミングなリボンをつけた貴女! 落札よ~! おめでとう!』

 閻魔大王が高らかにそう言うと、周囲のマネキンは『ショウガナイネ~』『アンナ、ハラエナイヨ』『チッ! カネモチカヨ』とゴニョゴニョと言い。まばらに、パチパチパチと拍手が聞こえてくる。

 頭にピンクのリボンを付けたマネキンは、嬉しそうに『ワタシノォオオ! カクテイイ"イ"イ"ーーー!!』と何故か踊りを披露し始めた。
 それが、よく見るロボットダンスのようで、無駄に上手く。このような状況下であっても、魅入ってしまう。

 周りのマネキンも『ォオ……! マジ、カミダネ』と感動していた。


【発情サルさん、御愁傷様。あの子は、残酷よ】
「……っ、はぁ……!? な、なにが……?」

 閻魔大王のポケットから、顔の上半分だけ出したつぎはぎの化け物が、哀れな者を見る目をして俺を見ていた。

『さぁ、さぁ、発情サルは貴女のモノ~!』
『ワァ~イ!』

 クルリクルリと踊りながら、リボンのマネキンはこちらに近付いてくる。

 ――マネキンが間近くまで来た時。身体がピンッと張った。

「なっ、はぁ!? コ、コレ……なんだよ……?」

 細いピアノ線のような糸が、俺の身体に絡んでいた。

 クンッと全身を引っ張られ、閻魔大王から離され。マネキンの近くに寄せられてしまった。

 その糸は、マネキンの指に繋がっていて。
 俺を思いのまま操るマネキンは、操り人形師のようであった。

 そして、一緒に踊る。激しく、熱いダンス――。


「い"っ、いぎっ!! 痛い、痛い、痛い!!」

 グギッ! ボギッ! と俺の身体から嫌な音が鳴る。

 当たり前だ。ダンス経験はなく、身体も特に柔らかくない人間が。いきなりスピードのあるダンスを踊るなんて、身体をおかしくする。

 身体中が、痛くて、痛くて……。顔を歪めて叫び泣く。

 しかし、周りは歓声の嵐。アンコールや、笑い声に包まれる。

「なんで……! 俺が、痛くて、苦しくて……。こんなに泣いてるのに、もっとやれとか、笑えたり出来――ッ……!」

(あ、そうだ。俺……やってたんだ。同じこと――)

 ――たまたま、ビッチンと剛との行為を見ていた日。もっと激しくやれ~と言って笑った。

 その行為後、ビッチンが――『痛い、苦しいと言っているのに……。なんで、囃し立てたり、笑ったりできるの……?』と泣いていた。

 ビッチン――……いや、青城の……その泣き声が耳の中で木霊する。

『スバラシク、タノシイ、セカイイ"イ"~~~』

 バク転するマネキン。それに倣うように、同じ行動をする俺。

 ――剛と孝の行為を真似ていた俺。

 バキ、ゴギ、グギ……。骨があり得ない方向に曲がっても、糸によって無理やり戻され、ダンスを強要される。

 ――青城の心が悲しみに暮れても、そんなの関係なく。笑いながら、無理やりに行為を強要させていた俺。


「お、願い……もう、も……う、死な、せ、て……」


 長い、長い、ダンス・パフォーマンスはなかなか終わりを見せない。




 ♢◆♢



 俺が、言葉も発することが出来なくなった頃――。

 マネキンが、バク宙をし。俺も同じくバク宙をしたが、手の骨が折れてグニャグニャになっている状態で、身体を支えることは不可能だった。

 ゴキンと首から音が聞こえて――狂った余興は、それをきっかけにやっと終わりを迎えた。


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