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鴇 美智瑠 ②

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「あははははっ!! 俺達、名演技だったな? マジうける!」
「ふふっ! でも、あかりの『悲しいィイ~ですぅ』って、悲しんでるように見えなくてヒヤヒヤしたよ」
「えぇ~? めちゃ、悲しんでるよ~に見えたっしょ? だって、オバーチャン泣いてお礼言ってたじゃん。『未来のために泣いてくれて、ありがとう』ってぇ~! ねぇ~、みぃーこぉ?」
「う、うん……」
「それより、このままゲーセン行かね? 今日、部活ねぇからさぁ~。試験も終わったし、孝も行くよな?」
「ん? ああ、行くよ」

 お葬式の帰りとは思えない程の、陽気な笑い声が響く――。
 最悪なことに、この人達と帰り道が同じなのだ。席も近くで、帰り道も一緒だなんてツイてない。


 結局、田中や清水が言っていたように。学校は、青城さんのいじめの事を表沙汰にはしなかった。
 そう出来たのも、青城さんは両親が小さな頃に事故で亡くなり、父方のおばあさんに引き取られたからだ。
 しかも、そのおばあさんは持病を持っていて、入退院を繰り返している。だから、己の事で精一杯というのもあり、様々な違和感に気づくことも出来なかったのだろう。


「……ん? 君って、転校生だったよな?」

 石田と目が合い、話しかけられる。

(……うわ、最悪。話かけられた)

「あ~、はい。そうですけど……」
「あはっ! 同級生なのにぃ、敬語とか。ウケルんですけどぉ~。普通に話してい~よ。私、あかり~よろしくぅ」
「今さらだけど。俺は、賀川 剛だ。よろしくな」


 石田に続き、竹内と賀川が私に顔を向けてきて。それで、残りの人達も私を振り返って見てくる。
 聞いてもいないのに、順番に自己紹介をされ。全員に下の名前で呼んで良いと言われた。


「ねぇ~、ミッチーって呼んでいい~?」
「え……。ああ~、うん……」

 私の名前――とき 美智瑠みちるで『ミッチー』か。安直だ。

「お前、ホントあだ名つけんの好きだよな。めんどくね?」

 剛は、あかりに呆れた顔を向けている。

「りぃ、みぃーこ、たけっち、こっこ、けけ……だっけ? 逆に呼びづらくないん?」
「えぇ~。だってぇ、あだ名、かわい~じゃん」
「ふふ、そう思ってんの、あかりだけでしょ」

 兼次と凜々花にも言われ。あかりは、むくれた顔になる。

「もぉ、いいじゃ~ん! ね、いいよね? ミッチー、けけ、みぃーこ!」
「俺は、どうでもいい」
「えっ、う、うん。いいよ……」
「……まぁ」

「ほらほら~」とあかりはドヤ顔をして、難癖をつけた友人に絡んでいる。


 その後――話の流れで、私もゲーセンに誘われたが。用事があるからと断る。



(この人達は、罪悪感って無いの……?)


 ――そう、あまりにも普通だった。

 自分達がした『いじめ』という行いは、大したことではなく。ただの『遊び』だと思っているのだろう。

 そして、いじめを見て見ぬふりをし、看過していた『傍観者』である他のクラスメイトも同じくらい、罪深い。
 けど、私も……。目の前で、青城さんがいじめられていたとしたら、助ける選択をしない『傍観者』になっていたかもしれないのだ。
 そんなことを、グルグルと考えていたからか。胸の中にチクチクするような気分の悪い感覚が……長い間ずっと続いていた――。


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