その罪+罰=身をもって贖う

未知 道

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鴇 美智瑠 ④

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 ♢◆♢


「――チ! ミッ………! ミッチー!!」
「……っう!」

 瞼を開くと――必死な表情を浮かべている、あかりが目の前にいた。

「な、なに……?」
「よ、よかったぁ~! ミッチー死んじゃったのかと思ったぁ~」

 頭を何処かにぶつけたのか、ズキズキとした痛みがある。

「えっ……なに、ここ」

 私達がいるところは、繁華街のような場所だった。

「わかんない~。目を開けたらぁ、私とミッチーだけ、ここにいたの~」

 修学旅行は、自然豊かな場所だ。間違っても、こんな栄えているところではない。

「とりあえず……誰か探そう」
「うん、そぉだね。みんな、大丈夫かなぁ……」

 あかりは、下を向き。シュンしている。
 何かを探すために、屈んでいたからだろうか。あかりは、どこも怪我を負ってはいないようだ。

 すきま風がヒューヒューと吹き、私の身体を冷やす。それが、どこか人の叫び声にも聞こえてくるから余計に、ゾクゾクとした寒気を感じる。

「ミッチーこれ、あげるぅ」
「え?」

 差し出されたものは、ホッカイロだった。

「へへ~。ミッチーも寒いと思ってぇ、2個取り出してたんだぁ~」
「あ、ありがとう」

 ありがたく受け取る。じんわりとした温かさが手に伝わって、ホッとした。

 ――ジジ……。ピィー、ガガガッ!!

『ただいまから、バーゲンセールを始めます! さぁ、さぁ、皆様お急ぎ下さい!』

「――え?」
「な、なに……あれ……?」

 スピーカーから聞こえるような音に、声。そして――……先程までは何もいなかった各店舗内に、マネキンがぎゅうぎゅう詰めになってこちらに視線を向けていた。

 ガクガクと歪な動きで、お互いに押し退け合っている。それはまるで、欲しい品物を奪い合おうとしている人間達のようだった。


「あ、あれ……! やばいよっ!」

 あかりは、ぶるぶると震え。私を置いて、素早く走って行く。

「ひっ……!?」

 私も、すぐに走り出したが。それと同時に各店舗のドアが開いた。


 ガキ、ガキ、ギギギ……! 

『ワタシノヨ、ワ"タシノォ"オ"ーーー!!』
『ドケ、ドケ、ドゲゲゲーーー……』
『アシ、ウデ、アタマァア"ア"』

 錆び付いた不快な音と、ダミ声に、ゾワリと怖気立つ。


「はっ、はぁ……はぁ……!」

 あかりの姿が見えない。そういえば、足が早いんだ……と前に言っていたのを、チラリと聞いたことがあった。
 勘も良くて、足も早いとくれば。このよく分からない世界でも、生存率が高そうだ――と他人事のように考えていた。

 もう、ただのドッキリでした! なんて言われれば泣いて喜ぶ自信がある。
 だが、この殺伐とした雰囲気が……――絶対に、あのマネキンに掴まってはいけないと言っている。
 それだから、あかりも血相を変えて逃げたのだろう。


「――あっ!」

 開いているお店のドアがあった。見た感じでは、マネキンは中にいないようだ。
 もう体力も限界で、その中に入ろうと駆け寄っていると。端のほうにあかりが居て、シャッターを閉じようとしているのが見えた。

 あかりと、パチリと目が合う。

「あかり……っ!」

 しかし、無情にもシャッターは閉じられていく……――。

「う、嘘……まっ、待って!」

 すぐ目の前まで、マネキンは迫って来ている。

『ワダジノォ"オ"オ"!! マデェ"エ"エ"! マ"ァ"ア"デェ"エ"エ"ーー!! バラ"バラ"ァ"ア"、ガイ"ダイ"ィ"イ"イ"、バラ"バラ"ァ"ア"ア"ア"ーーーッ!!!』

 ――ガシャンッ!! 目と鼻の先で、シャッターが閉められてしまった。

「ど、どうして……っ!」


 もう、駄目だと思った時――……。

 チリン、チリン。

 綺麗な鈴の音が、辺りに響いた。


「ね、猫……?」


 真っ白な美しい猫が、青い目を煌めかせてこちらを見ている。

 白猫はくるりと向きを変え、路地裏の方に歩いていく――。

 こんな近くに、路地裏があったのかと驚き。
 これ幸いと、私も慌てて路地裏へと足を向けた。


 不思議と、あれ程まで追いかけて来たマネキンは、ピタリと私を追いかけるのを止めた。
 いや、どちらかというと……。この路地裏には入れないのかもしれない。
 先ほどのシャッター付近で、ずっとウロウロと右往左往しているのだ――。


「一体、なんなの……?」

 状況が、理解出来ない。
 これは、夢なのだろうか?


『ニャ~ン』
「あ、猫……」

 白い尻尾をふわりふわりと振りながら、前を優雅に歩いている。
 この状況とあまりにミスマッチな光景に、混乱する。


 ――チリリリ、ン……。


「鈴が……」


 鈴が、私の足元にコロコロと転がって来た。

「待って……これ! ――え?」

 鈴に触れた瞬間。裂け目部分がグワリと開き、歯がびっしりと生えた大きな口になった。

「いっ、いやぁああーーー!!」

 パクリと足から掬われるようにして、下半身が飲み込まれた。
 上半身をバタつかせるが、まったく微動だにしない。
 そして、全身がヌルリとしたものに包まれる。


 ――私が最後に見た光景は、三日月に光る青い目だった。


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