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竹内 凜々花 ⑤

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 ♢◆♢


「わ、私は……間違ってない。だって、私に反抗した青城が悪いのよ……。そう、間違ってなんかないわ……」

 鮮明に、あの時のことを思いだし。自己弁護する。

 自分は悪くないのだと……――例え、アレがきっかけで、青城があんな目に合うようになったのだとしても。私がしたわけではない。
 全部、全部。兼次と剛と孝がやったことだ。


『教育的、しどぉお"お"う"ウ"ウ"ッ!!』
「ひぎっ!! いぁああ"あ"ーーー」

 手のひらを鉛筆で刺される。

 ――以前、青城に同じことをした。

 太ももやお尻、背中を定規で思いっきり叩かれる。

 ――以前、青城に同じことをした。


「いっ、いやぁああ!! お願い! 顔……顔は、止めて! 私の顔だけは!!」

 もう、分かっていた。次に刺されるのは――おでこだろう。

 きっと、これは青城の復讐なのだ。じゃないと、おかしい。
 私が青城にしたこと、全てを返されるだなんて――。

 ブスリ……! 針がおでこにめり込み、ギギギと横に動かされる。ダラダラと血が目に入り、視界が悪くなる。


「ごめん、ごめんなさい! 青城、私が悪かったわ。だから、お願い! もう、止めて……!」

 私の美しい顔に、だんだんと傷が刻まれていく。
 耐えられない。こんなことは、駄目。絶対に、駄目だ。

『そんな口だけの謝罪じゃあ、社会でやっていけませンンン"ン"ン"!! 教育的指導ォオ"オ"オ"ッッ!!』
「ああ……! そん、な……」


 ――『お願い、竹田さん。もう、止めて……辛くて耐えられないの』
『じゃあ、謝りなさい』
『ご、ごめんなさい』
『そんな口だけの謝罪じゃ、社会でやっていけないわね。はい、教育的指導をしてあげる』
『いっ、痛い! 痛いよ……』


「ああ……。こんな、辛いことだったなんて……」

『辛い』なんて、私には縁がないものだった。
 恵まれた特別な私。全てが私中心に回っているような世界。
 だから、人の辛い気持ちなんて気にするものではないし。どんなことをしても、私ならば許されると思っていた。

 ――そんな驕りが、こんな事態を引き起こした。

 きっかけは、私だ。ずっと、本当は気付いていた。

 私が、青城に目を付けなければ、尊がいじられている状況なままで止まった。
 私が、青城の身体に傷をつけなければ、剛たちが便乗して同じことをしなかった。
 私が、青城の裸の写真をとらなければ、青城があんなことだってされなかった。


 この【認めること】はある意味、己の成長だ。
 自分の至らない部分を、心から反省出来るようになった。

 だが、あまりに遅すぎる成長であった。

 いくら、謝っても取り戻せないもの――生命というものを、私のせいで散らしてしまうことになったのだ。


「い、今さら……よね」

 己の罪に気付いてからは、簡単に『ごめんなさい』と言葉に出せなくなった。

『教育的指導ォオオ"オ"オ"詰めぇえエ"エ"う"う"』

 化け物は、コンパスを大きく振り上げ。勢いよく下ろした。

 グチャリと嫌な音が聞こえ、すぐに右目に激痛が走る。

「――ぁ"あ"あ"あ"っ!!!」

 私が痛みに踠いていると。グチャグチャグチャと、顔全体を突き刺しては抜きを繰り返され――。
 美しかったその顔は、誰だか分からないグロテスクなものとなっていた。

 頭のてっぺんをグチャリと突き刺され、ビクッと身体が跳ねた後――漸く、化け物の私への教育が完了した。


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