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竹内 凜々花 ②
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「誰か、誰か助けて……!」
化け物に見付からないように、ヒョコヒョコと脚を引きずり歩く。
周囲から美しいと言われる顔は、ぐちゃぐちゃに歪み。普段の自分が見たら、卒倒してしまうようなものになっていた。
――だが、そんなこと言ってられない。
私のような、将来、光を浴びるべき人間が……。こんなよく分からない場所で、あんな化け物にいたぶられるかもしれないなんてことは、絶対にあってはならない。
(誰か、誰か……あの化け物を倒して! 私を救って……!)
あの化け物は、本当に人を殺すものだ――。
最初、鉢合わせした時。誰かのドッキリかと思った。
読者モデルをしている将来性のある私に、ドッキリをしかけてきた誰かがいるのかもしれない……と。そう思った。
だから、笑って「そんな作り物、趣味悪いわ」と言った途端――私の顔に向けて、コンパスの針を振り被ってきたのだ。
寸でのところで回避したが、脚を挫いてしまい。
時間が立つ程に、ズキズキとした熱いような痛みを帯びてくる。
しかし、もし避けなかったら。顔に穴が開いていただろうと思うと、ガクガクと全身が震えてしまう程の恐怖を感じた。
「きゃっ……!」
「うぁっ!?」
身体が何かにぶつかった。慌てて壁に手つけ、倒れないよう体勢を整える。
「凜々花……?」
「え?」
名前を呼ばれ、前を向くと。兼次が呆然と佇んでいた。
(兼次か……。出来れば、剛か、孝が良かった)
けど、この状況では選り好みしていられない。私の生存率を上げるには、他の誰かが、あの化け物を何とかしてくれないと困るのだ。
「け、兼次。怖かった……助けて」
「ぅおっ、え……? 凜々花」
兼次にギュッと抱きつく。
兼次は初め、挙動不審に手を上げたり下げたりしていたが、次第にニヤニヤとだらしない顔になる。
(キモ……。私、兼次あまり好きじゃないのよね。いつも、下ネタばかり言うし。あのあだ名だって、こいつが……)
「り、凜々花! 大丈夫、俺が守るから!」
「うん、ありがと……」
兼次は、声を裏返しながら宣言する。
その様子は、自分が『美しい女性を守る』というシチュエーションに酔いしれているように見えた。
当たり前のように手を繋いでくる兼次に、顔が歪みそうになるのを抑え込む。
(まぁ、少しの辛抱よ……。せいぜい、私の為に役に立ってもらうわ)
「さあ、ここから脱出しよう!」と意気揚々と歩く兼次に引かれるように、暗い廊下を再び進み出した。
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