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田中 兼次 ①
しおりを挟むゼェ、ゼェと荒い息を吐きながら、暗い廊下を駆ける――。
「なんなんだよ、アレは……! 意味分からない、作り物じゃねぇよ! あんなのはっ……!」
ウネウネと蠢く触手は、作り物ではなく。どう見ても、生きているモノでしかなかった。
凜々花を見捨てたのに対して、罪悪感を感じる暇なんかない。そんなの、命あっての物種だ。
だって、そうだろ……? 自分がわざわざ損をする必要なんてない。楽しいことだけして生きていくのが、俺の生き様なのだ。
階段を下りようと、足を下ろした瞬間――ガクンッと身体が落ちた。
「はっ!? ぅっぁああああーーー!!?」
階段は、何故か滑り台になっていた。
しかも、ローラー滑り台だ。
カラカラカラカラと乾いた音を鳴らしながら、俺を滑り落として行く。
【キャハハハハ!! 楽しい♪楽しい♪滑り台~♫命を掛けて滑り出す~♪慌てたおサルがウッキキー♪ウッキキー♬】
「……ひっ! な、なんなんだよ! なんなんだよぉおーー!?」
タコの化け物と遭遇した時。慌てていたせいで、そのまま握り締め持っていたスマホから――つぎはぎ化け物のアニメ声が発せられる。
すぐに、スマホを投げ落とす。
【キャハハハハーー! キャハハハハーーー!! 楽しい楽しい時間が、始まるよぉお~~!!】
高いアニメ声が遠のいて、次第に聞こえなくなり。少しだけ、ホッとした。
しかし、まだ状況は打破していない。
これ以上、滑り落ちないように、掴まるところがないかと周囲を見たが。見渡す限り、全てがローラー滑り台であり。ならばと、手で押し止めようとしても勢いは増すばかりだ。
「うぐっ!」
漸く、下にまで到達した。
勢いがよかったので、大怪我をしてしまうかと思ったけれど。黒いクッションのようなものが敷いてあって、無傷で済む。
「はっ、ははは……助かった」
よく分からないが、危機的状況から逃れられたのだろう。
「そうだ。俺は……楽して生きる。いつだって、そうだった。一番オイシイところを貰って、最後に得をするのは俺なんだ」
凜々花には悪いが、俺を逃がす為の犠牲になったと思おう。
「ありがとな、凜々花。俺を助けてくれて」
でも、いい女だった。美人で、スタイルも良い。
こんなことがなければ、もしかしたら将来は有名な女優になっていたかもしれない。
そしたら、俺と仲が良かったんだと自慢したりも出来て……。凜々花は、俺に興味がないから付き合うのは無理だろうが、芸能人の可愛い女の子を紹介とかしてもらえた可能性もあったのに――。
その可能性が潰えたのに、しんみりとしてしまう。
「ま、なくなった未来のことをウジウジ考えるのは、俺の性分じゃないよな!」
頬をパンパンと叩き、気合いを入れる。
「さて~、此処は……なんだ?」
周りは、白い小部屋。カラオケボックスの個室ほどの大きさであった。
俺が滑り落ちてきた所は背後にある。
「ん? あそこが出口か……?」
半透明な扉のようなものが、少し離れた場所にある。
そこに向かおうと、足先を動かした時――その扉から大きな手が入り込んできて、身体をわし掴みにされ。ぶらんと宙を浮いた。
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