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竹内 凜々花 ④
しおりを挟む化け物が曲がり角から現れた途端。兼次は、我先に逃げた。
私も走った。けど、怪我のせいで、兼次との距離は開き、化け物との距離は縮まっていく。
「ちょっ、ちょっと! 兼次!! 待ってよ! 私を守るって言ったじゃない!!」
兼次は、私を一瞬振り返ったが。私の後ろにいる化け物に視線を向け、顔を恐怖にひきつらせ無言で去って行った――。
(ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな!!)
兼次ごときが、私を差し置いて逃げる? あり得ない。
むしろ、その命をかけて、私という美しい存在を守るべきであるのに!
「ぜ、絶対に……許さな……――きゃあっ!!」
――足首を、ブチュリとしたものに掴まれる。
すぐに、あの化け物の触手だと気が付いた。
「い、いやぁっ! 離して!! 助けて、助けて、助けて……!」
そのままズルズルと引き寄せられて行くのを、床に爪を立てて止めようとする。
綺麗にネイルで飾り付け整えていた爪は、ボロボロになり。見るも無惨に剥がれてしまっていた。
何万もして整えたものなのに! と憤りを感じる。
「止めて! わ、私が何したって言うのよ!!」
(こんな目に合うような事を、私は何一つしていないのに……!)
『教育、教育、きききょきょ……っ、教育、教育――』
「うるさい、うるさいっ!! あんたに、教育される筋合いなんて無い!!」
そう言葉に出した時。青城も、同じことを言っていたことを思い出す――。
♢◆♢
「ほらほら、そんなんじゃ、社会でやっていけないよ~? もっと、汚れ仕事は率先してやらないと」
トイレ掃除を、青城に押し付け――というより、トイレ掃除の当番でもない青城を、トイレに引きずって連れて行き。無理やり掃除をさせる。
「……っ、こんなことして、楽しいの?」
「えぇ~、楽しいか楽しくないとかじゃないわよ。私は、教育してあげてるの」
青城は、キッと私を睨み付けた。
「なに、その反抗的な目は……」
「教育っていうものは、こんな一方的なものじゃないよ。竹田さんは、間違ってる。貴女に、教育される謂れはない」
カチンと来た。こんな、私よりも格下の人間に反抗されるなんて――……気が付いたら、コンパスで青城のおでこを何ヵ所も引っ掻いていた。
青城は「止めて、痛い……痛い」と泣いていた。
でも、私はホッとする。もし、目に見えるところだったら、大ごとになってしまうかもしれないからだ。
反抗的な青城に、このことを誰にも言うなと言っても聞かないだろう。なら――。
「尊、青城を押さえつけて」
「えっ!?」
トイレの隅でびくびくとしていた尊に、指示をする。
本当は、あかりがいれば良かったが。用事があるからと、先に帰ってしまった。
男子達も、女子トイレ内でやることだとついて来なかったのだ。
だから、この場にいるのは私と尊と青城の3人だ。
「早くして」
「え、え、え……」
尊はおどおどして、なかなか青城を押さえようとしない。ホント、イライラする。
「貴女も、ああなりたい?」
「ひぃ!」
コンパスの針を、尊に向けると。ビクビクとしながらも、やっと動き出した。
「尊ちゃん、止めて……」
「み、未来ちゃん……ごめん」
尊は、青城を押さえつけた。
私は、青城の制服を剥ぎ取り、裸にすると――カシャカシャと写真を取った。
「や、止めてっ! 酷い、酷い……」
「ふふふ、いいじゃない。コレなんて、誰かが見たら飛び付くわよ?」
尊を使って、青城の脚を大きく広げさせた写真を見せる。
「もし、ここでのことを言ったら。コレを、ネットに実名つきでばら蒔くからね」
青城は、その写真を見て。更にハラハラと涙を溢していた――。
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