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鴇 美智瑠 ④
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「――チ! ミッ………! ミッチー!!」
「……っう!」
瞼を開くと――必死な表情を浮かべている、あかりが目の前にいた。
「な、なに……?」
「よ、よかったぁ~! ミッチー死んじゃったのかと思ったぁ~」
頭を何処かにぶつけたのか、ズキズキとした痛みがある。
「えっ……なに、ここ」
私達がいるところは、繁華街のような場所だった。
「わかんない~。目を開けたらぁ、私とミッチーだけ、ここにいたの~」
修学旅行は、自然豊かな場所だ。間違っても、こんな栄えているところではない。
「とりあえず……誰か探そう」
「うん、そぉだね。みんな、大丈夫かなぁ……」
あかりは、下を向き。シュンしている。
何かを探すために、屈んでいたからだろうか。あかりは、どこも怪我を負ってはいないようだ。
すきま風がヒューヒューと吹き、私の身体を冷やす。それが、どこか人の叫び声にも聞こえてくるから余計に、ゾクゾクとした寒気を感じる。
「ミッチーこれ、あげるぅ」
「え?」
差し出されたものは、ホッカイロだった。
「へへ~。ミッチーも寒いと思ってぇ、2個取り出してたんだぁ~」
「あ、ありがとう」
ありがたく受け取る。じんわりとした温かさが手に伝わって、ホッとした。
――ジジ……。ピィー、ガガガッ!!
『ただいまから、バーゲンセールを始めます! さぁ、さぁ、皆様お急ぎ下さい!』
「――え?」
「な、なに……あれ……?」
スピーカーから聞こえるような音に、声。そして――……先程までは何もいなかった各店舗内に、マネキンがぎゅうぎゅう詰めになってこちらに視線を向けていた。
ガクガクと歪な動きで、お互いに押し退け合っている。それはまるで、欲しい品物を奪い合おうとしている人間達のようだった。
「あ、あれ……! やばいよっ!」
あかりは、ぶるぶると震え。私を置いて、素早く走って行く。
「ひっ……!?」
私も、すぐに走り出したが。それと同時に各店舗のドアが開いた。
ガキ、ガキ、ギギギ……!
『ワタシノヨ、ワ"タシノォ"オ"ーーー!!』
『ドケ、ドケ、ドゲゲゲーーー……』
『アシ、ウデ、アタマァア"ア"』
錆び付いた不快な音と、ダミ声に、ゾワリと怖気立つ。
「はっ、はぁ……はぁ……!」
あかりの姿が見えない。そういえば、足が早いんだ……と前に言っていたのを、チラリと聞いたことがあった。
勘も良くて、足も早いとくれば。このよく分からない世界でも、生存率が高そうだ――と他人事のように考えていた。
もう、ただのドッキリでした! なんて言われれば泣いて喜ぶ自信がある。
だが、この殺伐とした雰囲気が……――絶対に、あのマネキンに掴まってはいけないと言っている。
それだから、あかりも血相を変えて逃げたのだろう。
「――あっ!」
開いているお店のドアがあった。見た感じでは、マネキンは中にいないようだ。
もう体力も限界で、その中に入ろうと駆け寄っていると。端のほうにあかりが居て、シャッターを閉じようとしているのが見えた。
あかりと、パチリと目が合う。
「あかり……っ!」
しかし、無情にもシャッターは閉じられていく……――。
「う、嘘……まっ、待って!」
すぐ目の前まで、マネキンは迫って来ている。
『ワダジノォ"オ"オ"!! マデェ"エ"エ"! マ"ァ"ア"デェ"エ"エ"ーー!! バラ"バラ"ァ"ア"、ガイ"ダイ"ィ"イ"イ"、バラ"バラ"ァ"ア"ア"ア"ーーーッ!!!』
――ガシャンッ!! 目と鼻の先で、シャッターが閉められてしまった。
「ど、どうして……っ!」
もう、駄目だと思った時――……。
チリン、チリン。
綺麗な鈴の音が、辺りに響いた。
「ね、猫……?」
真っ白な美しい猫が、青い目を煌めかせてこちらを見ている。
白猫はくるりと向きを変え、路地裏の方に歩いていく――。
こんな近くに、路地裏があったのかと驚き。
これ幸いと、私も慌てて路地裏へと足を向けた。
不思議と、あれ程まで追いかけて来たマネキンは、ピタリと私を追いかけるのを止めた。
いや、どちらかというと……。この路地裏には入れないのかもしれない。
先ほどのシャッター付近で、ずっとウロウロと右往左往しているのだ――。
「一体、なんなの……?」
状況が、理解出来ない。
これは、夢なのだろうか?
『ニャ~ン』
「あ、猫……」
白い尻尾をふわりふわりと振りながら、前を優雅に歩いている。
この状況とあまりにミスマッチな光景に、混乱する。
――チリリリ、ン……。
「鈴が……」
鈴が、私の足元にコロコロと転がって来た。
「待って……これ! ――え?」
鈴に触れた瞬間。裂け目部分がグワリと開き、歯がびっしりと生えた大きな口になった。
「いっ、いやぁああーーー!!」
パクリと足から掬われるようにして、下半身が飲み込まれた。
上半身をバタつかせるが、まったく微動だにしない。
そして、全身がヌルリとしたものに包まれる。
――私が最後に見た光景は、三日月に光る青い目だった。
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